アーティストとイシュアの組み合わせが増えれば、限定の特典も増えていく。ただ、ファンダム経済ではファンへの向き合い方を誤ると逆効果になる。Visaの会員だけが買えるということは、会員でないファンは買えないということでもある。里村氏も7月、限定感や独占感を出す際には「自分たちは参加できないのかという、変な恨みにつながらないよう、寄り添い方に気を付けたい」と話していた。
ユニバーサル ミュージックの側も線を引いている。玉木氏がVisaと組むにあたって重く見たのは、同じ方向を向いてものを作れるかどうかだ。「安易な道を求めると、それぞれのアーティストにとっては必ずしも幸せではないかもしれない」
『イン・ザ・メガチャーチ』は、ファンダム経済を3つの視点から描く。朝井氏の言葉では「構築する側」「仕掛けられる側」「かつて深くのめり込んでいた側」だ。同じ熱狂でも、立つ側が変われば見え方は変わる。特典の条件を満たそうと会員が利用額を増やすことは、構築する側から見れば施策の成功である。仕掛けられる側から見れば、推しのために出費を重ねたことになる。Visaとユニバーサル ミュージックが立つのは構築する側だ。里村氏が「変な恨み」を口にし、玉木氏が「安易な道」に触れたのは、それぞれの立場からファンの熱狂に手を入れる危うさを、当事者として自覚しているからだろう。
その自覚を保ったまま規模を広げられるか。限定の特典は、組むイシュアや会員が増えるほど限定ではなくなる。ユニバーサル ミュージックはJCBとも組んでおり、他の国際ブランドが別のレーベルやIPと組む余地もある。似た特典がどのブランドでも手に入るようになったとき、イシュアが手を挙げ続ける理由を、Visaは利用額や参加率の数字で示せるか。限定の価値を保ったままどう広げるかは、推し活で顧客を囲い込もうとする企業に共通する課題だ。
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