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春のビデオカメラ総括麻倉怜士のデジタル閻魔帳(3/3 ページ)

» 2010年03月10日 08時49分 公開
[渡邊宏,ITmedia]
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麻倉氏: 日本ビクター「GZ-HM1」は裏面照射CMOSセンサー“B.S.ICMOSセンサー”の搭載に、強化されたブレ補正機構とトレンドを押さえた作りですね。同社ビデオカメラ“Everio”は他社製品に比べると低価格な製品が目立ちますが、GZ-HM1はハイエンドとしての製品作りがなされています。

photo GZ-HM1

 シーソー型ズームレバーや最高600fpsのハイスピード撮影などは前モデルにあたる「GZ-HM400」と変わりませんが、裏面照射CMOSセンサーの採用によって室内(暗部)での映像がよくなりました。暗部階調の出方をいえば、同じ裏面照射CMOSセンサーを搭載したソニー製品より優れ、ノイズも少ないです。これは絵づくりでしょう。

 液晶のとなりに電子式スライダーを設ける「レーザータッチオペレーション」を採用しますが、操作に慣れが必要ですし、液晶の画面サイズも2.8型と小さめです。シーソー型レバーは肩に担ぐ大型機ならば正解ですが、片手で持つことが前提とされる家庭用ビデオカメラではシーソー型レバーの操作に中指と人差し指が必要となるので、本体保持のために薬指と小指しか使えないのが難しいところですね。

 屋内/屋外問わずに感じられるのは、記憶色傾向がかなり強いことです。鮮やかではありますが、ややもすればべったりとした濃度感を感じることもあります。屋外では彩度感が高く、色調も濃いです。手ブレ対策については“アクティブ”モードを備えましたが、他社に比べるとまだまだという印象ですね。

麻倉氏: キヤノンのiVIS「HF S21」は撮像素子こそ既存モデルのままですが、ソニーに次いで虹彩絞りを採用してきました。同社製品の映像は明るい環境ではハッキリ・クッキリの傾向なのですが、裏面CMOSセンサーではないハンディを埋めるためデジタルノイズリダクションを大いに効かせた結果か、暗い画面ではボケの多いふわっとした感じの映像となっています。

photo

 鏡胴をイメージさせるボディはサイズもやや大きめで、指をかけるところが少ないのがホールディングの安定性として気になります。今回取りあげた4製品の内、電源スイッチが独立して設けられているのはこの製品だけで、明示的にオン/オフできるというメリットもありますが、液晶の開閉に連動式する方式も検討すべきですね。液晶は今期のモデルからタッチパネルが採用されましたが、まだ、操作性はこなれていない印象を受けました。

 解像感は非常によいですし、ホワイトバランスの追従性も良好です。若干、色調については記憶色指向に振っても良いように思えます。明るい場所での解像感・鮮明感は素晴らしいものがありますが、暗い場所の写りについては力を入れる必要があるでしょう。やはり根本的な問題は、裏面照射CMOSセンサーではないことです。秋には裏面照射CMOSセンサーを搭載した製品の登場を期待します。

 AFにも力が入っていますが、これも他社も強化を進めています。次第に「キヤノンならでは」という強みが弱まっているように感じられます。次モデルでは、裏面照射CMOSセンサーを搭載した、カメラメーカーならではという物づくりを期待したいですね。キヤノンは唯一のカメラメーカーなのですから、なるほどキヤノンの技術は素晴らしいと注目するような製品を期待したいですね。


麻倉氏: ここまで各社の最新製品を見てきましたが、ビデオカメラは、そろそろ新しいユーザー、新しい使い方、新しいスタイルを打ち出すべき時期に来ていると感じます。従来的な製品も方向性としては“アリ”なのですが、ひとつの考えとして、「デジカメに近いスタイルながら動画性能に優れた製品」の需要はこれから増すのではないかと思います。静止画と動画が縦横に取れるコンパクトなカメラです。そうした新しい立ち位置の製品やユーザーを発見あるいは想像していくことが求められると思います。

麻倉怜士(あさくられいじ)氏 略歴

 1950年生まれ。1973年横浜市立大学卒業。 日本経済新聞社、プレジデント社(雑誌「プレジデント」副編集長、雑誌「ノートブックパソコン研究」編集長)を経て、1991年にデジタルメディア評論家として独立。自宅の専用シアタールームに150インチの巨大スクリーンを据え、ソニー「QUALIA 004」やBARCOの3管式「CineMAX」といった数百万円クラスの最高級プロジェクターとソニーと松下電器のBlu-ray Discレコーダーで、日々最新AV機器の映像チェックを行っている、まさに“映像の鬼”。オーディオ機器もフィリップスLHH2000、LINNのCD12、JBLのProject K2/S9500など、世界最高の銘機を愛用している“音質の鬼”でもある。音楽理論も専門分野。
 現在は評論のほかに、映像・ディスプレイ関係者がホットな情報を交わす「日本画質学会」で副会長という大役を任され、さらに津田塾大学の講師(音楽史、音楽理論)まで務めるという“3足のワラジ”生活の中、精力的に活動している。

著作


「ホームシアターの作法」(ソフトバンク新書、2009年)――初心者以上マニア未満のAVファンへ贈る、実用的なホームシアター指南書。
「究極のテレビを創れ!」(技術評論社、2009年)――高画質への闘いを挑んだ技術者を追った
「オーディオの作法」(ソフトバンククリエイティブ、2008年)――音楽を楽しむための、よい音と付き合う64の作法
「絶対ハイビジョン主義」(アスキー新書、2008年)――身近になったハイビジョンの世界を堪能しつくすためのバイブル
「やっぱり楽しいオーディオ生活」(アスキー新書、2007年)――「音楽」をさらに感動的に楽しむための、デジタル時代のオーディオ使いこなし術指南書
「松下電器のBlu-rayDisc大戦略」(日経BP社、2006年)──Blu-ray陣営のなかで本家ソニーを上回る製品開発力を見せた松下の製品開発ヒストリーに焦点を当てる
「久夛良木健のプレステ革命」(ワック出版、2003年)──ゲームソフトの将来とデジタルAVの将来像を描く
「ソニーの革命児たち」(IDGジャパン、1998年 アメリカ版、韓国、ポーランド、中国版も)──プレイステーションの開発物語
「ソニーの野望」(IDGジャパン、2000年 韓国版も)──ソニーのネットワーク戦略
「DVD──12センチギガメディアの野望」(オーム社、1996年)──DVDのメディア的、技術的分析
「DVD-RAM革命」(オーム社、1999年)──記録型DVDの未来を述べた
「DVD-RWのすべて」(オーム社、2000年)──互換性重視の記録型DVDの展望
「ハイビジョンプラズマALISの完全研究」(オーム社、2003年)──プラズマ・テレビの開発物語
「DLPのすべて」(ニューメディア社、1999年)──新しいディスプレイデバイスの研究
「眼のつけどころの研究」(ごま書房、1994年)──シャープの鋭い商品開発のドキュメント


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