今だからこそ読むべき――神亡き世界を描いた短編連作小説『神は死んだ』私設図書館シャッツキステ86冊目

本大好き司書メイドの好感度を上げ、年に一度のデート権を得るべく繰り広げられるメイドたちのラブアタック。今日はレイラからの紹介です。

» 2015年01月23日 12時00分 公開
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 小雪ちらつくこの街の片隅に、メイドが営む私設図書館がありました。

 そこには書架を守る司書メイドがいます。ほんわりおっとりした司書メイド ミソノに、淡い思いを抱くメイドもいるようです。

 彼女の好感度を上げようと、今日もお気に入りの1冊を持って、書架にメイドがやってきます。

今だからこそ読むべき――神亡き世界を描いた短編連作小説『神は死んだ』

レイラ

ミソノさん、あけましておめでとう。


ミソノ

うふふ。年が明けてだいぶ経ちますが、新鮮な気持ちですよねー。今年もよろしくお願いしますね。


レイラ

そういえば、ミソノさんは初詣には行った? 初詣と言えば、やっぱりおみくじよね。


ミソノ

あら、レイラさんはおみくじ引くんですねー。


レイラ

今年は末吉だったわ。「夕立ちはやがて晴れて、こずえに涼しく風が吹くでしょう……」と。


ミソノ

私も末吉でした! 「秋の夕べは風が騒いでも、静かに入り江を目指して」とのことでした。なんだか不思議と心の指針になるような気がしますね。


レイラ

ところでミソノさん、今年お参りした神社の神様が実は「もう死んでいる」って聞いたら、どうします?


ミソノ

えぇっ えーと、どうしましょう。そもそも神様って亡くなるのかしら……。


レイラ

神道だと天神様みたいに元は人間で死んで神様になった方もいれば、伊邪那美命みたいに死んで黄泉平坂にいる神様とかいらっしゃるから、神様が死んだと言われても「ふーん」ってなってしまうわよね。


ミソノ

哲学者のニーチェが「神は死んだ」って名言を残したと言いますけど、そういう意味でもないですよね。


レイラ

実は、今回紹介する小説のタイトルが『神は死んだ』なの。


『神は死んだ』(著:ロン・カリー・ジュニア 訳:藤井光/白水社) 『神は死んだ』(著:ロン・カリー・ジュニア 訳:藤井光/白水社)

レイラ

これは現代と、その少し先の未来を舞台にした短編連作小説なのだけれど、お話の冒頭で本当に神様が死にます。


ミソノ

あら、そんないきなり。このお話で出てくる神様って、いわゆるキリスト教の神様ですか?


レイラ

そうです。唯一神として崇められているあの神様が、死にます。


ミソノ

突然なことで、驚くでしょうねー……。なぜ亡くなったのかしら?


レイラ

えーと、このお話で神様は自分が救済出来ない人間への償いとして、紛争地帯に暮らすディンカ族の女性に姿を変えて、ある少年を捜す旅に出るのですが、その途中で紛争に巻き込まれ死んでしまいます。


ミソノ

死んだら神様に戻るのではなく、そのまま死んでしまうのですか?



レイラ

そうなんです。もう、意味が分からないですよね。そんな事して何になるんだ? とか、神様無駄死にじゃない? とか。あと、あそこの神様は自分が死ぬくらいなら旧約聖書のノアの箱船やソドムとゴモラの時みたいに人間の方を滅ぼすのでは? とか、審判の日って無くなっちゃったの? とか。


ミソノ

このお話の中では神様は普通の人間に化けていて、そのまま死んでしまったんですよね? 他の人達は神様が死んでしまったことに気がつくのでしょうか?



レイラ

野犬が野ざらしで死んでいた神様の死体を食べたことで奇跡が起こり、言葉が話せるようになったことをきっかけに神の死が世界中に告知されます。


ミソノ

えっ……? えっえっ? 野犬が……ええっ?



レイラ

このエピソードは物語の中盤にある「神を食べた犬へのインタビュー」で語られるのですが、このワンちゃんが神様を食べてからインタビューを受けるまでの経緯がすごく……やるせないです。あと、神様の味について書かれているのは、私の中でポイント高いです。


ミソノ

神様の味……知りたいような知りたくないような。ところで、神様が死んだらどうなってしまうのでしょう? 天変地異とか起こるのでしょうか。



レイラ

そう、それがこのお話の面白いところで、神様が死んでも、何も変わらないんです。普通に朝が来て、夜が来て、季節がめぐります。でも「世界」は何にも変わらないのに、「社会」がまったく変わってしまうんです。


ミソノ

確かに、あの神様を信じている人が多い国では大変なことになりそうですね。



レイラ

まず、治安が悪化して、人々は無気力になり、聖職者が自殺します。「橋」や「小春日和」というタイトルのお話がちょうどその時期を描いていて、両方ともすごく面白いです。とくに「小春日和」はネイティヴ・アメリカンの思想を意識したタイトルになってるところや、その結末がすごく好きです。1人の少女の成長と門出を描いた「橋」も全体的な描写や雰囲気が良いのでオススメです。


ミソノ

神が死んだことで社会が混乱した後はどうなるのでしょう?


レイラ

“C A P A”という組織が世界を立て直すのですが、これがちょっと微妙なのですよね。


ミソノ

微妙、というと?


レイラ

「神様はわれらを見捨てたもうた。救われる道は子どもにある」と言って、人々は純真無垢な子どもに依存するようになるのです。で、子どもたちの意見に左右されて、大人がまともな判断をしなくなったのを危惧して“児童崇拝予防局C A P A”を設立。という流れなのですが、その予防の仕方が、「どうしてこうなった……」という感じで。


ミソノ

いわゆるディストピアな世界になってしまうのですね。


レイラ

そうですね。C A P Aの時代を描いた「偽りの偶像」に続き、その数十年後を描いた「救済のヘルメットと精霊の剣」や「退却」では“ポストモダン人類学軍”と“進化心理学軍”という2つの学派が戦争を繰り広げているようすがつづられています。


ミソノ

神様が死んで変わってしまったこと、死んでも変わらなかったことが描かれていて面白そうですね。


レイラ

そうなのよ。色々考えたくなるお話が多い作品なので、ぜひ読んで感想聞かせて下さいね。


ミソノの好感度パラメーター

本への愛情、オススメの仕方が上手だとミソノの好感度アップ! それぞれミソノの心を占めている割合は……?

エリス:64% レイラ:98% サヤ:96%


本日のメイド

ミソノ ミソノ:いつもニコニコ、図書館を影から支える司書メイド。好きなジャンル:絵本、児童書、旅行記、本、紙、図書館
レイラ レイラ:森育ちのツンデレ魔女。お休みの日には愛猫とお気に入りの紅茶でまったり読書。好きなジャンル:文化 ゲーム ファンタジー 魔女 雑学

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