今こそ“強いIT部門”によるインフラ環境の整備・強化を「2009 逆風に立ち向かう企業」:ヴイエムウェア

「仮想化は手段であって目的ではない。このような経済環境だからこそ“強いIT部門”によるインフラ環境の整備・強化が必要」と話すヴイエムウェア代表取締役社長の三木泰雄氏。新時代のデータセンターの根幹をなす仮想化技術導入がますます加速しそうだ。

» 2009年01月23日 00時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 「このような経済環境だからこそ“強いIT部門”によるインフラ環境の整備・強化を」――そう話すのはヴイエムウェア代表取締役社長の三木泰雄氏。1998年の設立以来、VMwareは仮想化業界の巨人として君臨し続けてきたが、この間、仮想化技術はサーバの仮想化だけでなく、ネットワークやストレージも含めたインフラ全体にそのリーチを拡大しつつある。仮想化市場のトッププレイヤーは次世代のインフラをどう考えているのか。同氏に話を聞いた。

三木泰雄氏 「本番環境で使うための機能がますますリッチになる中、それをサポートできるエンジニアの育成はやはり急務」と話すヴイエムウェア代表取締役社長の三木泰雄氏

2008年は十分な成果が、広がる仮想化の適用範囲

ITmedia 欧米大手銀行の業績悪化に伴う金融不安が拡大した2008年は、日本を代表する優良企業ですら、誰も予想をしなかった事態を迎えました。VMwareの2008年はどんな1年だったのでしょう。

三木 厳しい経済環境が続いていますが、われわれの日本でのビジネスは十分な成果を挙げることができた1年でした。ELA(Enterprise Licence Agreement)と呼ぶ大型の包括契約契約が国内でも数件受注に至ったことなどをみても、仮想化がメインストリームの技術になったことを感じます。

ITmedia 仮想化市場の動向についてはどう感じていますか。

三木 仮想化技術の認知が進んだことで、2008年に導入をはじめた顧客も多いのですが、それ以前から導入を進めていた顧客も、部門レベルから全社レベルに展開するケースが多く出てきました。また、使われ方もサーバ統合だけではなく、ディザスタリカバリやデスクトップ仮想化など、幅が広がってきているという実感もあります。

 ミッションクリティカルな領域での事例も増えてきました。2007年12月、SAPは「NetWeaver」をはじめとする自社のERP/CRMアプリケーションをVMwareの仮想プラットフォームに対応させる発表を行いましたが、こうしたアプリケーションベンダーのサポートが進んだことも仮想化技術の導入を後押ししています。

ITmedia ハイパーバイザー単体を語る時代から、ストレージやネットワークも含めた仮想化プラットフォームを効率的に運用しようとする動きが顕著に見られるようになってきました。

三木 仮想化が企業システムのさまざまな課題を解決できることは間違いなく、より効率のよいデータセンターは、サーバやストレージ、ネットワークといった技術が仮想化プラットフォームの中で融合したものとして提供されることになるでしょう。それに伴い、運用管理の分野はこれらのベンダーとの連携が欠かせず、事実、現在急速に進化を遂げつつあります。日立製作所が自社のJP1でVMwareをサポートするようになったことなどもその1つです。

クラウド時代に向けたデータセンターの標準化

ITmedia 2008年はクラウドコンピューティングというキーワードも生まれました。VMwareも2008年9月に開催した「VMworld 2008」でVDC-OS(the Virtual Datacenter Operating System)やvCloudなどのビジョンを示し、クラウドコンピューティングインフラの構想を発表しました。

三木 テクノロジーが継続的に発展するためには、その定義が明確である必要がありますが、現在のクラウドの定義は人それぞれです。コンシューマ向けに仮想マシンを貸し出す、といったレベルではなく、企業で使うためのクラウドを考えたとき、最も求められるものはサービスレベルの保証にほかなりません。仮想化環境でもアプリケーションレベルでSLAを保証していくことが今後求められるでしょう。

 社内データセンターだけでなく、第3者が提供するデータセンターも同じ仮想化プラットフォームと見なして連携させるvCloud構想にみられるよう、業務アプリケーションや仮想マシンを動作させるプラットフォームは、サービスレベルや負荷に応じて任意のデータセンター(もしくはクラウド)を自由に選べるようにしていくことが必要であると考えます。そこで用いられている仮想化プラットフォームがわれわれのものであればそれはうれしいですが、そうでなくても共通の仕様に基づいていれば連携も図れます。現在この業界ではvCloudイニシアティブと呼ぶ協業団体を発足させ、各社が持つ仮想化ソリューションを連携もしくはオーバーラップするためのインタフェースと定義を標準化し、データセンター環境の標準化を推進しています。そうした動きの中で登場したのが、Cisco Nexus 1000Vです。こうした動きが地固めされたのが2008年であり、2009年はこの動きが加速するでしょう。いずれにせよ、インフラの仮想化は、次の時代の運用管理において重要な役割を果たすでしょう。

ITmedia 景気の悪化によって多くの企業で大規模な雇用調整が続いています。そうした中で、デスクトップの仮想化は今年かなり盛り上がると思いますが、こちらはどうみていますか。

三木 そうですね。デスクトップ仮想化は非常に熱い市場です。われわれも、自社のデスクトップ仮想化製品「VMware View」(旧VMware VDI)の機能強化を重点項目に掲げています。VMware Viewでは、これまでのデスクトップ仮想化が抱えていた課題を解決するオフラインVDIのサポートなども発表しており、2009年はブレードサーバとVMware Viewを組み合わせた導入事例が増えてくるのではないかと考えています。

ITmedia 今日、仮想化市場には数多くのプレーヤーが存在しています。トッププレイヤーとして今どのような課題を感じていますか。

三木 欧米と比べると(仮想化市場の広がりには)スピード感の違いがあります。この理由を考えてみると、日本では傾向としてIT部門のガバナンスが弱いことも影響しているように感じています。例えば、IT部門は社内にサーバが何台あるかを正確に把握できているでしょうか。IT部門が把握していないサーバが社内には数多く稼働しているかもしれません。こうしたカバナンスの弱さがITシステムの変革を図ろうという際に足かせとなりかねないのです。

 これは仮想化の導入に限りませんが、自社がどんな課題を抱え、それをどう解決していくかを、技術に詳しい経営層もしくはIT部門が目標として定め、トップダウンで強力に進めていくことが求められています。これは本質的な話であり、逆にいえば、この本質を外してしまえば、いつまでも期待する成果にたどり着かないというわけです。

ITmedia 2009年はどういった年にしたいと考えていますか。

三木 “強いIT部門”によって企業のインフラが強化される年にしたいと考えます。景気がいいときはIT部門の予算というのは基幹システムの刷新など、ビジネスアプリケーションに対して投資される傾向がありました。しかし、現在のような経済環境下では、むしろインフラに対して見直しをかける機運が高まっています。

 問題はその手段で、今日では半年から長くても1年で投資対効果が見える手段が求められています。そうした手段は幾つかあるでしょうが、わたしたちは仮想化技術がその中で最も有効かつ有望だと考えますし、本番環境での実績と豊富なソリューションで、そうした顧客の要求に応えられる提案をしていきたいですね。

 また、大企業から中堅中小企業にも仮想化技術を広げていきたいと考えています。こちらについては、アプリケーションレイヤーまで含めてサービスを提供するホスティング事業者の登場が大きな役割を果たすのではないかと思います。

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