破竹の勢いを見せるワイヤレスブロードバンド市場：アナリストの視点（2/2 ページ）

[中原隆治（富士キメラ総研），ITmedia]

　端末の急先鋒ともいえるNetbookは、ビジネスパーソンが活用するPCとして利用が進むものの、一般的にはモバイル環境で必須といえる端末ではない。常に持ち運びができ、かつ活用される端末としては、携帯電話やiPodのようなデジタルメディアプレーヤー、携帯型のゲーム端末が挙がる。

　これらの端末には無線LAN機能を備えた機種が増えている。2008年頃からは、無線LANを搭載し、モバイル環境で利用できるモバイル／無線LAN変換機といえる製品が多数登場している。端末に無線LANさえ搭載されていれば、いつでもモバイル端末として利用できるのだ。この無線LAN変換機能は一部のスマートフォンにも搭載されている。

　アプリケーションについては、インフラおよび端末と連携したサービスの需要が促される。FTTHサービスをはじめとするブロードバンド回線の普及により、サービスの低料金化と伝送速度が向上した。その結果、映像や音楽配信、オンラインゲーム、オンラインストレージといったWebブラウザ経由で使うアプリケーション（サービス）を、さまざまな環境から利用したいというユーザーのニーズにも応えられるようになったからだ。

　固定ブロードバンド回線の代わりに定額制データ通信サービスを利用したいとする要望も多い。学生の一人暮らしや転勤の際に、固定電話やインターネット回線をモバイル回線に一本化するケースが既に出てきている。モバイルの伝送速度は今後も向上する見通しで、固定ブロードバンドの代替サービスとしても申し分ない。ただし、映像ストリーミングや高速アップロードが必要なアプリケーションを利用する場合は、FTTHサービスが優位になるだろう。

図2：定額制データ通信サービス市場規模推移（出典：富士キメラ総研『2009 ワイヤレスブロードバンド市場の現状と将来展望』）

公衆無線LANサービス市場

　モバイルサービスではないが、ワイヤレスブロードバンド市場に該当する分野として、無線LANを利用した公衆無線LANサービスがある。同サービスは2002年から提供され、主にビジネス用途でノートPCを使うコンシューマーの利用が中心だ。アクティブユーザーは10万人弱で、モバイルサービスと比較すると、市場規模の成長は横ばいにとどまっている。

　同サービスの強みは「高速通信」と「低料金（定額制）」であり、無線LANの普及率の高さが特徴となっている。モバイルサービスとは一部競合しており、この特徴を生かせる端末やアプリケーションが登場しない限り、市場は変化しない。

　今後もノートPCの利用が中心とみられるが、「iPod touch／iPhone」や「ニンテンドーDS」などの端末利用者が増えている。今後は、無線LAN搭載端末の種類が増えたり、IDやパスワードなしで利用できるNTTコミュニケーションズの無料サービス「HOTSPOT connect」などが一般的になるにつれて、同市場は拡大していく見通しだ。

　既に、無線LANを搭載した携帯電話が2009年夏モデルとして発表されている。デジタルスチールカメラやPND（Personal Navigation Device）といった既存端末に加え、新端末への無線LANの搭載が期待される。

MVNOサービス市場

　MVNOは移動体通信事業者（Mobile Network Operator：MNO）からネットワークインフラの一部を借り受けた事業者を指す。MVNOは自前の移動無線通信設備を持たなくても、大規模な設備投資をせずにサービスを展開できる。移動体通信事業者も余った無線帯域を貸し出せるという利点がある。同市場は2007年頃まではPHS回線を利用したサービスが中心だったが、総務省がMVNOの新規参入を促進したことで、多数の新規事業者がサービスを展開し始めた。

　MVNOは、例えば「カーナビ＋モバイル＝テレマティクス」「セキュリティサービス＋モバイル＝盗難防止サービス」といった新たな市場の創出を見込んでいる（この例ではカーナビメーカーやセキュリティサービス事業者がMVNO）。自社が得意とする事業にモバイルを組み合わせることで、付加価値を持ったサービスを提供できるようになる。MVNOのすそ野は広く、今後も参入事業者の増加とともに市場が拡大していくと考えられる。

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