「正しい肩書き」が作る未来のあなたビジネスマンの不死身力(2/2 ページ)

» 2009年08月01日 08時00分 公開
[竹内義晴,ITmedia]
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ビジョンが明確な肩書きは人に響く

 このやり方を客観的に理解するために、パン屋さんという職業の肩書きを付けてみよう。パン屋さんはパンを作って売ることが仕事だ。肩書きを付けると「わたしはパン屋だ」となる。だが、世の中にはたくさんのパン屋さんがある。この肩書きだと、何を売りにしてパンを販売しているのかが分からないし、それほど買いたいとも思わない。

 そこで目的や価値観を具体化して、「わたしは○○のパン屋だ」という肩書きを付けてみる。 健康重視のパン屋さんなら「わたしは自然の素材を最大限に生かした、体にやさしいパンを提供するパン屋だ」となる。味重視のパン屋さんなら「わたしはやわらかさにこだわり、子供からお年寄りまで愛されるパンを作るパン屋だ」となるだろう。

 ここで「わたしはアンパンにこだわったパン屋だ」など、分野を絞った肩書きを付けるとどうなるか。アンパンにこだわるのはかまわないが、並のアンパンなら顧客はがっかりしてしまう。目的や価値観を肩書きに取り入れたほうが、顧客の心にも響く。

 もうお分かりだろう。単なるパン屋さんよりも肩書きを持ったパン屋さんのほうが、ビジョンは明確になっている。きっと普通のパン屋さんよりも気持ちを込めてパンを焼くだろうし、顧客は肩書きを持ったパン屋さんのほうがおいしいパンを焼くと考え、実際に購入したくなる。

 ここで、パン屋さんをプログラマーに置き換えてみてほしい。肩書きを持ったプログラマーの方がビジョンが明確になっているために、いい仕事をしようという意識が芽生えるのではないだろうか。仲間にとってはその人と一緒に仕事をしたいと感じるはずだ。

肩書きはやる気も生む

 「肩書きが本当に役に立つのか?」と疑う方には、わたしの体験談をお話ししておきたい。わたしは今、コーチという職業に就いている。人材開発や組織の目標達成を支援する仕事だが、コーチと説明しても理解が得られにくく、どうしたらいいのか悩んでいた。

 また、コーチという仕事をずっと続けるに当たり、自分の内側からわいてくる仕事への動機付けのようなものが欲しいと思っていた。その時、ある本を読んで「肩書きをつける」という方法を知った。最初は「あまり役に立たないだろう」とも思ったが、「自分は何をしたいのか」を考えるきっかけとして、とりあえずやってみようと考えた。

 肩書きの設定には、「創発」という言葉を取り入れた。これは予想もしなかった構造が変化することを示す言葉だ。わたしはこの言葉と出会い、「仕事の中で、クライアントが予想できない結果を起こせるような手伝いがしたい」と考えるようになった。

 また創発は英語で「emergence」と表記し、その語源は危機を表す「emergency」であることが分かった。これと現在の経済の危機的状況を照らし合わせてみた。この状況はこれを単なる不況ではなく、予想もしなかった構造の変化が生じる予兆かもしれないと考えた。そこで肩書きを「エマージェンスコーチ――危機(Emergency)を創発(Emergence)へ」と付けた。

 肩書きを変えた瞬間から、小さな行動を少しずつ積み重ね、創発を起こす人になりたいという意識が芽生えた。ビジョンが明確になり、責任感がいっそう強くなったと同時に、新たなやる気がわき上がってきた。自分の仕事をほかの人に説明しやすくなったし、コーチングのスキル以上に目的を成し遂げたいという意志を大事にするようになった。


 「わたしは○○のプログラマーだ」――。あなたは○○の中に何を入れるだろうか。肩書きには、セルフイメージを上げ、仕事のビジョンを明確にし、やる気を生み出す力がある。職種に対する一般的な思い込みを抜け出すためにも、思わずワクワクするようなセルフイメージを描いてみよう。あなたが真剣に考えて生み出したセルフイメージは、あなたの未来も作り上げていくのだ。

少し考え方を変えることで、仕事を楽しく充実したものに。「ビジネスマンの不死身力」では、そのノウハウをお伝えする。


著者プロフィール:竹内義晴(たけうちよしはる)

 竹内義晴

テイクウェーブ代表。自動車メーカー、コンピュータ会社を経て、現在は、経営者・起業家・リーダー層を中心としたビジネスコーチング、人材教育に従事。システムエンジニア時代には、プロジェクトマネジメントにコーチングや神経言語学を生かし、組織活性化を実現。この経験を生かして、クライアントの夢が現実になるよう、コーチングの現場で日々奮闘している。アイティメディア「オルタナティブ・ブログ」の「竹内義晴の、しごとのみらい」で、組織作りやコミュニケーション、個人のライフワークについて執筆中。


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