「VMforce」でJavaデベロッパーをクラウドに導くSalesforceとVMwareTrend Insight

Java PaaS「VMforce」を発表したSalesforceとVMware。クラウド化したJavaアプリケーションは、既存資産を生かしながら、Force.comデータベースと強力に連携することで新たな可能性を持つに至った。両社はJavaデベロッパーをクラウドに導けるのだろうか。

» 2010年04月28日 19時30分 公開
[西尾泰三,ITmedia]
マーク・ベニオフ氏は今回の発表にかなり興奮していた様子が口調からうかがえた

 米Salesforce.comと米EMC傘下のVMwareが4月27日(現地時間)に発表したJavaクラウドサービス「VMforce」。その骨子は、VMwareの仮想化プラットフォーム「VMware vSphere」上にApache Tomcatをベースに開発された「SpringSource tc Server」を用意、そこでJavaアプリケーションを動作させることでJavaのクラウド化を実現するJava PaaS(サービスとしてのプラットフォーム)だ。

 記者は以前、「JavaのPaaSに備えるSalesforce.com」という記事を書いたが、実際同社は守りに入るのではなく、VMwareと提携することで自ら積極的に攻勢に出たことになる。既存のJavaアプリケーションをそのまま、あるいはわずかな修正でVMforceで動作させることができ、そのスケールアップなどは自動的に処理されるというのは、クラウドコンピューティングの時代において将来性に不安を感じていたかもしれないJavaデベロッパーにとっては新たな道となる。

 Salesforce.com会長兼CEOのマーク・ベニオフ氏は発表会で、「Javaは600万人以上のデベロッパーを有する開発言語であるにもかかわらず、クラウドへの明確な道筋が用意されていない」と指摘、Javaデベロッパーをクラウドに連れて行くために2社は提携したのだと説明した。

 VMforceは、統合開発環境にEclipseベースの「SpringSource Tool Suite」を用い、Spring Frameworkを基盤としながら、POJO(plain old Java object)、JSP(Java Server Page)、Java Servletなどをサポート。Javaデベロッパーはこれまでのスキルセットを生かしながら自然な形でクラウドと向かい合うことができる。

発表会で示されたデモでは、SpringSource Tool Suiteで作成したJavaアプリをVMforceにドラッグ&ドロップでデプロイしたり、図のようにForce.comデータベースへのアクセスを簡単に組み込めることなどが示された

Cloud Foundryとは何が違うのか?

 では、VMforceはAmazon EC2上、あるいはGoogle App Engine上に同様の実行環境を用意する場合と何が違うのだろうか?

 VMforceの基本的な概念は、VMwareが買収した米SpringSourceが発表していたJavaクラウド「Cloud Foundry」を引き継いだものといってよい。Cloud FoundryはWebサーバ、Java EE、MySQL、Springなどがそろった環境をAmazon EC2上に構築するものだったが、VMforceではAmazon EC2がForce.comになっている点、およびForce.comで提供しているリレーショナルデータベースのデータを容易に利用できることである。データの扱い方という意味では、キーバリュー型のデータストアを利用するGoogle App Engineとの違いがJavaデベロッパーの心をつかむ要素の1つかもしれない。

 VMforceの発表は両社、あるいはJavaデベロッパーに何をもたらすのだろうか?

デモでは、Chatterと連携させたJavaアプリケーションなども示された。社内利用にとどまらないchatterの活用方法もありそうだ

 Salesforceの視点で考えると、Java開発者の取り込みのほか、ポータビリティがないForce.comネイティブアプリとの選択肢を用意したことなどが注目される。Force.comのネイティブアプリはこれまで、ApexというJavaに似た独自のプログラム言語で開発する必要があった。しかし、Apexで記述したプログラムはForce.com上でしか稼働しない。Javaと違って「Write once, run anywhere」ではないのだから、Apexデベロッパーは必然的にSalesforceと運命をともにすることになる。Javaを用いた開発案件が今なお豊富に存在していることも、Apexデベロッパーの急激な増加が起こらない一因だった。それらをそのままクラウドに取り込むことで、さらに多くのエンタープライズアプリケーションを抱えるプラットフォームになるのがSalesforceの狙いだ。ただし、今後、Force.comネイティブアプリがどのような位置づけになるかは注視したい。

 一方、VMwareの視点で考えると、仮想化というプラットフォームだけでなく、その上のアプリケーションレイヤまで含めたソリューションを提供したいという狙いがあったのはSpringSourceの買収をみても明らかだ。Force.comデータベースやSalesforce Chatterのようなサービスと連携できるJavaクラウドを提供することが同社の次の成長戦略なのだといえる。

 ありきたりな言い方をすれば、“込み込み”でJava PaaSを提供するのがVMforceだ。開発者評価版やその価格などは2010年中に公開するとしており、現時点でそのパフォーマンスや可用性、費用対効果を考えるのは早計だが、パフォーマンスはvSphereとカスタマイズされたvCloudによって動的にスケールすることで担保するつもりのようだ。しかし、そのためにSpringSourceの技術とvSphereのより密接な統合は欠かせない。

 Java PaaSの提供によって、Salesforce.comとVMwareは、MicrosoftやAmazon、Googleといったクラウドベンダーとの本格的な戦闘に入った。Javaデベロッパーの支援効果が得られれば、この大局を制することができるかもしれない。

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