キリのいいところで仕事を切り上げ、車に乗り込んで帰宅の途に着く。車中からネットワーク対応カーナビゲーションを使い、自分のスケジュールを読み上げさせる。そこでさきほどのフライト予約が途中だったことに気付き、カーナビからアプリケーションを起動してサービスセンターへアクセスする。
「予約を再開いたします。明日ご予約できるニューヨーク便は、午前10時成田発GY101便、午前11時15分成田発GY102便になります。いかがしますか?」
前回の電話を切る直前までのステップは当然保持されているので、その時点からスムーズにサービスを再開できる。また「サンフランシスコですか?」と聞かれることはないのだ。途中で止まっていたフライト時間を指定して、次のステップへ進む。
次にサービスセンターは、空港までの電車の手配と、指定席の予約を推奨してくれた。すっかり忘れていたが、ニューヨークでの滞在ホテルの手配とレンタカーの手配もスムーズに提案してくれる。事前登録している設定や履歴から、顧客にとって最適なプランを勧めてくれるのだ。あとは部屋のグレードや車種を選択するだけの状態になっており、必要な部分だけを尋ねてくれる。
翌朝、家族と朝食を共にし、予約しておいた電車に乗った。
だが、急に決まったフライトなので希望した通路側の座席は取れてない。さらに長時間のフライトで、到着した先でもトラブル対応となるので気が重い。そうこう考えていると、電車は空港に近づいてきた。するとスマートフォンに「航空券のアップグレードが可能です。どうしますか」とバーチャルオペレーターからのビデオメッセージが届いた。バーチャルオペレーターとチャットで座席を確認し予約。チャット後にはラウンジのクーポンも送られてきた。
昔と違い、今はチェックインのために空港に着いてから長い列に並ぶ必要はない。GPS機能を持つスマートフォンアプリを起動しておけば、空港に近づくと「ジオフェンシング」が反応し、自動でチェックインできる。預け入れの荷物は電車に乗った時点から既にタグ付けされているので空港で改めて手続きする必要もない。そのままラウンジに直行して時間までゆっくりと快適に過ごせそうだ。
そうだ、このトラブルを解決したら、帰りにはハワイを経由して帰ろうかな。もちろん家族も呼んで。ニューヨークに着いたら、またトラベルエージェンシーに連絡しよう。いろいろと思いを巡らせつつ飛行機に乗り込んだ。
未来のコンタクトセンターでは、 24時間365日対応できるだけのテクノロジーとケーパビリティを有しています。最も柔軟に対応できるヒューマンオペレーターがすべてのアクセスに応じることが理想ですが、実現するにはかなりのコストがかかるほか、ムダやモレも多くなるでしょう。
そこである一定の範囲のアクセスに対しては、人工知能を搭載したアバターや自動音声応答、ネットワークでのセルフサービス、加えて音声認識や感情認識、レコメンデーションエンジンなどを活用し、ヒューマンオペレーターによるパーソナル対応と遜色ないほどの高度な自動化がなされています。
サービスの継続性をもたせるために重要な構成要素としては、「統一されたデータソースとオープンAPIでのアクセス」が挙げられます。
たとえ多くのアクセスチャネルを提供していても、それぞれのチャネルが参照するデータソースが同じものであれば、アクセスチャネルごとにサービスレベルが違うなんてことはありません。
CRM(顧客情報管理)に代表される顧客データベースには、ほぼ確定された顧客情報が入力されています。そこに顧客がアクセスしてきた時間や場所などのコンテクスト情報や、サービスのセッション情報を、オープンAPIを経由し、データソースに保持しておけば、いつでもサービスを再開できます。
次に「柔軟なソフトウェア音声応答アプリケーション」が挙げられます。現在も音声応答サービスに代表される自動化技術は一般的ですが、まだフル活用されているとはいえません。どのサービスも毎回のように画一的な音声案内に終始し、それは一定期間変わることはありません。例えば、既に会員登録をしているのに、電話するたびに入会案内を聞かされたり、使っていないサービスについての説明を延々と聞かされたり……。これに対しては、アクセスしてきた顧客の状況に応じたアプリケーションを起動することで、メニューの固定化から逃れ、柔軟な対応が可能になるのです。
さらに高度な対応を行うには、「さまざまな分析技術とレコメンデーションエンジン」によって顧客とコミュニケーションする必要があります。感情分析や影響力分析、エスノグラフィーなどのメソッドを使い、顧客自身すら気付いていない潜在的ニーズを掘り起こします。これらの技術を融合することで、一貫したカンバセーションを成立させています。
私たちは顧客の購買行動や、顧客へサービスを提供するという行為について、その場面、その瞬間にのみ注目しがちですが、そこに至るまでの過程、そして購買後から再購入までを含めた、顧客の経験すべてを大事にすべきなのです。
未来のコンタクトセンターはただのマルチチャネルでもなければ、24時間365日対応や高度化、自動化がウリなのでもありません。本質は断片化されたカンバセーションを知的に紡ぎ、顧客と「ツーといえばカー」の関係を構築・維持することです。それがカスタマーサービスの原点であり、今これから実現しなくてはならない機能なのです。
(1)カスタマーエクスペリエンスをデザインせよ
局所的なユーザビリティ向上に終始せず、顧客との関係全体を見よう
暗黙知を結集し、隠されたニーズを見つけ出そう
個々のサービスは断片的に提供しても、全体のサービスレベルは保持しよう
(2)どの業務をどのレベルまで自動処理するかを見極めよう ルールを変えよ
画一的なサービスがもたらすデメリットもある
顧客は異なるサービスレベルを受け入れられる
(3)コンテクスト(場面)の把握に努めよ
その場面で最も有効なサービスを提供しよう
伊藤滋伸
ジェネシス・ジャパン株式会社 ソリューション・エンジニアリング本部 本部長
DB、Webアプリケーションサーバの数々の外資会社を経た後、経験を生かして外資の日本進出におけるテクニカルインキュベータを担当。後にEメール管理システムやIVRベンダにも携わり、 2007年にジェネシス・ジャパンに入社。技術部門の総責任者としてユーザー企業へのソリューション提案をはじめとしたプリセールス活動を管理している。
飯塚純也
同 ソリューション・エンジニアリング本部 部長
SI会社にて数々のコンタクトセンターシステムの構築に携わった後、2004年にジェネシス・ジャパン入社。現在は主にプロダクトマネジメントを担当。米国本社に対する技術的な窓口であるとともに、日本市場での製品リリースならびに品質向上、チャネルパートナーへの技術担当となっている。
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