郊外型データセンターの今とこれからクラウド ビフォア・アフター

業界各社の郊外型データセンターの展開は、今後の日本のIT産業の行方を左右する重要な取り組みの1つだ。

» 2011年12月01日 12時00分 公開
[林雅之,ITmedia]

 東日本大震災後、日本各所で郊外型データセンターの建設や開設が進み、自治体などによる誘致合戦が活発化している。

さくらインターネットが開設した国内最大級の「石狩データセンター」

 さくらインターネットは2011年11月15日、北海道石狩市でクラウドに最適化した郊外型大規模データセンター「石狩データセンター」の開所式を行った。

第1期工事で完成した石狩データセンターの1号棟と2号棟(写真提供:さくらインターネット)

 広大な土地はサーバの増設が容易に可能であり、サーバから出る熱を外気冷却することで電力消費を抑え空調コストを約4割削減できるという。開所時は2棟を建設し、サーバラックを200本設置している。1棟当たり最大500ラックまで収納できるので、今後は需要にあわせて最大8棟、4000ラックまで増設できる。さくらインターネットは同日、石狩データセンターを活用した業界最安値水準のクラウドサービス「さくらのクラウド」を開始している。

 外気冷却によるコストダウンや広大で安価な土地といった立地の強みを生かし、札幌市や石狩市のみならず、千歳市や苫小牧市、岩見沢市など北海道内各地でデータセンターの誘致活動が進められている。さくらインターネットの石狩データセンター開設に伴い、北海道へのデータセンター立地を検討する事業者が増えていくことが予想される。

震災後に最も早く開設した、IIJのモジュール型「松江データセンターパーク」

 震災後にいち早く郊外型のデータセンターを開設したのはIIJだ。2011年4月に島根県松江市に「松江データセンターパーク」を開設している。松江市はプログラミング言語「Ruby」を開発したまつもとゆきひろ氏が在住しており、ソフト産業の集積地として注目を集めている場所である。

 松江データセンターパークは外気冷却による低消費電力を実現した空調モジュールとITモジュール「IZmo」から構成され、各種機能モジュールを組み合わせることで短期間で大幅なコスト削減を実現する。

松江データセンターパーク概観(写真提供:IIJ)
松江データセンターパーク内のモジュール型データセンタ「IZmo」(写真提供:IIJ)

 IIJはクラウドサービス「IIJ GIO」を提供している。松江データセンターパークを利用することで、データセンターファシリティのコストを大幅に削減し、コスト競争力を今後さらに高めていく方針だ。

 国土交通省が2011年3月25日、稼働時に無人となるコンテナ型データセンターが建築基準法上の建築物に該当しない旨の方針を示すなど、規制緩和の動きが進んでおり、郊外型のコンテナデータセンターへの注目度は高まっている。

東北地方で進む郊外型データセンター

 NTTファシリティーズは2011年11月21日、青森県の協力を得て、青森県六カ所村(むつ小川原開発地区)において、コンテナ型データセンター実証実験サイトを構築し、日本初となる風力発電を利用した実証実験を2012年1月から開始すると発表した。本実験は風力発電を主電源にするとともに、電源システムとして高電圧直流(HVDC)、空調システムとして直接冷房のみにして省エネを追求する。実験は青森県とサン・コンピュータ(本社:八戸市)と連携する。また、自治体クラウド向けサービスを県内周辺の自治体が利用する検証も行うという。

コンテナイメージ(画像提供:NTTファシリティーズ)
出典:NTTファシリティーズ報道発表資料(2011.11.21)

 青森県、八戸大学、六カ所村、新むつ小川原、日本風力開発、東北電力、NTT東日本などが2011年4月1日、「むつ小川原グリーンITパーク推進協議会」を設立した。協議会は風力発電や蓄電池を活用した環境と経済を両立させたデータセンターの立地推進を進めており、NTTファシリティーズによる実証実験は第一弾の取り組みとなる。

 また、ヤフーとIDCフロンティアは、福島県白河市に外気空調システムなどを採用した環境対応型データセンター「新白河データセンター(仮称)」開設を予定しており、2011年9月1日に起工式が行われた。当初は2011年4月に着工を計画していたが、震災の影響により5カ月遅れの着工となった。新白河データセンター(仮称)は、福島県の復興再生の取り組みとしても期待されている。

新白河データセンター(仮称)完成予想イメージ図(画像提供:IDCフロンティア)

 政府はこれまで、「新たな情報通信技術戦略(新IT戦略)(2010.5.11)」、総務省の「スマート・クラウド研究会報告書(2010.5.17)」、総務省の「クラウドコンピューティング時代のデータセンター活性化策に関する検討会報告書(2010.5.28)」、「新成長戦略(2010.6.18)」、経済産業省の「クラウド・コンピューティングと日本の競争力に関する研究会報告書(2010.8.16)」などで、データセンターの国内立地の推進や立地促進のための特区創設など方針を示してきた。総合特区の募集では北海道、青森県、茨城県、福島県、茨城県など、北海道や東北地方を中心にデータセンター特区の提案がされてきた。

 震災の影響などにより、政府のデータセンター国内立地推進の政策は見直しが必要となったが、中長期的にはデータ保存の東西への適正分散や、東北復興のための産業誘致や創出などを考慮して、東北地方へのデータセンター立地の政策的な支援も重要となるだろう。寒冷な高緯度地域かつ、大規模なデータセンター建設のための土地が確保しやすく、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを活用したデータセンターの立地に適した場所が東北地方には多いと考えられる。

アジアのハブとなるデータセンターは日本に生まれるか?

 ソーシャルゲームなどコンシューマ向けのクラウドサービスの市場拡大、爆発的に増大するデータ量、事業継続(BCP)の観点から、データの地域分散の必要性が指摘されている。北海道や東北のみならず、北九州市のe-PORTをはじめたとした九州や沖縄など西日本エリアでの誘致活動も進められている。この流れの中で企業向けのデータセンターは、首都圏の一極集中から地方の郊外型へと関心が移っている。さらにアジアなどの世界市場を見据えたデータセンターの立地が、これから重要となる。

 シンガポールや香港などは、政府のデータセンター事業者に対する優遇制度などの政策的な後押しを受けて外資系クラウド事業者の誘致を推進し、アジア市場におけるデータセンターのハブを形成しようとしている。また、韓国や台湾にも外資系事業者の多くがデータセンターの新規開設に関心を示している。一方、日本国内での立地検討の話題は減少傾向にある。

 総務省が2010年5月18日に公表した「クラウドコンピューティング時代のデータセンター活性化策に関する検討会」の報告書によると、海外のデータセンターから提供されるサービスを国内で利用する比率は年々増加傾向にある。2009年12月の数値によると、日本のインターネットトラフィックのうち、海外から国内に流入するトラフィックが4割以上(44.1%)を占めている。今後海外からのトラフィックの流入比率がさらに増加すれば、国内における「データの空洞化」が進み、日本国内のIT産業にも大きなマイナス要因となるだろう。

 今後アジアなどの新興市場ではクラウドの活用が進み、データセンターの誘致合戦がさらに加速すると予想される。しかし日本国内にあるデータセンターは、主に国内向けのサービスが対象となっており、アジア諸国向けにサービスを提供しているシンガポールや香港などの先進国とは大きく異なっている。円高や電力の価格、安定供給の問題など逆風は吹いているが、日本国内のデータセンターがアジア各国のデータを保存してアジア市場にクラウドサービスを提供するという発想と対応が今、求められている。

 日本は今こそ、「特区」などによるドラスティックな立地政策の推進、再生可能エネルギーの活用など、産官学が知恵を出し合って国際競争力のある郊外型データセンターの立地を推進し、アジアにおけるデータセンターの立地や日本発のクラウドサービス提供においてプレゼンスを示すときといえよう。

 日本における郊外型データセンターの展開は、クラウドコンピューティングの市場成長、BCP対策、ビッグデータへの対応、そして、アジア市場を見据えた国際競争力の向上など、今後の日本のIT産業の行方を左右する重要な取り組みの1つといえる。

著者プロフィール:林雅之(はやしまさゆき)

 林雅之

国際大学GLOCOM客員研究員(ICT企業勤務)

ITmediaオルタナティブ・ブログ『ビジネス2.0』の視点

2007年より主に政府のクラウドコンピューティング関連のプロジェクトや情報通信政策の調査分析や中小企業のクラウド案件など担当。2011年6月よりクラウドサービスの開発企画を担当。

国際大学GLOCOM客員研究員(2011年6月〜)。クラウド社会システム論や情報通信政策全般を研究

一般社団法人クラウド利用促進機構(CUPA) 総合アドバイザー(2011年7月〜)。

著書『「クラウド・ビジネス」入門


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