クラウドから始まった足立区のシステム最適化物語(前編)「モノ申す」自治体の情シス(3/3 ページ)

» 2013年06月25日 08時00分 公開
[國谷武史,ITmedia]
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足立区オリジナルの調達手段

 先に触れたように、5年ほど前まで情報システム課にはITに詳しい職員があまりいなかった。そのタイミングでCIO補佐を務めることになった浦山氏は、「今だから言えますが、内心では『何とレベルが低いのか』と驚きました。技術レベルを高めるには数年はかかるだろうと思いましたね」という。そこで、調達・業務・システムの3つの改革に着手したという。

 まず、調達の改革ではRFI(ベンダーなどへの情報提供依頼書)やRFP(提案依頼書)、工程表といったドキュメントに関する仕様を統一した。また、「足立区SE単価表」という独自の指標も作った。これはベンダーによって大きく異なる「人月単価」の標準化が目的で、一級建築の業務報酬基準のモデルを参考に、職務やスキルレベルに応じた金額を算定しているという。

 ベンダーには足立区の仕様に基づいた調達仕様書などを提出して、見積書なども区の仕様に合わせてもらうようにした。「例えば、『一式』という表現を使わないようにお願いしています。それでは内訳が分かりませんから」(秦氏)

 業務の改革では開発ツールを標準化した。当時のシステムは.NETやJava、オープンソースなど開発環境がバラバラで、業務プロセスもCOBOLやXMLなどバラバラだった。「自治体のシステムでは法令変更や制度変更に伴う改修は発生し、環境がバラバラではコストも手間もかかるわけです。ITにあまり詳しくない職員でも手軽に使えるようにしなければならず、BPMS(ビジネスプロセスマネジメントシステム)に統一しました」(浦山氏)

 3つ目のシステムの改革は調達にも関連するが、システムの視点をハードウェア、ミドルウェア、アプリケーションの3つの階層に分け、各階層で最も安価に製品を調達できるようにベンダー各社の提案を詳細に検証するようにした。

 こうした改革も踏まえて、足立区で計画された3種類のクラウド基盤の設計は、浦山氏や情報システム課、ベンダー各社などが苦労を重ねながら作り上げていったという。ようやくその形が見え始めた調達フェーズでも、足立区ではベンダーにロックインされないようにした。

 「導入段階で最新の製品をできるだけコストをかけずに採用しなくてはなりません。今春に稼働した内部業務基盤と学校教育基盤には、最新のハイパーバイザと最多の64コアのCPUを搭載したブレードサーバを採用しています。これにより、内部業務基盤の140近いシステムと学校教育基盤の108のシステムを6つのブレードシャーシに集約しました。ここには3000台以上の仮想デスクトップ環境も稼働しています」(浦山氏)

 これら製品の調達ではCPUの販売単価までも調べたという。ベンダーの営業担当者からは、自治体がCPUのコア数まで指定するなど前代未聞の出来事だったようだ。足立区ではサーバラックやフェールオーバーのためのシステムまで、とにかく徹底した調査と検討を重ねて調達を進めた。

2013年度以降における3つの共通基盤での計画(足立区資料より)

 足立区のプライベートクラウド構築は、組織の大改革も含めた幾多の取り組みを通じて、ようやく実現した。残る基幹業務基盤への移行は2013年度にスタートし、2014年度の完成を計画している。後編ではクラウド構築を通じてのコスト削減とアプリケーションの最適化、人材育成への取り組みを紹介する。

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