シーズからニーズ重視へ──変わりつつあるITベンダーの研究開発最新事情Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2014年12月15日 17時00分 公開
[松岡功,ITmedia]
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大事なのは、ニーズとシーズのマッチング

 こうした研究開発のあり方が「これまでと正反対の方向」というのは、どういうことか。

 江村氏によると、「これまでの研究開発では、こんな分野に使えそうだというイメージはありながらも基本的には技術ありき。すなわち、シーズを重視していた。しかし最近では、どのソリューションに向けた研究かをまず明確に定め、それに必要な技術を開発するという、ニーズ重視に変わってきている」という。

 シーズではなくニーズを重視した研究開発は、確かにそのプロセスにおいて正反対だ。NECの場合、その背景には「社会ソリューション事業への注力」という全社的な経営戦略がある。

 ならば、NEC特有の現象とも受け取れるが、江村氏は「私の見る限り、当社に限らず、ソリューションを前面に押し出している同業他社の研究開発もニーズ重視に変わってきている」とも話す。ということは、ITベンダーの大半がそう変わってきていると見ていいだろう。研究開発における時代の移り変わりととらえることができる。

 ただし、懸念される点もある。直近のニーズを重視するばかりで、10年、20年先に役立つようなシーズの基礎研究開発を怠ってもいいのかということだ。多少“針を逆ブレ”させた質問に、江村氏は次のように答えた。

 「時代が変わろうと、基礎研究は地道に続ける必要がある。当社の研究開発のプロセスはソリューションを前提としているが、研究開発部門の組織は技術分野ごとに構成しており、ソリューションごとにプロジェクトを組んで進めている。基礎研究はその技術分野ごとの組織において、15%程度のリソースを割いて継続的に進めるようにしている。成果については分野ごとでさまざまだが、基礎研究への執着は持っている」

 特にNECの研究開発の中枢拠点である中央研究所は、基礎研究でも定評がある「日本を代表する情報通信分野の研究機関」である。同研究所を率いる江村氏の基礎研究に対する発言には、研究者のプライドが垣間見えた。

 江村氏の説明で、ニーズ重視についてもう1つ興味深い話があった。社会ソリューションの進化についてだ。

photo NECが取り組む「社会ソリューション」の研究開発

 上図は、横軸に「範囲の拡大」、縦軸に「質の向上」をとり、それぞれの要素をふまえながら、システム全体の最適化と提供サービスの高度化を進め、付加価値の高い社会ソリューションを提供していくことを示している。これはいわば、同社の研究開発における「社会ソリューションのロードマップ」である。ざっくりとした図だが、難しい言葉が並ぶ技術のロードマップよりは一般向けに分かりやすい。

 江村氏は最後にこう強調した。「大事なのは、ソリューションと技術、つまりニーズとシーズをマッチングさせることだ」。NECをはじめとしたITベンダーには、この気概で研究開発に励んでもらいたい。



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