「ほめる」も意欲に 尼崎市のITシステム「ススムくん」がもたらすこと市民サービスの向上へつなぐIT(2/2 ページ)

» 2015年02月26日 13時50分 公開
[ふじいりょう,ITmedia]
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対策と方法:“面談”により多くの時間を割ける、新たな評価システムに

 新人事評価システムでは、評価者の負担を軽減できること、正確で迅速な処理を実現できること、評価に関するデータを蓄積し、より効果的かつ迅速に人材育成したり、適材適所へ配置する方法や手段を導入できること、そして職員そのもののモチベーション向上につなげること。これらをポイントに据えた。

 「導入において特に意識したこと、それは“システムの画面”の構成です。紙ベースで評価していたころと大きく変わってしまうと、評価者が混乱する恐れがありました。そこで、これまでの評価方法を使っていた(例えば、ITに明るくない層の)評価者でも、迷わず、自然に使えるシステムの画面構成を目指しました。このほかにも、導入理由の根幹となる“面談”により多くの時間を割けるよう、さまざまな工夫をしました」(尼崎市 総務局人事管理部人事課主事の濱森健吾氏/同上)

photo 公務員向けWeb型人事評価システム「ススムくん」

 2013年3月、市議会に新人事システムの導入を提案し、予算が承認。同年5月に全6社でコンペ。同年6月に多くの自治体で使用されているケー・デー・シー「ススムくん」を選定した。ススムくんは、2007年のリリース以来、中央官庁4団体、独立行政法人7団体、地方自治体8団体(2014年4月現在)での導入実績を誇るWeb型人事評価システムだ。

 尼崎市の場合は、新システムの稼働まで約3カ月という短期での導入計画だった。市役所には、教育、産業、都市整備、福祉などさまざまな業務分野があり、それぞれの分野を担当する職員を一律には評価できない。システム開発を担当したケー・デー・シーによると、特に尼崎市が望んだ評価の公正、公平を担保する仕組みをシステムに反映させることに苦心したという。

 尼崎市では、前述の通り職員の評価を5段階の絶対評価を行う。一般職員の場合は、直属の上司である係長、課長が評価した上で、部長、局長がそれぞればらつきを調整。最後に市長以下三役が各局長の評価を調整し、最終的な評価を決める。「尼崎市のように、相対化や順位付けをきめ細かく、しっかり整備する自治体は多くありません。限られた時間の中でどこまで実現できるかを探りながら、職員の皆さんと一緒になって開発を進めました」(ケー・デー・シー ITソリューション部技術課課長の増山悟之氏/同上)。

photo 「ススムくん」のポイント(出典:ケー・デー・シーWebサイト)

 新システムの基盤には、システムの安定性や信頼性、そしてススムくんとの親和性から、IBMのアプリケーションサーバ「WebSphere Application Server」とリレーショナルデータベース管理システム「DB2」を選択した。

 WebSphere Application Serverは、高度なモニタリング機能や問題判別ツールなど、運用管理者へのサポートが充実していることに評価がある。DB2は堅牢に大量のワークロードを処理でき、不測のトラブル時にもダウンタイムを削減し、データを失うことなくデータベースの稼働を継続できる機能を持つ。さまざまなデータ圧縮テクノロジを適用し、ストレージに関連する運用コストも削減できる特徴などがシステム開発側として選定の決め手となった。

photo 尼崎市人事評価システムの構成(出典:IBM)

導入システム

  • ケー・デー・シー「ススムくん」(Web型人事評価システム)
  • IBM「WebSphere Application Server」(アプリケーションサーバ)
  • IBM「DB2」(データベース)

効果と成果:組織の風通しをよくし、適切に評価できる仕組みが稼働 その先は……

 尼崎市の新人事評価システムは、2013年10月に無事稼働。それから1年あまり経つが「システムダウンにつながる障害は1度もなく、データベースの検索遅延などもない」(ケー・デー・シーの増山氏/同上)と、順調に稼働している。評価する職員からも「評価作業が楽になった」という声が多く寄せられた。記入が楽なので、手書き運用時より定性的な部分の記入量が多くなり、詳細に評価できる。評価内容がとても充実するようになったという。

 このシステムは、これらと、課長級以上向けの目標と実績、能力の評価のほかに、課長以下向けの勤務評定と自己目標の入力機能、上司に対して部下が行う多面アンケート、そして職員同士の「ほめ合い機能」を搭載する。

 上からの評価だけでなく、“下から(上へ)”の評価と“横から”の認め合いも。組織の風通しをよくし、適切に評価し、職員の能力とモチベーションも高める。結果として、市民サービスをさらによくしたい──。誰のために実施することなのか、この根幹を意識した改革と言える。

 「長期的には、データを蓄積して職員全員の適性をつかめるようにするなど、データのさらなる積極的な活用を図りたい。それを通して職員1人ひとりの強みや弱みをふまえた研修を行い、きめ細かな人材育成策の展開につなげたい」(中嶋氏)と、さらなる育成への活用を想定しているという。

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