もちろん、MRはこれからの技術であり、今回公開されたコンテンツも改善の余地はまだまだある。建仁寺で行われた発表会では、コンテンツを体験した宗務総長の川本博明師が「生意気なことを言えば、若干まだこれからの技術なのだろうなと思うところもある。けれども、これからもっと進歩発展すれば、より面白い体験ができるという期待を持っている」とコメントした。
博報堂の須田氏も、MRコンテンツを作るのは未知の体験だったと話す。同氏はテレビCMの制作を手掛けており、映像制作には慣れているが、画面内に収まらない立体的な映像制作には苦戦したようだ。
「HoloLensを装着した人たちが、コンテンツをどのように見るのかを想像するのが難しかった。テレビの世界で言えば、街頭TVで力道山が映る前の状況と同じようなもの。最初の一歩であり、ここからノウハウを蓄積していくんだと考えている。企画者の頭に、MRならではの感覚をインストールしなければならない。とはいえ、総合力が問われる点では、MRコンテンツの製作に広告会社は向くように思う」(須田氏)
今回のイベントは、建仁寺と京都国立博物館の合計で6日間と会期が短いが、これはまだR&Dの段階であり、予算が限られているためだという。「ユーザーからのフィードバックを基にボトルネックを把握したい」と須田氏。将来的には、HoloLensによる鑑賞が常設される可能性もあるという。
発表会に登壇した米Microsoftのジェフ・ハンセン氏によれば、MRプロジェクトの多くは実証実験の段階だが、既に実用化を始めた企業もあるという。例えば、米航空宇宙局(NASA)は、ケネディ宇宙センターの来館者に、火星探査のデータを基に開発した火星環境の3Dグラフィックを公開しており、サーカスで知られるシルク・ドゥ・ソレイユは、舞台設営を検討する際にMRを活用しているそうだ。
須田氏が「映像コミュニケーションの次にある、21世紀の体験コミュニケーションに進化できる」と話すように、MRの可能性は大きい。実際、流通や建築、音楽といったさまざまな業界のクライアントから問い合わせも増えているという。今後はコンテンツの企画力も含め、MRの活用ノウハウをいかに早く蓄積するかが、ビジネスにおける差につながるだろう。
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