Liu教授の説明を聞いた筆者はコンピュータに向かい、現代中国のソフトウェアエンジニアリング手法を解き明かすほかの指標を探した。すると、筆者の手に余るほどの参考資料が見つかったが、これらを見ていくと、明確な目標を持ち、それを達成するための計画も用意している様子が浮かび上がってきた。
中国政府の5カ年包括計画(ソフトウェア以外の業界も多数含まれる)に組み込まれているプログラムは、豊富な財源援助と支援を受けることができる。現行の5カ年計画(一連のものの中で10期目の計画となる)は今年中に終了するが、主に以下のような目標が掲げられている[注6]。
この計画は情報技術にも大きく力を入れており、計画の概要にはそのことを示す次のような文章がある。
筆者がWebで検索をすると、中国のソフトウェアエンジニアリング手法向上を目的とした課程が各大学ですでにどんどん用意されていることが確認できた。あとは、これを可能な限り早急に業界に取り入れることが課題だ。
2001年末、中国の大学システムはソフトウェア工学修士課程(MSE)を設けた。現在、この課程を設けている51の大学は競争が激化しており、各校とも訓練されたソフトウェアエンジニアを業界にどんどん輩出している。2002年には、北京大学だけで1000人以上の学生が同課程に入学している。
これらの課程の効果は次期5カ年計画中に表れるはずだ。簡単に計算すると、少なくとも毎年3万人の中国人大卒者がMSEを取得してソフトウェア業界に入ってくることになる。これには、学士号取得者や職業学校などの専門課程で学んだ多数のプログラマは含まれていない。これらも合わせると、訓練を受けた新入社員の数は10万以上にもなる。2002年の中国は情報技術関連従事者が約25万人足らずだったので、先の数字から計算すると、数年後にはその数が5〜10倍に達することになる。
中国政府はMSEプログラムを次のように説明している。
……ソフトウェア工学修士課程は、大半の大学に設けられているコンピュータやソフトウェアの課程とは異なり、ソフトウェア教育の国際モデルに従った上級ソフトウェアエンジニアの教育を目的としている。各科目は、ソフトウェア関連企業の需要を満たし、能力で勝り、実践的で、複合的な要素が求められ、国際的にも通用する上級ソフトウェア開発者/マネージャを育成する実践教育と技術力に重点を置いている。ソフトウェア工学修士号取得者は、ソフトウェアの設計や開発ができるだけでなく、プロジェクトの編成や管理を行う能力を持ち、外国語に堪能で、国際競争力も身に付けている[注8]。
中国がアウトソーシング先として確固たる地位を築くには自国のソフトウェア専門家が顧客と同じ言葉を話す必要がある、ということは中国当局も明らかに認識している。インドがアウトソーシング業界で傑出した背景にはこの能力があった。インドのソフトウェアエンジニアは、しっかりした技術教育を受け、規律正しいことに加え、英語についても広範囲の訓練を受けている。中国は、英語力に関してはまだそこまでのレベルに到達していない。彼らにとっては、ここが唯一の弱点になるかもしれない。
もちろん、中国のIT業界を進展させる要因は教育だけではない。OJTの経験、機器の向上、より効率的な商慣習をはじめ、成功するためにはさまざまな要因が重要になっていく。筆者は、中国がこれらの障害を克服し、世界中のIT業界で主力パートナーになることを確信している。そうなれば他国の企業も、存続と反映のために変わらざるを得なくなっていくだろう。
筆者に今後のことは分からないが、国際IT業界では全員にメリットのある機会が多数待ち受けている。国や文化にかかわらず、それぞれが核となる能力を身に付け、協力し、発展していく方法を見つけ出していくだろう。われわれは一緒にソフトウェアの危機を乗り越えていく。中国のソフトウェアエンジニアリング構想が打ち出した教育課程、国際協力、革新的なツール、そしてプロセス改善といった支援を業界が得られる限り、われわれは今後も興味深い時代を生きていけるだろう。
Gary Pollice
Gary Polliceはマサチューセッツ州ウスターにあるワーチェスター工芸研究所の実践学教授。ソフトウェアエンジニアリング、デザイン、テスト、およびコンピュータサイエンスの各種課程を教えており、学生のプロジェクトも指導している。教職に就く前は、業務アプリケーションからコンパイラやツールまで、各種ソフトウェアの開発に35年以上も携わってきた。この業界で最後の仕事となったのがIBM Rationalソフトウェアで、「RUP Curmudgeon(RUP翁)」として有名になり、Rational Suiteチーム発足時のメンバーでもあった。Addison-Wesleyが2004年に出版した「Software Development for Small Teams: A RUP-Centric Approach(小規模チームのためのソフトウェア開発:RUPを中心にしたアプローチ)」は同氏が中心となって執筆された。数学の学士号とコンピュータサイエンスの修士号を持つ。
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