
DX(デジタルトランスフォーメーション)とともに、近年、”AIを前提”に業務・事業を変革する「AI Transformation」の考え方が広がる中で「AX」という言葉も聞かれるようになった。AIの普及で手段や選択肢が急激に広がった一方、汎用的なツールが自社特有の業務にフィットしない、AIの導入そのものが目的化して現場に浸透しないといった悩みを抱える企業も多い。
AXとは何なのか。分野が異なる9つの事業会社を擁するミガロホールディングスが実践したDXは「AX」をテーマの1つに据え、自社とグループ各社の非効率を「自分たちで解決する」ところから始まった。汎用的なSaaSやシステムだけに頼らず「自社で内製」という判断軸を持つに至った理由、一転して顧客向けサービス、オウンドメディアといった「外向け」の形へも広がったDXプロセスの経緯と成果を、同社経営企画部でAI・DX推進を担う岩津龍平氏、新妻康弘氏に聞いた。
「今すぐ対策しなければならない」「自身たちで変革すべきである」「汎用ツールを配ってみたが定着しない」「AI活用の投資対効果が説明しづらい」。そうした悩みを抱える経営層・事業責任者・DX推進担当者は、ぜひ参考にしてほしい。
ミガロホールディングスが実践したDXのポイント
- 商談分析AIの内製化で、議事録作成時間95%減・ロールプレイング時間73%減を実現
- 汎用ツールに頼らず、「業務の固有性」と「データの機密性」を軸に内製の可否を判断
- 磨いた知見を、AI内製化支援サービスや受託開発・オウンドメディアという形で「外部」にも展開へ

ミガロホールディングス株式会社は、プロパティエージェント株式会社が2023年10月に純粋持株会社体制へ移行して誕生した、東証プライム上場のグループ経営体です。スマートシティAI顔認証事業(顔認証IDプラットフォーム「FreeiD」)、AI・デジタルインテグレーション事業、DX不動産事業を柱に事業を展開しています。
| 社名 | ミガロホールディングス株式会社 |
| 所在地 | 東京都新宿区 |
| 設立 | 2023年10月(プロパティエージェント株式会社より純粋持株会社体制へ移行) |
| 事業内容 | グループ会社(9社)の経営管理およびそれに付帯する業務 |
| 事業の柱 | スマートシティAI顔認証事業(顔認証IDプラットフォーム「FreeiD」)、AI・デジタルインテグレーション事業 、DX不動産事業 |
| 主要子会社 | DX推進事業: DXYZ株式会社/ アヴァント株式会社/株式会社TIERO/株式会社CloudTechPlus/ 株式会社テラ・ウェブクリエイト/ 株式会社ユー・システム・クリエイションDX不動産事業: プロパティエージェント株式会社/ 株式会社AKIコマース / 株式会社アソシア・プロパティ |
目次
DXと内製化の判断軸は「業務理解」から始まる
──DXとともに、AIを前提に事業を変革する「AX(AIトランスフォーメーション)(*)」という言葉も聞かれるようになりました。御社は「AX」を、何と定義していますか。

ミガロホールディングス株式会社 経営企画部
ディレクター/AIコンサルタントの岩津龍平氏
ミガロホールディングス株式会社 経営企画部の岩津龍平氏(顧客向けAI・DXソリューション推進担当)(以下、岩津氏):私個人としては、AIはあくまで技術であり、事業を動かすための道具だと思っています。事業としてこうありたいという目指す姿やゴールを達成するために、AIを使って変革していくという位置付けです。
生成AIが出てきてからは、AIに問いを与えると人間を超える精度で回答を得られたり、大量のデータから欲しい情報を抽出したり、AIによる自律的な業務の実行もできるようにもなり、選択肢の幅が大きく広がりました。
これまでシステムや技術的な制約でできなかったことが、AIを使えば実現に近づけられる。手段ではあっても、その手段から考えることで、達成できる目的の選択肢も広がっていく感覚があります。
| *:AX=AI Transformation(AIトランスフォーメーション)。AIを中核に据え、業務や意思決定、組織のあり方そのものを変革する取り組みのこと。広くはDXの一環と捉えられる。内閣府は「第Ⅱ期人工知能基本計画」(2026年7月14日閣議決定)でAXという言葉を定義して用い、企業内にとどまらず、行政、産業、暮らしなど社会全体でAXを進める方針を掲げている。 |
──御社のDX推進における、それぞれの役割を教えてください。
岩津氏:私も新妻も、ミガロホールディングス経営企画部に所属しています。私はDI(顧客向けAI・DXインテグレーション)事業の中で、AI駆動開発やAIアプリケーション開発などの案件推進をホールディングス側から支援する立場です。
ミガロホールディングス株式会社 経営企画部の新妻康弘氏(グループ全体の社内DX・業務効率化推進担当)(以下、新妻氏):グループ全体の事業にAIを組み込んで変革していくことや、既存業務の効率化・生産性向上を、同じくホールディングス側から支援しています。
汎用か内製かの判断軸は「業務の固有性」と「データの機密性」
──DXの推進において、外部・汎用的なSaaSやシステムを使うのではなく、自社で内製して進めたと聞きました。その理由を教えてください。
岩津氏:全て内製ではなく、汎用的なツールで解決できるものはそのまま使えばいいと思っています。その上で内製化に踏み切った理由は2つあります。
1つは「業務の固有性」です。汎用ツールで効率化や生産性向上を図るには、ある程度の精度や回答の質が必要なラインがあり、業務が自社特有・その業務特有のものになるほど、そのラインを汎用ツールで超えるのが難しくなります。それならば、その業務に特化したアプリケーションを1つ作ってみんなに使ってもらったほうが、浸透度も効率化の度合いも明らかに変わってきます。
もう1つは「データの扱い方」です。個人情報、お客様の情報を汎用のチャットAIにそのまま投げるのは難しい事情があります。自分たちでセキュリティを確実に担保できるものを作って使ったほうが、後々の事業リスクを踏まえても望ましいという判断です。

ミガロホールディングス株式会社 経営企画部
AIストラテジストの新妻康弘氏
新妻氏:汎用的な製品を「自社特有の業務の全て」にフィットさせるのは困難です。
生成AIがすごいのは、以前ならばデータサイエンティストが専用のモデルを作らなければならなかったところを、汎用的なモデルをチューニングする程度で効率化アプリとして内製化できるようになったことと私は考えています。自社特有の特別なデータと特別な業務に適用させる”適合”を実現できるようになりました。
こうした判断が現実的な選択肢になっているのは、グループ内にDI事業を担う会社を持ち、開発機能を自前で回せる体制があるからでもあります。商談分析AIは不動産投資営業という特有の商材やトークに合わせて設計しており、汎用ツールでは拾いきれない業界特有の言い回しや商談の流れを踏まえた分析機能を備えています。
──内製ツールを社内に浸透させる際、どのような工夫をされましたか。
岩津氏:まず、業務の何を変えたいのか、求める業務インパクトは何かを優先順位として定義して、インパクトが高いところから取り組むことを大事にしています。
汎用ツールをとりあえずみんなに配って自由にお使いください、活用してくださいといっても、結局は日々の調べものや壁打ち程度にしか使われず、効率化にはつながりません。
そこで、事業インパクトが明確に高い業務かどうかの観点から、それに特化したアプリやシステムを展開する方針としました。展開した後のフィードバック・改善を含め、これは明らかに使える、明らかに楽になるという成功体験を積んだ上で、次の業務へと段階的に広げていくという流れです。
もちろん、すべての業務に1つずつシステムを作るのではコストも期間もかかりすぎます。事業の差別化や競争力にあまり関係のない業務は汎用ツールを渡して使ってもらうという選択を使い分けるイメージです。
──実践後の具体的な成果とは。
新妻氏:商談分析AIでは、議事録作成時間を95%、ロールプレイング時間を73%削減する成果を上げています(*)。議事録を取ったりフィードバックしたりするような、これまで時間や手間がかかっていた部分を効率化した分、お客様と向き合う時間や、自分の商談を分析する時間に使えるようになりました。
商談の内容のデータ蓄積もそうです。模範メンバーの商談(成功例)を知見として振り返ったり、分析したりして、同様に成果を高める活動や取り組みに時間を多く割くことができます。AIでできる部分をAI化することで、人がやるべきところにより時間を使えるようになったという感覚です。弊社の場合、特に不動産事業は信頼がすべてなので、人との関わりに注力する時間はとても重要です。
バックオフィス業務についても、人が少なくなってきている中で、AI化によって早く帰れるようになるという福利厚生に近い変化も出てきています。
* ミガロホールディングスのプレスリリース「ミガロホールディングスが営業の負担を軽減する「商談分析AI」の無償提供の受付を開始~プロパティエージェントでの導入により議事録作成時間95%削減を実現~」(2026年4月14日)
社内の知見を「外」へ、内製から生まれた複数の”AX”の形
──“内向き”の社内知見から「外部へ開いていく取り組み」も推進したそうですね。この“外向け”となる商談分析AIの提供やAI内製化支援サービスはどのような経緯で生まれたのでしょうか。
岩津氏:商談分析AIやAI内製化支援サービスは、グループの中に分野の異なる事業会社が多くあるからこそ生まれたサービスだと思っています。
SIerやコンサルティングファームのように、ゼロからお客様の課題を探しに行くのではなく、当社は、グループの中にすでに課題がたくさん眠っていて、それを事業会社から発信してもらったり、こちらから拾いに行ったりしながら課題の解像度を高めていける体制が強みだと気付きました。自社で本当に欲しいものを率直なフィードバックとともに形にし、それを同時にお客様にも提供することは自然な流れでした。
商談分析AIはツールとして使われやすい形にしたアプリとして、AI内製化支援サービスは内製化を進めるための道筋やノウハウを、それぞれ提供しています。
AI内製化支援サービスは、自社向けのAI・DX推進で培った、業務の固有性・データの機密性を見極める判断軸や、成功体験を足がかりに段階的に浸透させる進め方そのものを「お客さまの内製化」に向けて提供するサービスです。完成済みのツールを提供することとは異なり、内製化を進めるための道筋やノウハウを提供して、お客さまの体制構築まで支援します。
──“AXの現場”を届けるというオウンドメディア「AXis」も、2026年8月にリニューアルされました。こういった外部発信の取り組みもDXの一環でしょうか。
岩津氏:AXis(エーエックスイズ)は、グループ間人的資本経営強化プロジェクトの一環で展開したAI情報媒体「AXiS」(旧称:アクシス)をリニューアルし、「AXとは何か」について自社最前線の現場から発信。自社もお客さまも含めて一緒に考えませんか? と「企業のAX推進を加速させる“入り口”」へお誘いするオウンドメディアです。
AXに「明確な正解」があるわけではありません。現場のエンジニアや担当者が記事を書き、外部へも発信するオウンドメディア自体は他社にもあります。また当社は最先端のAIモデルを作るようなAI専業の企業でもありません。
ただ、グループの中に多様な事業会社を持っている強みがあります。複数の業種のさまざまな事業の課題や特有の業務を理解した上で支援する「現場を理解したプロフェッショナル」でありたいという思いがあります。お客様の現場と同じ目線で業務を理解しようという姿勢を大事にし、AIを導入していくステップやストーリーを、グループ内の実践例を踏まえながら一貫して伝えられるメディアにしたいと考えています。

ミガロホールディングスのオウンドメディア「AXis」
「業務理解」は、DXやAXといったスローガンより大切
──冒頭で伺った「AXとは?」という問いに、ここまでのお話を踏まえて改めてお答えいただくとしたら、どう表現しますか。同じようにDXのプロセスやAI導入で課題を抱え、実践している「企業の担当者への一言アドバイス」としても構いません。
新妻氏 私は社内では「DX・AI活用」としか言っておらず、AXという言葉自体はあまり使いません。手段はAIだろうが何だろうが、正直何でもいいと思っています。目的は業務の目的を達成すること、会社を良くすることで変わりません。大事なのは「人の信頼」のような部分で、それを達成するためにできるだけAIを使っていくというスタンスです。
岩津氏 言葉の意味としては、AXとはAIを使った事業変革だと思います。ただ、事業を変革するために本当に大事なのは、業務や課題の理解・構造化、業務の再設計といった、AIとは直接関係のないところの”がんばり”です。ここが、AXの成功を左右する鍵だと思っています。
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「AI導入自体が目的化してしまう」「汎用ツールを配るだけでは定着しない」。多くの企業が抱えるこうした課題を前に、ミガロホールディングスの取り組みは、DXを急ぐあまりに忘れがちな「業務理解」の大切さを示しています。
今すぐの変革を急ぐ前に、まずは自社の業務を「任せられる」ものと「任せられない」ものに仕分けることから始めてみてはいかがでしょうか。
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