
AIの礼賛と情報の混乱が交錯する現在、情報の精度や信頼性を守りながら生産性を高めるにはどうすればよいかに悩む企業が増えている。特に「クリエイティブ分野」での課題が顕著に見られる。AI時代の情報精度とコンテンツの品質課題に向き合う、12年超のキャリアを持つ編集プロダクション、株式会社リーフレインの清水景編集長に、この分野での試行錯誤で培った「AI活用の実践知」を聞いた。
「今すぐ対策しなければならない」「自分たちで変革すべきである」。このような喫緊の課題に対して、業務のデジタル化、システム化を検討しているが、どのように進めればよいのか分からない、悩んでいる、AIやSaaSの導入に不安がある。そんな企業の経営層、事業部門の責任者・担当者はぜひ参考にしていただきたい。
抱えていた課題
- 「AI対策」の本質を十分に踏まえない提案も一部で見られ、本音で誠実に提案するだけでは、かえって受注につながりにくい状況を感じていた
- 「一次情報のようで、一次情報ではなかった」情報が増加し、コンテンツ品質の担保がこれまで以上に難しくなっていた
- バックオフィスの事務業務が繁忙期にクリエイティブな時間を奪い、営業提案もテンプレート型での対応に留まることがあった
効果と対策
- Claude Codeなどを習得したスタッフが1人で従来の3人分の業務をこなせるようになり、チーム全体の生産性が大幅に向上した
- AIによる会計自動化で依頼費用や工数を削減し、月末処理が「ボタンひとつ」で完了するようになった
- クライアントの求める分析から提案資料の完成まで数時間で、かつ営業がテンプレート型からパーソナライズ型へ変化した
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目次
AI時代になって編プロが直面した「二重の課題」
| 社名 | 株式会社リーフレイン |
| 所在地 | 東京都港区 |
| 事業内容 | SEOコンテンツ制作、コンテンツマーケティング支援、翻訳・ローカライズなど |
| クリエイターネットワーク | 世界約1100人 |
| 主な活用AIツール | Claude、ChatGPT、Gemini ほか |

株式会社リーフレイン代表/編集長の清水景氏
2025年1月に法人化した株式会社リーフレインは、2014年に編集プロダクション「雨輝」としてスタートしたコンテンツ制作・編集、SEO支援などを中心とする企業です。ITmediaをはじめとするさまざまな商業媒体で専門分野に特化した記事づくりを強みとし、コンテンツマーケティング支援(HALCYAN)、ファクトチェック・E-E-A-T特化監修サービス(FactCheck Pro)など「コンテンツ創出」分野の業務を幅広く手がけます。
最大の特徴は世界中に約1100人のライターをはじめとするクリエイターネットワークを抱える体制です。案件ごとに適材適所のチームを編成することでスピードと専門性を両立させています。分野ごとに実務経験や専門的知見のあるライターを起用し(IT分野ならエンジニア経験者など)、校閲は紙媒体出身のベテランに限定するなど「情報精度を担保するための厳格な基準」を設けています。
「商業媒体の業務は中学生のときから」という清水氏は、紙からデジタルへ、PCや携帯電話からスマートデバイスへといった「コンテンツ」の利用シーン変化へ柔軟に対応してきた経験を持ちます。AIにおいても同様に、いち早く試行錯誤を重ねています。
清水氏がAIを強く意識し始めたのは2024年初頭のことでした。当初はさほど重視してはいなかったものの、2024年秋に自らAIツールを使い込む中で考えが揺らぎます。
──AIの流行、変化が事業にどんなインパクトをもたらしましたか?
「SEOのテクニックを踏まえた専門的知見が不要なWeb文章や、調べて書くレベルのことはAIで事足ります。これにより、ライターに求められるスキルの基準が大きく変わると感じました」(清水氏)
ただし、清水氏はこの変化を前向きに捉えています。「ここ10年は“調べて書くだけ”の低品質なコンテンツも溢れかえりました。それによりプロ意識の低いWebライターが世の中に増え、“ライター”という職業の権威が下がってしまっていることに憂えていました。でも、AIが“調べて書くだけ”の仕事を担ってくれるなら、人間のライターは本当に価値のある文章を生み出すことに集中できる。むしろそういう時代になると感じているので、わくわくします」と清水氏は話します。
一方でビジネス上の矛盾は深刻でした。AIO・LLMO(AI検索最適化)への需要が急増する中、「AIの流行に表面的に乗じるだけで、本質的な提案にまで踏み込めていないケースも少なくない」と述べます。「AI検索最適化への理解がまだ広がりきっていない企業も多く、本音で真摯に提案するほど、かえって案件につながりにくいこともある」状況に直面しました。
清水氏がもう1つ深刻に受け止めたのが「情報精度をめぐる混乱」です。
AIの活用には「ハルシネーション(もっともらしい誤りの生成)の課題」が伴います。
「大企業が発信する一次情報のプレスリリースでさえ、AIの利用に起因するとみられる誤りが紛れ込んでいたケースが、実際にありました」(清水氏)
「一次情報のようで、一次情報ではない」──この問題は、コンテンツ制作の現場に衝撃を与えました。
「目的に合ったLLMを選ぶ」──研究チームが導き出した判断軸
こうした二重の課題を前に、同社が取ったのは「手を動かして試し続ける」アプローチでした。清水氏は2025年初頭、社内にAI研究チーム(延べ12人)を設置。ライター、編集者、動画クリエイターといった役割横断のメンバーで「コンテンツを作る上でAIをどう活用するのがベストか」を深く検証してきました。
──どのようなAIツールを選ばれましたか? 選定の判断軸を教えてください。
「現時点(2026年6月時点)はClaude、ChatGPT、Geminiの順ですね。ClaudeはClaude Desktop、Claude Coworkとしても使います。タスクに応じた最適解を意識しているのでTavilyなどのややマイナーなAIを使うこともありますね。最新のものが出たら全員で比較して、今これが良さそうという情報を共有する体制を取っています」(清水氏)
昨今の生成AIは、ベースとなる大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)の違いや、各サービスが組み合わせる機能によって得意分野が異なることもあります。もちろん評価は利用者それぞれながら、各サービスのアップデートに伴って月単位・週単位の早いスピードで大きく変わることもあります。
そのため、「最新版や新機能が出たら、全員で比較して評価する」というチームの学習文化が同社のアプローチを支えるようになっているのです。
AIによって「1人で3人分」を実現した3つの成果
会計タスクを自動化し、月2〜3万円のコスト削減
AIの活用によって会社・組織運営のためのバックオフィス業務で顕著な効果が出たのが、会計業務の自動化です。これまで税理士に委託していた会計管理業務を、清水氏が自ら内製システムを構築して代替しました。
例えばこのようなタスクです。
レシートを撮影して所定の場所へアップロードすると、AIがOCR処理で金額・内容を読み取り、Googleスプレッドシートに自動入力される。ボタンひとつでGoogle Apps Script(GAS)が動き、クラウド会計システムの「freee会計」へ画像データと数値が自動的に連携される。
これで、月2〜3万円かかっていた会計管理のコストが不要になりました。その「金額」以上に大きかったのは、月末処理の負担がスッと消えたことで「クリエイティブな業務に集中できる時間が増えた」ことだと清水氏は振り返ります。
Claude Codeの活用で、スタッフ1人で3人分の業務を実現
最近、同社でより大きなインパクトをもたらしたのがClaude Codeを活用した業務効率化です。事務業務を担っていたスタッフがClaude Codeに興味を持って自主的に勉強を始めました。今では清水氏が「今まで3人に頼んでいたことを、1人でカバーしてしまう」と語るほどになっています。
例えばリサーチリスト作成のタスクでは、以前は100件のリストを作るのに数人日かかっていたところ、1時間以内で対応できるまでに迅速化。かつては外注へ依頼していたような作業も社内で完結するようになったそうです。
「スピード感もそうですが、1人の人間がこれまでの3人分の仕事ができるという“前提”で仕事を進められるようになったことが大きいですね。今まで時間がなくてできなかったことに取り組めるようにもなります」(清水氏)
営業提案がテンプレート型から、より深いパーソナライズ型に変化
AIはコスト削減だけでなく「攻めの変化」も生んでいます。それが営業提案の質の変化です。
「以前、本腰を入れるコンペ以外はテンプレートを用いて提案するケースがほとんどでした。人手と時間が限られる中で、顧客それぞれに合わせた個別設計までは難しかったためです」(清水氏)
現在はAIエージェントを使い、「顧客に深く寄り添った、独自、個別のレポートや提案資料」を数時間あれば作成できるようになりました。
「以前ならば1〜2日はかかっていました。それが早ければ数時間レベルで提案するところまで行けてしまう。スピード感が違います」と清水氏は語ります。
| タスク | AI活用前 | AI活用後 |
| 月末会計処理(税理士費用など) | 月2〜3万円 | ほぼゼロ(内製化) |
| リサーチ100件リスト作成 | 数人日 | 1時間以内 |
| 同等業務の必要人員 | 3人 | 1人(Claude Code活用) |
| 提案資料作成時間 | 1〜2日 | 数時間 |
AI活用の「限界」も見えた──メモリ問題と自動化への過信
AIの効果が各シーンで具体的に上がる一方で、清水氏は「AI活用の限界」についても率直に見据えています。
──AIの活用で「思ったより、うまくいかなかった」と感じた点はありますか?
「(AIの記憶機能である)”メモリ”です。単純な機械的作業を任せるだけならAIをスタッフとして十分に扱えます。しかし、複雑で大量な情報や文脈を理解しながら動く、生粋の社員として使うことを考えると、人間のように長期記憶ができなければならないと思います。それが今のAIだと難しいとはっきり分かってきました」(清水氏)
※ その原因は、会話が長くなるほどAIの性能が低下する「セッションの制約」にあります。文脈の汚染や累積バイアス、アテンションの低下といった仕組み上の特性によって起こる現象です。この問題に対し、Markdownファイル(.md)に記憶を書き出して次のセッションで読み込むといった手法も試みられますが、ファイル容量や消費トークン(コスト増)といった新たな制約も出てきます。いまのところ同社では「“社員”にはまだなれない」という評価が現状のようです。
もちろん、技術の進化で長期記憶が可能になるとの見方もあり、その実装は「AIが真の意味で業務パートナーになるための必須課題」と清水氏は見ています。
自動化についても「能動的に何かをやる、というところがまだできない部分はある」現実も実感しています。
「SNSで“すごい”という情報を見て、試してみるとそんなもんか……と落胆することもよくあります。意外とアナログなところも大事だ、と気づかされました」(清水氏)
最大の落とし穴は「“AIを導入する“を目的化してしまう」こと
改めて、業務シーンに取り入れる「AI」をどのように考えればよいでしょう。清水氏は以下の3点を主なポイントに据えています。
まず疑うべきは「手段の目的化」
「AIを“導入しなければならない“、“導入しないとまずい”と強迫観念に駆られる企業が増えています。明確な目的が定まらない中でAIを導入しても本質的にプラスになる要素は実は少なく、“AIで時短できた”くらいで終わってしまいます」(清水氏)
ベンダーがAI需要で顧客獲得を競い合い、似たり寄ったりの提案が乱立しがちでもある中で、「ビジネス課題を解決するためにAIを使うのか」をまず見極め、「自社にとって何がプラスになるか」「そもそもの目的は何か、導入そのものがゴールになっていないか」を問い直す。その姿勢こそ、起点にしてほしいと清水氏は強調します。
ハルシネーションリテラシーの欠如
業務へのAI活用において特に注意すべきなのが「ハルシネーション問題」です。
この認識不足が招く危険はかなり深刻です。「AIは嘘をつくことがあるので気を付けましょう」「AIが生成したものをそのまま使わず、裏取りしましょう」といった表面的なことだけではありません。
「AIで作った“誤りが含まれる”コンテンツが一次情報として参照され、その誤情報を、人あるいはAIがまた参照する」という悪循環が生まれ、やがて誤りが複利的に積み重なり、情報の信頼性が損なわれていく恐れもある──と清水氏は危惧しつつも、これまで以上にファクトチェックの意識が重要になると語ります。
外注先を見極める目の欠如
「AI開発をします/AIで解決しますという外注・ベンダーが増えています。同時に、望まれない成果物が納品され、困惑したというケースも声として聞くようになりました」と清水氏は現場の実情を指摘します。
開発者やエンジニアを抱えられないなどの資金や人手不足を課題とする企業や組織は、外注も選択肢になるでしょう。
「ここで、自社にリテラシーがあるかどうかで、外注先に言いくるめられるかどうかが変わってきます。正しく内製化と外注の線引きができる企業が増えれば、生産性も独自性もさらに上がるのではと思っています」(清水氏)
“これは違うぞ”から1年──AIを冷静に試し続けた企業が見えてきたもの
清水氏が一連の実践を通じて最も強調したのは、技術でも生産性でもなく「情報精度」への意識です。
AIによって月に数万円のコストを削減し、スタッフ1人で3人分の業務効率化を実現しながらも、なお「AIは完全な社員にはなれない」と率直に語れる清水氏の姿勢には、礼賛でも恐怖でもない「冷静な実践者」の視点があります。
同社の考え方は、エンジニア部門を持たない非テック企業や中小企業にとっても再現性が高い事例といえます。「AI活用」を目的化せず、情報の質を守り、高めながら業務変革を積み上げる──。その地道な蓄積の中にこそ、DXが成果につながるポイントがあります。
「AIをもっと冷静に、良し悪し含めて見てみるとよいと思います。使う側である企業の皆さん自身も知識を蓄えることですね」(清水氏)
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