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うっかりしてると懲役刑? 拡がるワイヤレス通信機器と法のギャップ小寺信良の現象試考(2/2 ページ)

» 2010年03月01日 11時00分 公開
[小寺信良,ITmedia]
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売っても買っても輸入しても問題ないが……

 ワイヤレス機器を海外から持ち込むことは、今やよくあることのように思われる。例えば海外で無線LAN付きネットブックや無線LANルータを買って帰ったことがある人はいないだろうか。そもそも外国人旅行者が自分で使うために、それらを日本に持ち込むことも考えられる。

 PCユーザーにとっては、もっとビックリする事例がある。例えばワイヤレスキーボードやワイヤレスマウスを、米国出張のついでに買って帰ることはあり得るだろう。しかしこれらの製品にも、実は技適マークが必要である。

photophoto ワイヤレスマウスに付けられた技適マーク(写真=左)、ワイヤレスキーボードにも技適マークが必要(写真=右)

 筆者は英語キーボードを好きで使うので、よく米国から買って帰るのだが、幸いまだワイヤレスのものは買ったことがない。しかし今後、キーボードのワイヤレス化が進み、さらに日本ではJISキーボード以外をメーカーが売らなくなってきている現状を踏まえると、将来的には死活問題になりかねない。

 さらに最近モバイラーの間で話題になっている、Wi-Fiルータなども、技適マークが必要な製品である。例えば「Novatel MiFi 2352」や「Cradlepoint PHS300」といったモデルは、秋葉原でも普通に販売されている。日本に輸入代理店があり、そこが一括で認可を取って技適マークを貼っているものもあるが、並行輸入品には当然技適マークなど貼られていない。

 これらのものを売ったり買ったりすることに、問題はないのだろうか。総務省によれば、これらの売買や輸入、あるいは所持していることは、別に違法ではないという。では何が違法になるのかというと、「使ったら違法」ということになる。

 ではこの違法行為は、どれぐらいの処罰を受けるのだろうか。電波法によれば、技適マークがない製品を使用した場合、第百十条一号の違反にあたり、「一年以下の懲役又は百万円以下の罰金」なのだそうである。極端に言えば、うっかり海外輸入のマウスなどを使っていると、懲役刑を食らう可能性があるわけだ。これは現代の有り様や慣習から考えると、相容れないところがあるように思える。

 技適マークは、設計書レベルで審査する場合と、製品検査レベルで審査する場合があるという。設計書レベルならば、技適マークを製品に印刷することもできるが、製品検査レベルではシールで対応することになる。シールならば当然剥がれる可能性もあるわけだが、総務省によれば「シールは貼ってあってナンボのものなので、はがれたら違法」であるという。なんとも融通の利かない話である。

 では、海外製品にも、最初から日本の技適マークを付けて貰えればいいのではないか。これにはわざわざ日本に行って手続きしなくても済むよう、相互承認協定(MRA)というシステムがある。これは、相手国向けの機器認定を、互いに自国内で手続きできるという仕組みだ。

 ただ問題は、このMRAの認定機関は欧州と日本にはあるが、米国にはまだないため、日米間では実働していないというのが現状である。総務省によれば、米国の認定機関がいつできるのかもわからないという。

 まだワイヤレス製品がそれほど存在しなかった時代、特定の取り扱い事業者間での取り決めならば、シールの有無云々でよかった。しかしすでの我々の身の回りにはワイヤレス製品が数多くあり、今後ますます増えようとしている。しかも新しいワイヤレスイノベーションは、ほとんど米国や台湾からもたらされる現状に、この法律は厳しいものがある。

 シール云々で大騒動と言えば、PSE法問題を思い出す。何かの利権があるのか知らないが、ちゃんとやっても誰も得しないという構造である。ただ電波法の場合は、法解釈の問題ではなく、法がすでに時代に合わなくなったという問題である。

 現行法のままでMRAの整備を待つというのもひとつの考え方だが、現状は無意識の違法者を大量に出すという構造になっている。周知を徹底して、マークがないものは使うな、というのでは、前向きの解決とは言えない。これは現実に合うよう、法改正を検討してもいいポイントではないかと思う。

小寺信は映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作は小寺氏と津田大介氏がさまざまな識者と対談した内容を編集した対話集「CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ」(翔泳社) amazonで購入)。

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