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大画面の有機ELテレビが日本上陸? そのとき国内メーカーは本田雅一のTV Style

» 2012年02月13日 11時00分 公開
[本田雅一,ITmedia]

 前回、「続く」と終わっておきながら、なかなか続きを書かないと担当編集者に怒られ続けてしまった。実はその間に、ソニー「Crystal LED Display」の組み立て方などの取材やディスプレイ市場の調査会社などとのミーティングなどをこなしていた。Crystal LED Displayに関する取材成果の一部は、ITmediaの姉妹誌である@IT MONOISTに2月16日に掲載されるとのことなので、楽しみにしておいていただきたい。ソニー自身の言葉からは分からない部分も含め、かなり突っ込んだ仮説を立てて記事を書いてみた。商品化はまだ先だから、単なる知的好奇心を埋めるに過ぎないが、未来について話を聞くのはいつでも楽しい。

「Crystal LED Display」の試作機。Crystal LED Displayは、R(赤)、G(緑)、B(青)の微細なLEDを表示画素として利用した自発光ディスプレイ。CESの展示機は55V型で、フルHD解像度だった

 さて、話は本連載の続きに戻そう。

 前回書いたように、韓国メーカー2社は「2012 International CES」のプレスカンファレンスで“テレビの画質”という側面に関して、あまり強く訴求しなかった。もちろん、両社とも解像度が縦横2倍以上となるクアッド・フルHDや4K2Kといった解像度について、何も取り組んでいないわけではない。LG電子が展示した4Kパネルに偏光フィルムを組み合わせた3Dディスプレイは印象的だった。

 しかし全面に押し出しているのは、あくまでもデザイン。画質に関しては、スペックとして解像度が向上、あるいはディスプレイ方式として液晶から有機EL(OLED)へと変化すれば、それで十分に伝わると考えているのかもしれない。一般の消費者の観点では、どんなに高画質化の努力をして、実際に良い映像を出していても液晶は液晶、OLEDらしい抜けの良い発色と高コントラストが実現されていれば多少、色や階調の再現性が低くともOLEDはOLEDと捉えられてしまうだろう。こうした”割り切り”が、現時点においては良い方向に作用していると強く感じた。

LGは、CESのプレスカンファレンスで「Ultra Definition」と呼ぶ3840×2160ピクセルの84V型テレビを発表した。狭額でファッショナブルなスタンドを備えた“シネマスクリーンデザイン”もプッシュ

 では、日本のメーカーは、何をやろうとしているのだろうか?

高付加価値路線に回帰するソニー

 日本のテレビメーカーで、もっとも多くのテレビを製造しているのは世界第3位のソニー、その次が世界第4位のパナソニックである。ソニーは昨年後半、”高付加価値路線に行く”と明言したように、量販店で安売りするボリュームゾーンのテレビに力を入れることをやめている。日本でもテレビの価格破壊は凄まじい勢いで進んでいるが、北米では昨年末、60インチ液晶テレビの最廉価モデルが1000ドルを切る状況だ。販売チャネルは異なる種類の大規模流通企業が握っているため、良い製品を作っても、それを評価してもらうチャンスはほとんどない。良さを説明するチャンスが少ないからだ。結果、シェアを追い求めると赤字覚悟で流通に製品を流さざるを得なくなる。

 そこで高付加価値製品に再び力を入れ始めたのが、昨年だったというわけだ。今後、ソニーは北米での台数シェアを落としていくだろうが、高級機でどう存在感を出していけるかが1つの注目点になると思う。ちなみにCES帰りのロサンゼルスでチェックしてみたところ、ソニーの“BRAVA”「HX9シリーズ」(日本でのHX920シリーズに相当)が55V型モデルで約2000ドルを付けていた。60インチ廉価モデルの2倍の値段で55V型が売れている(実際、話聞いたマグノリアやフライズの店員によると、このモデルは昨年のヒット商品だったという)というのは、わずかばかりの希望の光と言えるかもしれない。

ソニーがCESで発表した新「HXシリーズ」。米国では2012年第1四半期に発売予定

 とはいえ、この先はどうなるか予想できないというのが正直なところだ。ソニーはデザイン性(欧州などではサムスンやLGのリムレスデザインより、ソニーのモノリシックデザインの方が良いという評価をよく聞く)や画質で評価は受けているが、では韓国勢が有機ELテレビを全面に出してきたときに、高付加価値製品で勝負できるのか? というと(実際の画質で勝ったとしても)難しいかもしれない。

 また、国内に工場を持つパナソニックやシャープは、今の円高、今後予想されるエネルギー不足などで思い切ったことはやりにくくなる。円高や電力問題が片付かない限り、大規模工場で生産しなければ競争力を得られないパネル事業を日本では成り立たせることはできない。そうした意味で、日本の電機メーカーのテレビ事業はターニングポイントに入っている。

昨年末、この連載でもオススメのテレビとして紹介した日立“Wooo”「L46-S08」。S-LED搭載の液晶上位モデルで、表面をヘアライン加工したアルミボディーも目をひく

 しかし、一般の消費者の目線に落とせば、そこはあまり大きな問題ではない。元々、テレビというのは販売する地域ごとに特化した機能や設計になっている。日本の放送規格に合わせて作られ、日本の生活様式や放送事情に合わせた製品が目の前にある。それらの商品の中から、より良い製品を選べばいいという意味では、以前と何も変わってはいない。

 例えば、今の時点で40インチ台の液晶テレビを国内で買うならば、日立の“Wooo”「L46-S08」を選べば間違いなく液晶テレビとして最高レベルの品質を得られる(サイズが一種類しか存在しないのが難点だが)。また映画好きならば、プラズマ対液晶などという対決比較など気にせず、プラズマテレビをじっくり灯りを落とした部屋で評価してみるといい。

 世界のテレビ事情について考えることと、日本でより良い製品を選ぶことは、全くといっていいほど異なることだ。この2つが一致していた時期も、過去にはあったが、今は切り離して考えるべきだろう。

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