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NICT、8K非圧縮映像のIP長距離伝送に成功――公開実験も8Kでさっぽろ雪祭り

» 2014年02月06日 14時29分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は、世界で初めて8K非圧縮映像の長距離IP伝送に成功した。2月5日に行われた記者会見では、実際に大阪ー東京間で8K/60pや4K/60pの映像をやり取りするデモンストレーションを披露した。

NICT、テストベッド研究開発推進センターの河合室長(左)と実験の概要(右)

 今回の実験では、東京ー大阪間にNTTコミュニケージョンズの実験用100Gbps回線を利用して8Kおよび4Kの非圧縮データを同時並列で伝送する仕組みを構築した。「100Gbpsというと、Blu-ray Discの内容を数秒で伝送できるスピード。そのネットワークを利用した長距離の8K映像非圧縮IP伝送は、世界初の試みだ」(NICT、テストベッド研究開発推進センターの河合室長)。また神奈川工科大学などと共同で、「さっぽろ雪まつり」の会場から国内の複数拠点に対し、HD(2K)/4K/8Kの高解像度映像をIPネットワークで伝送する実験も行った。

神奈川工科大学の丸山充教授

 4K/8K映像の伝送実験は地上波衛星放送CATVなどでも行われているが、これらは完成済みの映像コンテンツを家庭に届けるための手法を確立するためのもので、圧縮率の高いHEVC(H.265)のような符号化技術も利用できる。しかし、そのコンテンツを制作するためには、例えば放送局の系列局間やポストプロダクションといった拠点をつなぎ、高品質の素材をやり取りしなければならない。

 説明に立った神奈川工科大学の丸山充教授は、広く一般でも使われるようになったクラウドを取り上げ、8Kのような広帯域映像ストリームデータをクラウドで扱える環境を目指すとした。「QoS保証のためのリソース管理など、まだまだ課題は多い。しかし可能になれば、あらゆる場所で(高解像度映像の)編集作業などが行えるようになる」(同氏)。

 デモンストレーションでは、会場となった東京・大手町のKDDIビルに神奈川工科大学が製作したという8Kディスプレイを設置。大阪・うめきたの拠点に置かれたIPサーバから「さっぽろ雪まつり」の8K/60p映像を伝送・表示してみせた。その横にはトラフィックモニターを設置し、ネットワークのスループットを可視化する。

8Kディスプレイに映し出された雪景色。ちなみに神奈川工科大学の学生たちが市販の4Kディスプレイ4台をつなぎ合わせたという労作だ(左)。あわせてネットワークのスループットを可視化するトラフィックモニターを設置(右)

 8K撮影にはアストロデザインのデュアルグリーン方式カメラを使用。800万画素CCD4枚(R、G1、G2、B)を使って3300万画素相当の映像を得るものだ(単板式カメラにも対応可能)。動画の生データは24Gbpsほどになり、これにオーバーヘッド(IP化や誤り訂正に関わる間接的な負荷)を含めて伝送には28Gbpsが必要だという。ただし、非圧縮の8K/60pを1台でカバーできるIPサーバやゲートウェイは存在しないため、例えば8Kの映像なら16本のストリームデータに分割して伝送する“マルチレーンストリーム伝送”の仕組みを構築している。

 受信側では複数のストリームをリアルタイムにつなぎ合わせ、高解像度映像に再構築するが、当然、各ストリームが完全に同期しないと映像にならない。「チャンネル間の周波数、フレーム同期が重要になる」(丸山氏)という。

マルチレーンストリーム伝送の概要(左)。大阪うめきた拠点の様子。サーバはNTT-IT製の4K対応サーバ2台、ゲートウェイもPFU製4K対応モデル4台を同期して使用する(右)

8Kディスプレイの背後にずらりと並んだ機材

画面の一部。さすがの解像度で遠景の建物も細かい部分まで映し出していた(左)。さっぽろ雪まつり会場の3Dプロジェクションマッピングも(右)

 NICTでは、2011年から研究開発用のテストベッドネットワーク「JGN-X」を運用しており、4月には回線を100Gbps化する計画だ。今回の実験結果をもとに、今後はJGN-X上で利用者のニーズに応じて複数の仮想回線(SDN)を構築する動的オンデマンドネットワークの実験などを加速する。

 なお2月7日には、大阪で実証実験の一般公開を行う予定だ。場所はグランフロント大阪の北館ナレッジキャピタル2階、ザ・ラボ内アクティブスタジオ(最寄り駅はJR大阪駅)。公開時間は、17時からとなっている。

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