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4K/8Kは“成長戦略”、オールジャパンの「次世代放送推進フォーラム」が始動

» 2013年06月17日 18時17分 公開
[芹澤隆徳,ITmedia]

 一般社団法人「次世代放送推進フォーラム」(NexTV-F)が6月17日、都内のホテルで設立発表会を催し、4K/8Kおよびスマートテレビを両輪とする次世代放送サービスの環境を整えることを宣言した。あいさつに立った須藤修理事長は、「2020年の(東京開催を誘致している)夏季五輪には4K/8Kを多くの人たちが楽しめるよう、“オールジャパン”の体制で推進する」と意気込みを語った。

発表会の様子(左)とNexTV-Fの理事長を務める東京大学大学院の須藤修教授(右)

 NexTV-F(ネックスティービーフォーラム)は、総務省「放送サービスの高度化に関する検討会」が5月末に作成したロードマップに従い、次世代放送サービスの早期実現を目指す法人。在京キー局やNHKなどの放送9社のほか、ソニーや東芝といった4社の家電メーカー、スカパー!JSATやKDDIら通信3社の計21社が名を連ね、理事長の須藤修・東京大学大学院教授(情報学)ら3人の大学教授が顧問を努める、まさに「“産学官”一体のオールジャパン体制」(須藤氏)だ。

 活動内容は、次世代放送サービスに関わる技術仕様の検討および評価、実用化に向けた実証実験放送の実施、そして利用促進に向けた広報活動など多岐にわたる。6月下旬には理事会および運営委委員会の下で実作業を行う3つの委員会(技術委員会、コンテンツ委員会、周知広報委員会)が作業を開始するほか、平成24年度補正予算で総務省の「次世代衛星放送テストベッド事業」の委託先候補となっており、4K/8K対応の番組制作・放送システム構築を目指す。

「次世代衛星放送テストベッド事業」

次世代サービスは「テレビの買い替えを無理強いしない」

 総務省のロードマップでは、2013年中に上記の4K/8Kテストベッド構築と検証を行い、来年2014年には衛星放送あるいは通信インフラを活用した4Kの実用化試験放送を実施する予定になっている。具体的な時期は明記せず、「可能な限り早期に」とされているが、夏のサッカー・ワールドカップを目指していることは周知の事実だ。さらに2016年にのリオデジャネイロ五輪を目指して8Kの試験放送も予定している。

「放送サービスの高度化に関する検討会」が作成したロードマップ(左)と柴山昌彦総務副大臣(右)。来賓としてあいさつした柴山氏は、「4K/8Kにスマートテレビを一括導入する次世代の放送サービスに向け、“誰が”、“いつまでに”、“何をするか”というロードマップをとりまとめた。閣議決定を経て、国のIT戦略会議にも明記された」と話す

 ただし、いずれの試験サービスも2011年のアナログ停波とは異なり、「テレビの買い替えを無理強いしない」「関心を持つ視聴者が4K(8K)を体験できる環境を整備する」といった表現にしているのも特長。地デジ化のような大々的なインフラのリプレースではなく、現在のBS/CS放送のような付加価値サービスになりそうだ。

 にも関わらず、アグレッシブなロードマップを作成した背景には、国としての成長戦略と国際競争力強化という狙いがある。もともと日本ではNHK放送技術研究所が開発したスーパーハイビジョン(8K)の試験放送を2020年に開始する計画だったが、4Kテレビの登場などによって状況が変化。ITU-R勧告した「BT.2020」(UHDTV)では4Kも8Kと並んで次世代テレビの規格となり、他方で韓国が一足先に4Kの試験サービスを発表するといった動きもあり、日本が先行するには技術開発や運用仕様の策定を急ぐ必要が生じた。

 Hybridcast(ハイブリッドキャスト)によるスマート化を盛り込んだのも、当面は一般への普及が見込めない8Kを基本にしているのも将来を見越したため。「8Kは人間の視覚が認知できる限界ともいわれている。つまり、技術が進歩してもそれ以上のサービスは出てこない」(久保田啓一理事・運営委員会委員長、NHK)。考え得る最高の放送サービスを提案し、世界に先駆けて環境を整えることで、民生用テレビや放送機器などの製造業のみならず、コンテンツ産業やインフラ輸出、さらに高精細ディスプレイを必要とする医療用やサイネージ用といった特定用途まで、幅広いジャンルで長期にわたるアドバンテージを得られるという目論見だ。

 「最も早く、最も高度な放送サービスを確立して国際競争力を強化する。国民生活を変え、産業競争力を向上させると信じている」(須藤氏)。またフォーラムの名誉会長を務める経団連・前情報通信委員長の渡辺捷昭氏は、「民生用技術の革新につながる。わが国は先頭に立っていないといけない」とハッパをかけた。

ソニーの平井一夫社長(左)。日本電信電話の片山泰祥副社長(中)、経団連・前情報通信委員長の渡辺捷昭氏(右)。それぞれの立場で次世代放送への期待を語った


当面の技術的課題はハードウェアエンコーダー

 4K/8K放送は国際標準化が進められている新しい符号化方式、HEVC(High Efficiency Video Coding、H.265)を採用するが、そのリアルタイムエンコーダー開発が目下の課題だ。発表会ではNTTグループを中心として、三菱電機、NEC、富士通の4社共同で「HEVC-Jチップ」(仮称)を開発するロードマップも明らかにした。

4K/8Kハードウェアエンコーダーの開発ロードマップ(左)、NTTが開発した4K対応のHEVCハードウェアエンコーダーFGPAボード。左のMPEG2エンコーダーは比較用で、右のボードを最終的に左のチップサイズにすることを目指している(右)

 なお、5月の技研公開で三菱電機とNHK技研が映像を分割処理する8Kハードウェアエンコーダーを展示したが、HEVC-Jチップでは、「8Kを一括処理できる能力」(NTT)を目指すという。「2016年のリオデジャネイロ五輪での試験運用を目指している8Kエンコーダーは、逆算すると2014年度末までにエンジニアリングサンプルを出せることが望ましい。それを目指して開発を進める」(NTT)。



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