このプレイヤーソフトを使ってポール・マッカートニーが1971年にリリースしたソロ第2作目のアルバム「ラム」から「アンクル・アルバート〜ハルセイ提督」を選んでみた。この楽曲は当時米国でシングルカットされ、グラミー賞の最優秀アレンジメント賞を受賞している。
オリジナルのデータは96kHz/24bitのWAV仕様なので、最初にそのままの状態で聴いてみた。上質な感じを伝えながらもしっかりとした足取りの確かなサウンドを再現する。ハイレゾらしい鮮度感を備えているがこれ見よがしの誇張感がない点も好感が持てる。そしてもうひとつこのDACのチャーム・ポイントはボーカルの表情が豊かなことである。ポールのボーカルを丁寧に描き出すしバックコーラスを務めるリンダの声がレコーディング当時の艶やかさで甦る。
このDACは前述したようにPCM、DSDの変換が可能である。192kHzにアップサンプリングすると、レンジ感は高まるがいくぶんさっぱりする感じだ。次にDSD2.8MHzに変換すると音の構築感が変わり少し落ち着く印象である。5.6MHzに変換すると抜けがよくなり不思議とベースラインが逞しくなる。その昔、1bitのDACで聴いたさわやかだが薄味な印象とはかなり異なる。12MHzではもう少し上品な表現になった。
改めてCDでもこの曲を再生してみたが、なんだかとても弱々しく聴こえた。ハイレゾ用のマスタリングの恩恵もあるのだろうが、このDACは引き締まった低域を惜しみなく引き出すことも特筆したい。
今から40年以上も前の楽曲ながら、アナログで録音された作品はアーカイブによるハイレゾ化で新たなる命を吹き込まれる。もちろんアナログの状態のままがぼくには好ましいが、レコードからこれだけのクオリティーを引き出そうとすると、技術的にも予算的にも相当な努力を覚悟しなければならない。その一方でハイレゾならすべてがバラ色になるというわけではなく、安価なハードはやはり安価なハイレゾサウンドしか奏でないことも事実である。
アナログレコードと違い、96kHz/24bitのハイレゾ音源はスクラッチノイズからも解放してくれるので、ある意味でマスターテープに近づくことができるわけだが、「e22」はその外観からは想像できないパフォーマンスで実に幸せなサウンドを届けてくれる。そしてこのモデルは、ぼくがこれまでに避けてきたPCMからDSDにデータを変換して音楽を楽しむというアナログ的な聴き比べにもしっかりと応えてくれる、実に興味深いDACであることも付け加えておきたい。
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