先週最も読まれた記事は「彼女がいない……独身男性は何割?」。2位は「2011年秋冬モデルに見る、『スマホ時代に最適化』されたauの戦略」、3位は「副業の月収は4万37円……どんなことをしているの?」だった。
2位にランクインした「2011年秋冬モデルに見る、『スマホ時代に最適化』されたauの戦略」や今週のランキングに入っている「『iPhone 4S』と『Kindle Fire』、どっちがスゴい?」に象徴されるように、この時期、携帯電話についてのニュースに注目が集まっている。特に今秋は、先日亡くなったスティーブ・ジョブズ氏が生み出したiPhoneを従来のソフトバンクだけでなく、KDDIでも販売することが話題となっている。
ただ、筆者はそのiPhoneをめぐる報道と受け止められ方に関して気になったことがある。日経ビジネスが9月22日早朝に「KDDI、『iPhone5』参入の衝撃」というスクープ記事を出し、各社が追随報道をしたわけだが、その日、ソフトバンクの株価は前日終値の2602円から320円安(12.3%安)の2282円となった。
しかし、AppleがKDDIとの提携を正式に発表したのは10月4日夜なのだが、翌10月5日のソフトバンクの株価は前日終値の2420円から107円安(4.4%安)の2313円とそれほど下がらず、9月23日の水準を上回って引けることとなったのである。
もちろん、その背景にはKDDIが厳しい契約を強いられているのではないかといった観測もあったからかもしれない。しかし、ソフトバンクのキラーコンテンツであるiPhoneが他社で販売されるという公式アナウンスが、あくまでその時点では観測に過ぎない記事より影響力が小さいというのは筆者には少し驚きであった。日経グループは信頼性が高い媒体と筆者は思うが、日立と三菱重工業の合併報道のように報じた内容が実現しないことも少なくない。
だが、その後、ソフトバンクが出したリリースを見て、その理由が分かった。ソフトバンクは10月3日から5日にかけて、自社株の取得を行っていたのである。しかも結構大規模で、502万8800株を118億9983万3600円で購入している。同社株のこの3日間の出来高は4741万1300株なので、実にその10.6%を自社株買いが占めていることになるのだ。
この間の流れを表でまとめると次のようになる。
日時 | 出来事 | ソフトバンク終値 | ソフトバンク出来高 |
---|---|---|---|
9月27日 | Appleが10月4日のイベントの招待状を送る | 2133円 | 1348万800株 |
9月28日 | ソフトバンク取締役会で自社株取得を決議 | 2214円 | 1208万9700株 |
9月29日 | 2259円 | 1157万5200株 | |
9月30日 | 2292円 | 1198万9400株 | |
10月1日 | − | − | |
10月2日 | − | − | |
10月3日 | ソフトバンク自社株取得 | 2368円 | 1528万5900株 |
10月4日 | ソフトバンク自社株取得、夜にiPhoneをKDDIでも発売する正式アナウンス | 2420円 | 1702万2300株 |
10月5日 | ソフトバンク自社株取得 | 2313円 | 1510万3100株 |
10月6日 | スティーブ・ジョブズ氏死去 | 2306円 | 1106万4300株 |
ソフトバンクのリリースでは自社株買いの目的を「経営環境の変化に対応した機動的な資本政策を遂行するため」としているのだが、結果的に10月4日夜のAppleの発表による暴落を防げたことになる。もしこの自社株買いがなければ、10月5日の株価は10%以上下がり、9月27日に記録した年初来安値を下回る水準となっていてもおかしくなかっただろう。9月22日の10%以上の暴落は各社が記事にしたのだが、10月5日はそれほど下がらなかったために大きな話題とならず、ソフトバンクのイメージダウンや株主からの批判は避けられた。
ちなみに、自己株式の取得に当たっては相場操縦的行為を防ぐためにガイドラインが定められているが、リーマンショック時に自社株買いルールの変更が検討されたように、暴落に際しては暗黙の了解である程度認められているようである。まあ、もちろん今回のソフトバンクの自社株買いは偶然、たまたまAppleの正式アナウンスの前後になっただけだろうから、そんなことは気にする必要はないが。
9月29日に行われた秋冬携帯発表会では、「いつもより元気がない」などとTwitterで書かれていたソフトバンクの孫正義社長。震災後は自然エネルギーについての言動が注目を集めていたが、盟友のスティーブ・ジョブズ氏も失う中、本業での手腕が問われる日々に再び戻りそうだ。
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