超高速をうたう“UWB”の具体像が見えてきた。4月8日の「Intel Developer Forum Japan Spring 2004」では、UWB技術を使った通信方式の1つである「マルチバンドOFDM」のトランシーバチップが披露され、来場者の注目を集めた。2005年末にも、各家庭で同技術を採用したデバイスが登場する見通しという。
UWBとは、Ultra Wide Bandの略であることからも分かるように、電波の出力を絞る代わりに3.1G〜10.6GHz帯という“広帯域”を利用して、高速通信を行う技術。米Intelなどは、この帯域を利用してマルチバンドのOFDM通信を行う方式――すなわちマルチバンドOFDMの標準化を目指している。
マルチバンドOFDMでは、伝送距離が3メートル以内なら速度は最大480Mbpsを実現するとされている。6メートル以内なら200Mbps、11メートル以内なら110Mbpsとなる。
Intelのシニア・フェロー兼コミュニケーションズ・テクノロジ・ラボ・ディレクタのケビン・カーン氏は、「UWBは、短距離で広帯域とポータビリティが求められる分野に最適」と話している。通信事業者が提供するアクセス回線の“ラストワンマイル”というよりは、むしろPC/プリンタ/デジカメ/モバイル端末などを家庭内で無線接続して、配線を簡略化してしまおうという発想だ。
IntelはマルチバンドOFDMの標準化を目指し、「MultiBand OFDM Alliance」(MBOA)を立ち上げている。背景には、IEEEでUWBの標準化作業が思うように進まなかったことがあるのだが、そのあたりのいきさつは1月27日の記事を参照してほしい。
MBOA加盟企業は、IEEEとは別個に協議を進め、UWBプラットフォーム全体の物理層/MAC層インタフェースを策定してしまいたい考え。「今年中には、スタックを定義したい」(ケビン・カーン氏)。この上のレイヤーで、ワイヤレスUSB(2月19日の記事参照)やWiMediaといった“UWB向けアプリケーション”が稼動することになる。
UWBの業界動向を概観したところで、今回Wisairが開発したマルチバンドOFDMチップ「UB501」に改めて注目したい。マルチバンドOFDMでは、UWBが使える3.1〜10.6GHz帯のうちおよそ4GHzを、528MHz単位で8バンドに分割する仕様になっている(下写真参照)。ちなみに、この528MHzの中にはサブキャリアとガードバンドを含む。
このうち、1つの通信で利用するのは3バンドで、これで480Mbpsの通信速度を実現する。「なるべく早く市場に出そうということで、3バンドを利用するかたちだが、より多くのバンドを利用すれば高速化も可能」(Wisairの日本事務所を務める、イーコネクションズの南耕ニテクニカルマネージャー)。周波数ホッピングにより混信を避け、128デバイスを同一ネットワーク上で相互接続できるという。
UB501は今後、民生機器やPC、モバイル端末に搭載される予定。ベースバンドチップなども今年中には開発をすませ、2005年にはチップセットとして量産体制に入りたいという。「つまり、ユーザーの手にUWB対応機が届くのは、2005年末ということになる」(同)。
もちろん、この間に上記の標準化作業が進む必要があるほか、国内でもUWB向けの帯域が開放される必要がある。とはいえ、“夢のような技術”だったUWBが“現実”のものへと一歩一歩前進していることは確かだ。
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