茶の味「やんねえよ。絶対やんねえよ」Mobile&Movie 第126回

» 2004年08月27日 19時19分 公開
[本田亜友子,ITmedia]
作品名茶の味
監督石井克人
制作年・製作国2004年日本作品

 のどかな山間の町に住む春野家の人々。それぞれが小さく深い悩みを抱えて暮らしていました。母・美子は、子育てが一段落したのを機会に仕事を再開し、家事と両立させていました。その仕事とは、在宅のアニメーター。久しぶりにペンを持ち、1枚1枚真剣に取り組んでいますが、昔の勘はなかなか取り戻せないもの。夫の父であり、アニメーターの師匠であるオジイのアドバイスを受けながら、完璧な作品を目指していました。

 そんな妻・美子の仕事への没頭ぶりを心配しているのが、夫のノブオ。自分のわからない世界で、絆を深めている美子とオジイが、内心おもしろくありません。さらに、近頃は長男のハジメの様子もどこか変で気がかり。

 ノブオは知りませんが、ハジメの情緒不安定の原因は、恋。言葉を交わすこともないまま、初恋の女の子が転校してしまい、落ち込んでいたのです。しかしハジメは、数日後、今度は転校生としてやって来たアオイに恋をしてしまいます。どうしたら仲良くなれるのか、アオイのことを考えているだけで頬が緩んでくるハジメ。悲から喜への急激な感情の変化に、父・ノブオはとまどっていたのでした。

 そして、ハジメの妹・幸子も悩みを抱えていました。それは、時々巨大化した自分が現れ、自分を見つめていること。いつになったら、その大きな自分が目の前から消えてくれるのか。この悩みを誰にも話せずに、幸子は解決方法を探していました。

 胸のモヤモヤを抱えているのは、春野家の4人だけではありません。美子の弟で、スタジオミキサーをしているアヤノは、いまだに失恋の痛手を引きずったまま。久しぶりに故郷へ戻り、彼女の家を訪ねてみても、心は晴れません。久しぶりに会ったのに、気持ちをうまく言葉にできない自分にイライラ。そんな時、アヤノの携帯電話が鳴ります。相手は、ノブオの実弟で漫画家の轟木でした。

「やんねえよ。絶対やんねえよ」

 轟木の依頼をあっさり断るアヤノ。なおもしつこく食い下がる轟木に

「切っちゃおう」

 とアヤノは携帯のボタンを押して、会話を終了させてしまいました。その、轟木の頼みとは、自作曲のオリジナルCDを製作すること。そのミキシングを、アヤノに任せたい、お金も払うと言って来たのです。そう、轟木も漫画のスランプに陥って悩んでおり、CDを完成させることで自信を取り戻したかったのです。

 携帯電話越しに強く断ったアヤノでしたが結局は引き受けて、轟木の自主制作CDができました。依頼の連絡がなければ、この名曲「山よ」は生まれなかったのです。アヤノのミキサー仲間に

「この曲、俺に預けてくれないか。ミリオンいくかも」

 と言わしめた楽曲。轟木はオジイとデュエットし、親子のかけがえない思い出にもなりました。轟木が願いを叶えた頃、宇宙のはじっこの縁側で、春野家の人々の胸のモヤモヤも、少しずつ消えていったよう。ぜひ劇中歌「山よ」を聞いて、モヤモヤを吹き飛ばしてください。

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