都内を面的にカバーし、月額525円――ライブドアが衝撃的低価格の公衆無線LANサービス「D-Cubic」を発表した。これまで複数企業が参入したものの、普及が進まない公衆無線LANサービスにあえて切り込んだ背景や勝算、今後の展望をライブドアに聞いた。
「これまでの公衆無線LANサービスがうまくいかなかった理由は2つ、価格とエリアだ」――照井知基上級副社長はこう分析する。商用無線LANサービスは国内でも複数展開されているが、主なサービスの月額利用料は1500円程度と「D-Cubic」の約3倍。エリアは駅や喫茶店などに限られ、普及は進んでいないのが現状だ。
D-Cubicは、525円という低価格と電柱利用によるエリアの面的カバーで、無線LANを一気に普及させる構えだ。
「500円という金額ありきだった」――照井上級副社長は振り返る。ライトユーザーでも気軽に払える額として、まず500円(税別)という値段を決めたという。
インフラだけで採算がとれるかは微妙なラインだが、周辺サービスで総合的に利益をあげる目算だ。申し込み時にライブドアIDを取得してもらい、オークションやショッピングといったポータルコンテンツに誘導する。
ライブドアIDを持っていれば、D-Cubic利用料を支払わなくても、ポータルの各サービスに限って閲覧可能。ポータルへのアクセスを増やして広告媒体としての価値を高める作戦だ。アクセスポイント限定で広告を配信するシステムも開発し、地域をピンポイントに狙えるマーケティングツールとして売り出す。
法人向けサービスにも力を入れる。VPN対応など、セキュリティや安定性を強化した法人向け回線を、個人向けよりもやや高額で直販するほか、日本アイ・ビー・エムやパワードコムなどパートナー企業に卸す。
サービス開始当初の投資7億円――山手線圏内の2200アクセスポイント設置費用――を回収できるユーザー数は15〜20万だが、将来は数百万ユーザーを獲得する目標。400万ユーザーを集めたYahoo!BBの位置を狙う。「そこまでやらないとビジネスとして面白くない」
従来のホットスポットは、喫茶店やファーストフード店などと個別に交渉して機器を置いていたため、屋内が中心でカバーエリアが狭かった。D-Cubicでエリアを面展開できたのは、パワードコムとの提携のおかげだ。
パワードコムのFTTH回線を活用して電柱にアクセスポイントを設置。屋外でも無線LANが使える環境を整えた。鷹山とも提携し、サービス終了予定のPHS「アステル東京」の基地局にアクセスポイントを置く計画だ。
電波が届く範囲は、アクセスポイントから半径100メートル。屋内まで届くケースもあるという。パートナーキャリアと協力し、商業ビルなどに屋内アクセスポイントを順次設置して電波の穴を埋めていく計画だ。
セキュリティは、IDとパスワードによるログイン認証と、SSID、WEPキーで確保する。それ以上はユーザーに任せる方針だ。セキュリティレベルを高めればその分コストに跳ね返り、低価格サービスが維持できなくなるため。ログインページにセキュリティに関する警告やQ&Aなどを掲載してユーザーを啓もうしていく。
無線LANインフラと、同社が扱っているP2P通話ソフト「Skype」を組み合わせれば、いつでもどこでも通話できる環境が定額で可能になる。このため、同社の無線LAN参入は携帯電話事業への布石ととらえる向きもあるが、照井上級副社長は「電話をやるつもりはない」ときっぱり否定する。
「Skypeは電話ではなくP2Pのツール。たまたま音声を載せられるだけで、電話番号も発行されないし、留守電や転送機能もない」と、Skype=電話との捉え方を否定する。
無線LANとSkypeに対応した携帯端末がパートナー企業から販売されたり、D-Cubicを携帯電話事業者向けの無線インフラとして提供する可能性はあるが、同社が自前で携帯事業を行う意思はないと強調した。
ただ、低価格で定額なD-Cubicと無料のSkypeの組み合わせが「結果的に」携帯電話を駆逐する可能性はあるとした。
カバーエリアは、2006年3月には東京23区に、同12月には全国1都8県に、2007年には全国主要都市に広げる計画。海外展開も「相当先の話だが」ありうるという。中国など、携帯電話が普及し切っていない国で、携帯よりも先に無線LANを普及させるといった未来図を描いている。
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