「位置情報とiチャネルを組み合わせるつもりは、さらさらない。だいたい、今いる場所の情報をほしいと思うだろうか? 例えば(講演会場は御茶ノ水だったが)御茶ノ水の情報をほしいと思うだろうか?」
これもまた、技術として可能だから思いついたサービスにすぎないとの見方だ。
夏野氏は、移動体事業を展開する上で今後カギになると言われるFMC(Fixed Mobile Convergence)の考え方にすら、やや懐疑的な立場をとる。「(業界関係者が使う)ワードとしては有名だが、それが生活にどう関わるかというところまでは、議論が達していない」。FMCだFMCだと繰り返すのでなく、“それで何がいいの”という部分を、説得力をもって語れるようにする必要があるという。新規事業者の標榜するデータ通信サービスも同様で、例えばPCと連携できるとしても「PC連携って何?」とそのあいまいさを指摘する。
一方で夏野氏が激賞するのが、iモードFeliCaを使った各種サービスだ。夏野氏は「私は立ち食いそば屋でおサイフケータイがいかに優れているかを話し出すと、止まらなくなる」と、嬉々としてFeliCaの利点をアピールする。
「具を追加で頼もうとすると、おばちゃんが濡れた手でお釣りをわたしてくるので汚い。うわあ、びちゃびちゃだあ、となる。これがおサイフケータイならスムーズだ。問題は一食の単価が上がることで、290円ぐらいで食べようと思っていたところが、530円ぐらいになってしまう」
こうした“技術中心でなく生活内での利便性中心”の思想を1つの言葉に凝縮したものが、現在ドコモが掲げている「生活インフラとしての携帯」というスローガンになる(2004年6月21日の記事参照)。iモードFeliCaを事業の中核に据えて、リアルの世界との連携を高めようとの考えだ。夏野氏は、おサイフケータイは分かりやすいと改めて主張し、ドコモはサービスがどういうメリットがあるのか、ユーザーの目に見えるかたちで提示できると話す。
「ドコモはIT業界の事業者として、通信事業者として、どうというのではない。(リアルの生活に絡むことで)それ以上の存在に我々はなりたい」
(短期集中連載・終わり)
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