“GPS搭載必須”に向け、どうなる携帯ナビ

» 2005年10月18日 22時35分 公開
[斎藤健二,ITmedia]

 “GPS携帯”といえば、これまではKDDIの専売特許だった。しかし2007年に向けて、GPS機能が携帯の基本機能になろうとしている。NTTドコモ、ボーダフォンもGPS機能搭載3G携帯電話を投入し、位置情報機能を巡る状況は、活況を帯びてきた。

緊急通報時の位置情報提供目指し、GPS必須へ

 各キャリアが相次いでGPS機能搭載端末を投入し始めた背景にあるのは、総務省が2004年春に打ち出した方針だ。2007年4月以降、3G携帯電話は原則としてGPS機能を搭載する。

 携帯電話の普及に伴い、110番などの緊急通報を携帯電話からかけることが増えてきた。固定電話であれば通報者の位置は比較的簡単に把握できるが、どこにでも持ち運べる携帯電話の場合、位置の特定が困難。その結果、通報後パトロールカーなどが駆けつけるまでの時間(レスポンスタイム)が、長くかかるようになってしまった(2002年1月29日の記事参照)

 こうした状況をGPS携帯で解消するのが狙いだ。携帯電話にGPS機能を載せ、緊急通報時にGPSで自動測位。警察や消防に位置情報を通知することで、レスポンスタイムを短縮できる。

 同様の規制は、日本だけでなく世界各国で実施されようとしている。「日本では2007年4月から3G携帯電話に義務づけ、米国では2006年から95%以上の携帯に搭載を義務づける。欧州、中国でも同様の流れがある」とナビタイムジャパンの大西啓介社長は話す。

位置情報のキラーとなるか? ナビゲーションサービス

 GPS機能を搭載するそもそもの目的は、緊急通報への対応だが、これによって機器のコストアップは免れない。せっかく載せる機能を活用できるサービスの提供が、携帯キャリアとしては必須となる。そこで注目されるのが、携帯を使ったナビゲーションサービスだ。

 この分野で先行しているのがナビタイムジャパンだ。同社はもともと経路探索エンジンのライセンスからスタートしたが、自社で携帯向けナビゲーションサービス「NAVITIME」の提供を開始。現在はエンジンをASP提供するほか、携帯キャリア向けに技術提供を進めている。KDDI向けのEZナビウォークのほか、ドコモのGPS搭載FOMA「SA700iS」のナビサービスにも採用された。中国やタイの携帯キャリアにも提供中だ。

 KDDIはEZナビウォークのユーザー数を8月末で50万人強と発表しており、ナビタイムの公式サイトも合計で30万人強のユーザーを抱えている。

 GPS機能普及の世界的な追い風に乗って、同社の鼻息は荒い。「ナビゲーションエンジンで世界のデファクトスタンダードを目指す。日本人が日本の携帯を持って、世界のどこでも迷わない。仏やイタリアの人が、自国で買った携帯を使って日本でも迷わない。そうしたサービスを目指している」とナビタイムの大西社長は話す。

 もちろん、この分野を狙うのはナビタイムだけではない。ボーダフォン初のGPS付き3G携帯「903T」向けにナビゲーションサービスを提供するゼンリンデータコムもデファクトスタンダードの座を狙う。

 「ボーダフォンへのプリインストールを皮切りに、FOMA公式、FOMA端末へのプリインストール、そしてドコモ標準、au標準を目指していく計画」だと、同社の林秀美社長は話している(10月5日の記事参照)

ナビゲーションのポイントは、エンジンか地図か

 ナビゲーションサービス提供にあたり、両者が得意とする分野は実は異なる。

 NAVITIMEは、道路網から鉄道網まで含めた経路探索エンジンと、その結果を表示する地図表示ビューアエンジンを強みとする。経路探索に使うネットワークデータや、地図データは他社のものを使っている。このエンジンの性能がナビゲーションの強みだと、同社は主張する。「経路探索ナビゲーションをユーザーが使い続けるかどうかは、信頼性だと思っている。思いもよらないいいルートが出たら感動して使い続けているかもしれない」(大西氏)

 ゼンリンデータコムは、逆に自社で地図を持ち、カスタマイズできることを強みだとする。携帯向けナビゲーションサービス「いつもナビ」を提供するにあたり、同社は新しい地図を用意した。特徴は「徒歩向けにカスタマイズした詳細な地図データ」だとうたう。通常の地図データには含まれない、歩道橋や階段、エスカレータのデータを携帯用に盛り込んだ。逆に、経路探索エンジンは自社開発にはこだわっていない。例えば鉄道の経路探索は駅前探検倶楽部のエンジンを使っている。

ナビタイムのプロダクトカテゴリー。時刻表や地図のネットワークデータ、地図データは専門会社から供給を受ける。逆にいえば、世界のどの地図でも同じようなサービスが提供できる
地図自体を整備したゼンリンデータコム。屋根や段差の有無を道路ネットワークデータとして持つことで、「雨に濡れないルート」「段差の少ない(楽な)ルート」といった検索が可能だ

 現在でこそ、唯一ともいえる高いシェアを持つナビタイムだが、今後は各社からチャレンジを受ける立場になる。「2007年にはGPS携帯がほぼ出そろう。類似サービスが出てくることは想像していた。類似サービスの先を行かなくてはいけない。(ナビタイムでは)携帯のセンサーを生かしたサービス、ユーザーから上がってくる要望、ニーズを先取りした開発を進めている。(ライバルの)ずっと先を逃げ切ろう」と大西氏は話す。

 ナビタイムは徒歩+電車+タクシーに続き、カーナビゲーション機器の代わりを携帯電話のナビで行うサービスの提供を始めている。KDDI向けの「EZ助手席ナビ」に続き、中国China Unicom向けに「Voice Navi」(10月18日の記事参照)、米Verizon Wireless向けにも「MyRoutz」という自動車用ナビゲーションサービスを提供する予定だ。GPSが標準機能になっていく中で、サービスの幅もクオリティも向上していくのは間違いない。

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