携帯カメラを進化させる上で、NECの開発陣が着目したのが“携帯固有”の手ブレ。決定キーがシャッターの役割を担う携帯電話では、シャッターを切ったときに、端末自体がわずかに前に押し出されてしまい、ブレが生じやすいのだ。
こうした写真撮影時の失敗を、少しでも減らそうと開発されたのが、6軸方向の手ブレを防ぐ「スーパーデジタル手ブレ補正機能」。どのような仕組みで実現しているのかを、NEC埼玉でカメラコンポーネント開発を手掛ける三島孝夫氏に聞いた。
本題に入る前に、まずは、「N902i」で採用されたデジタル手ブレ補正の仕組みをおさらいしよう。
手ブレは、シャッタースピードが遅くなればなるほど発生しやすくなる。デジタル手ブレ補正では、まず最初に複数枚の写真を高速連写する。補正なしで1/10秒のシャッタースピードの場合、補正時には1/40秒で4枚を連写。この4枚を合成することで1/10秒で撮った写真と同じ明るさにするわけだ。
端末内では、連写した4枚の写真を1枚ずつ比較する処理が行われ、画像ごとにブレた部分をずらし、位置を合わせて合成する。こうした一連の作業を経て、ブレのない写真が生成される。こうしたブレの補正を、さらに高度化させたのがスーパーデジタル手ブレ補正機能だ。
静止画デジタル手ブレ補正機能を初めて搭載したN902iは、縦横方向の手ブレに対応している。しかし、実際に携帯カメラを使うシーンで起こりやすい手ブレは、それだけでは防げないことが分かったという。「携帯カメラを使った写真撮影では、シャッター代わりの決定キーを押したときに端末が前に押し出されてしまい、前後方向のブレが生じる」。これが6軸の手ブレ補正を開発するきっかけになった。
新たに開発された6軸方向の手ブレ補正は、これまで対応していた縦ブレや横ブレに加え、前後方向のブレと、それぞれの回転ブレにも対応。携帯ならではの手ブレをしっかりガードできるようになった。
「カメラ部のレンズ機構やCCDは、N902iと同じ」という中、どのような仕組みでスーパーデジタル手ブレ補正を実現しているのか。「異なるのはソフトウェア部分」だと三島氏は説明する。
「N902iでは、連写した4枚の画像全体を比較し、それぞれのズレを補正してそのまま合成するという手法をとっていました。一方、N902iSでは、連写したそれぞれの画像を碁盤の目のように分割し、1つ1つのブロックごとに比較して合成するという処理を行っています」
前後方向のブレや回転ブレでは微妙に遠近の差が出るため、より小さなブロック単位で違いを検出し、合成することがポイントになると三島氏。ブレを補正する課程の中、端末内ではすさまじい量のデータが処理されていることになる。
こうした処理を行いながらも、補正にかかる時間や消費電力は、前モデルのN902iと同じだと三島氏。「アルゴリズムを見直し、端末内で重い処理を行っていることを感じさせないレベルに仕上げています」
スーパーデジタル手ブレ補正機能という技術も、操作が難しいのではなかなか使ってもらえない。そのため、こうした技術が入っていることを感じさせることなく、“普通に撮影する中で、自然と失敗が減っているのが分かる”ような設計にした。
例えば手ブレ補正を「オート」に設定しておくと、明るい場所での撮影時には自動的にオフになる。「シャッタースピードがある値より遅くなったときだけ手ブレ補正がかかる」(三島氏)ように設計し、ブレやすい環境下のみ機能が働くようにしている。
また、被写体ブレや、流し撮りのように敢えてブレるように撮影した場合は、補正がかからないようになっているという。無理に補正すると、画像が破綻するからだ。「手ブレ補正をかけるかかけないか、かけるならどのようにかけるか、といった点はすべて自動的に端末が判断するので、ユーザーの方々は、何も気にせず撮影していただけます」(三島氏)
最近のNEC製FOMAの中には、メールの文面を自動解析して内容に合ったアイコンを表示する「教授」が入っていることで有名だが(関連記事)、今度はそれに「アシスタントカメラマン」も仲間入りしたことになる。失敗写真が減っていることに気付いたとき、携帯の中でがんばっているアシスタントのありがたみを実感できるだろう。
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制作:ITmedia +D 編集部/掲載内容有効期限:2006年7月23日