ソフトバンクモバイルは8月19日、携帯電話端末の供給においてカシオ計算機と合意したと発表した。詳しくは別記事(参照記事)に譲るが、ソフトバンクモバイル向けのカシオ製端末は2008年以内に登場する予定だ。今年の冬商戦モデルの注目機種として、ラインアップの一角を占めることになるだろう。
カシオ計算機といえば、これまではauに端末供給する代表的なメーカーであり、タフネスケータイの「G'zOne」やカメラ機能を強化した「EXILIMケータイ」など、人気の高いモデルをコンスタントに投入してきた実績がある。また、“使いやすく・楽しい”オーソドックスな端末作りもうまい。筆者は2006年にカシオの「W41CA」をイヤー・モデルとしてノミネートしたことがあるが(参照記事)、あのモデルは「デザイン」・「高機能」・「使いやすさ」のバランスがよく取れていた。カシオは魅力的な端末開発をする実力派メーカーであり、特に“コンシューマーユーザーの心をつかむ”商品企画力では、最大手のシャープに比肩する力を持っている。
そのカシオ計算機が、au向け専業を捨てて、ソフトバンクモバイルへの端末供給を開始する。ソフトバンクモバイルにとっては自社のラインアップ強化が図れるほか、MNPを使ったauからの流入増加が期待できるなどメリットが大きい。また、カシオの商品企画力やブランド力の高さは、“シャープ偏重”のソフトバンクモバイル向け端末市場を活性化する、よいカンフル剤になるだろう。
ソフトバンクモバイル向け端末市場に進出し、注力するメーカーは、カシオ計算機だけではない。“ドコモファミリー”と言われてきたNECやパナソニックモバイルなど、かつてのドコモ専業メーカーも次々とソフトバンクモバイル向けラインアップの開発・販売を強化する方針を打ち出している。三菱電機が携帯電話メーカーから撤退した今、ドコモ専業を頑なに守っているのは富士通だけという状況だ。
むろん、端末の総販売数で見れば、今でもドコモ向け端末市場は重要だ。今後の通信インフラ高速化や、ドコモが研究開発した優れた先進技術をいち早く市場投入できるという点でも、各メーカーにとってドコモ向け端末市場の重要性は増しており、ソフトバンクモバイル向け端末市場への参入は「ドコモからの脱出」とは言えない。むしろ、ドコモとソフトバンクモバイルの両方に軸足を置くというスタンスだ。その一方で、au向け端末市場に対するメーカーの期待や熱意は、au好調期であった2006年までと比べると明らかに萎縮している。なぜ、このような状況になっているのだろうか。
その理由の1つは、市場全体における端末需要の縮退だ。
今年3月の春商戦では各キャリアともに好調な端末販売数を記録したものの、その後の端末需要は大きく落ち込み、今年度第1四半期の端末販売数は軒並み前年同期比で約2割減という落ち込みになった。これは販売コストの負担が軽減するキャリアにとっては増益要因になるが、端末メーカーにとって販売数減少は頭の痛い問題だ。しかも、契約数1億の大台にのったコンシューマー市場と、2年間の利用が前提になる新販売モデルの影響下では、端末販売数が大幅に伸びることは考えにくい。
また、ドコモ向け端末市場に関して言えば、今年11月から新販売モデル導入後1年目に突入する。新販売モデルは多くのユーザーが2年間の端末利用となるため、1年目の機種変更需要は激減する。一方で、市場シェアの高いドコモの場合、端末需要は新規契約分よりも既存ユーザーの機種変更分の方が圧倒的に多い。そのためドコモの“2年利用契約の1年目”である今年11月から約1年間は、機種変更分の激減からドコモ向け端末市場の総販売数が大きく落ち込むことになる。中長期的に見ればドコモ向け端末市場の重要性は増しているが、メーカーの経営戦略を鑑みれば、“ドコモ向け端末市場を押さえつつ、他キャリアにビジネスの拡大を図る”のは自然な流れだ。
その上で、“ドコモ以外”のキャリアに目を向けると、純増シェアの高いソフトバンクモバイルにメーカーの食指が動くのは、ある意味、当然のことである。特にドコモ向けに端末を作るメーカーにとって、ソフトバンクモバイルはドコモと同じ通信方式である「W-CDMA」の採用キャリアであり、開発・生産の効率化がしやすい。今年に入って不振が鮮明なau向けの端末市場に進出・注力するよりもリスクが低く、メリットが大きいのだ。国内の端末市場全体が冷え込む中で、メーカーの当面の生き残り策がドコモとソフトバンクモバイルへの2正面展開なのである。
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