これぞケータイの“黄金分割”。そのバランスのよさにうならされた──「W41CA」ITmediaスタッフが選ぶ2006年のベスト端末(ライター神尾編)

» 2006年12月26日 16時24分 公開
[神尾寿,ITmedia]
順位 端末名 概要
1位 W41CA 2.6インチ液晶+回転2軸ヒンジ構造、FeliCa、赤外線通信機能、FMラジオ
2位 D903i スライドボディ、着うたフルとWMAに対応、2.8インチ液晶、FMトランスミッター、GPS
3位 911SH 3インチ液晶、サイクロイドスタイル、ワンセグ、Bluetooth
  W44S デジタルラジオ、ワンセグ、3インチ液晶、ヒンジ

使いやすい。そして、使うほどうれしくなる──「W41CA」

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 振り返ってみれば、「W41CA」は多くの点でトレンドを先取りしていた。

 まず、デザインの柱になっている“スリム”は、言うまでもなく今年後半から来年にかけて注目されるトレンドだ。今となっては厚さ22ミリは群を抜く薄さではないが、W41CAは回転2軸液晶や207万画素カメラ、GPS、LISMO、赤外線、FMラジオ、おサイフケータイまで搭載した当時のフルスペック機。多機能・高性能なのにスリムなのだ。

 しかも“使いやすい”。スリム化と同時に横幅も49ミリまで切りつめられ、手のひらに収まりやすくなった。波打つようなタイル状のキー、ユーザーがカスタマイズできるデスクトップ、整然とそれでいて分かりやすく配置された各ファンクションなど、使ってみてうならされることは何度もあった。個人的には、全体的なサクサク感と「#」キーの長押しで点灯できるライトもうれしい。

 「2.6インチ液晶」と「見やすいフォント」も、トレンドを押さえた部分だろう。液晶画面は2.4インチが標準的だった時代を終えて、今年後半は2.6インチから3インチが標準的になった。W41CAの2.6インチは、さらりとそれをまとまりのよいボディに取り込んだ点で評価できる。フォントの見やすさはメールやブラウザを使うといった日常シーンでの満足感を左右するが、W41CAのフォントは太めで見やすく、こちらも好印象だった。

 そうそう、忘れちゃいけないのは“あのペンギン”だ(11月30日の記事参照)。シンプルなシルエットだけでいながら、ユーモラスかつ捻りのきいたペンギンのアニメーションは、筆者だけでなく妻子にもクリティカルヒット。センスのよさを感じた部分だ。

 W41CAは確かに派手ではなかった。しかし、使い始めてすぐに使いやすさを感じて、しかも使うほどにうれしくなる。“手に馴染む”感覚があったのは、よい道具の証だろう。

 ところで、なぜ同じカシオ製で最新の「W43CA」をノミネートしなかったかというと、W41CAと同じ方向性はあると感じながらも、デザインや使いやすさ、機能のバランスが少し崩れていると思ったからだ。少なくとも、筆者の目には黄金分割に見えない。おそらくユーザーのニーズが多かった背面液晶を搭載し、支持された“愛着が持てる”部分のテイストを強化したためと思うが、W41CAの時に感じた絶妙なバランスはなかった。

 トレンドの移り変わりが早く、技術・機能の進化も目まぐるしい携帯電話の世界で、その時々のスタンダードたり得る「黄金分割」をぴたりと見つけるのは難しい。だからこそ、それを実現したW41CAを今年のNo.1に選びたいと思う。

PDAのように使えるスライドボディは、ビジネスパーソンにもお勧め──「D903i」

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 スライドボディは以前から存在していたデザインだが、「D903i」はそれをスリムに、しかも使いやすく洗練させたところに魅力がある。小型化・薄型化を推し進めた結果、かつての野暮ったさは完全になくなり、スタイリッシュなデザインを実現した。この堅実な努力の成果に、筆者がD903iを2位に推す理由がある。

 スライド型の強みである“大きな液晶を正面に配せる”ことを生かした作りもうまい。D903iの大きなコンセプトである音楽機能との相性のよさはもちろんだが、筆者が特に気に入ったのは、2.8インチの大画面をカスタマイズしてPDAのように使える点だ。

 D903iのデスクトップには、カレンダーや直近のスケジュール、さらにメモなどを表示することができ、これがすこぶる使いやすいのだ。例えば筆者はデスクトップ上にカレンダーとスケジュールを常時表示にしているが、こうするとD903iをポケットから取り出すだけでサッと予定が確認できる。さらにそのままワンタッチでカレンダー機能に遷移でき、詳しい予定の確認や新規項目の入力も可能だ。D903iはPDAを使うような感覚で、“ケータイで予定管理”を実用的なものにしている。

 また、ビジネスパーソン向けとして考えると、スライドボディは通話やアドレス帳の操作などが“閉じたまま”できるのも魅力だ。特に着信時は、キーロックをかけていても発話ボタンを押すだけですぐ話し始められるので、何かをしながら電話を取ることが多いビジネスシーンでは実に重宝する。D903iはスリムになったこともあり、スーツ姿によくなじむのだ。

 ユーザーインタフェース(UI)が優れているのもD903iの魅力。2.8インチ大画面と組み合わされたスピードセレクターは、サイトやオフィスドキュメントの閲覧はもちろん、カレンダー機能の操作時など、さまざまなシーンで使いやすい。また、D903iはツータッチキーで登録サイトへのダイレクト接続や、iアプリの起動ができる。ユーザーがよく使う機能をカスタムメニューとしてまとめることができるなど、カスタマイズ機能も豊富だ。すべてのユーザーが100%満足できるUI作りが不可能である以上、ユーザーが使いやすくカスタマイズできる領域を多く取っていることは高評価できる。

 また、フォントの見やすさもD903iの好印象に繋がっている。この部分は1位に挙げたW41CAを上回り、D903iのそれは見やすいだけでなく、高品位である。MacOSのヒラギノフォントを見ているような嬉しさがある。日本語はグラフィカルで、かつ象徴性のある一種のアイコンなので、フォントが美しいことはユーザーの満足感を大きく左右する。

 このように多くの魅力を感じたD903iであるが、不満も2つある。

 ひとつは「Bluetooth非対応」であることだ。音楽機能の強化、さらにビジネスツールとしての優秀性を考えると、ここはワイヤレスイヤフォンやハンズフリー機器、PCとの接続のためにBluetoothは搭載して欲しかった。特にD903iの魅力にスケジュール機能の使いやすさがあるので、PCとの同期にBluetooth接続が使えたら、さらに魅力は増したはずだ。

 もうひとつの不満が、カラーバリエーションである。“D”シリーズは女性人気が高いことも反映してか、D903iはやさしい色合いで構成されているが、ビジネスシーンでの利用を考えれば、ブラック系のラインアップも欲しかった。

 これらの不満点の解消は、次期モデル以降に期待したい。

クラムシェルの新たな世界を切りひらいた。それは大きい──「911SH」と「W44S」

 クラムシェル(折りたたみ)にも、まだできることがある。やや陳腐に感じ始めていたクラムシェル型のフォルムに、ガツンと活を入れたのがシャープのサイクロイド液晶と、ソニー・エリクソンのデュアルオープンスタイルだ。ワンセグというトレンド機能を導入するにあたり、横向き液晶の世界観を切りひらいた両機の功績は大きい。

 第3位のノミネートにあたり、「911SH」と「W44S」のどちらにするか迷った。万人向けで洗練されているのは間違いなく911SHだが、あえて不利な突出ヒンジをデザインとして消化した点や、次端末以降の伸びしろの大きさではW44Sも捨てがたい。ハイスペックモデルとしての実力は伯仲している。迷いに迷い、ちょっと反則だが、両機を3位として推したい。

photo 911SH
photo W44S

 それぞれの端末を見てみよう。

 シャープの911SHは、間違いなく今の“シャープの強さ”を体現したモデルだ。アクオスケータイのブランドを支えるサイクロイド液晶の品質の高さはもちろんだが、ハイエンドモデルとしての機能の実装のうまさ、スリム化を目指したデザイン上の努力など、評価ポイントは各所にある。サイクロイド液晶が登場しただけで驚嘆したのに、それを1年経たずに洗練させた点も脱帽だ。

 一方、ソニー・エリクソンのW44Sは、良くも悪くもガジェット感が強い。911SHと比べればアクが強く、好みが分かれる。しかし、よくよく見れば、質感の高さは群を抜く。ワンセグの見やすさ、スピーカー音質へのこだわりなど、AV機器にうるさい人にも納得できるできばえだ。ちなみに注目の的になっているサイドのヒンジ部だが、全体的な質感が高いことも相まって、実機で見ると高級感の演出に一役買っている。むしろ“邪魔だ”“安っぽい”と感じるのは外部に露出したアンテナ部で、これが内蔵されていればW44Sはもっと上位に着けたはずだ。

 W44Sは欲が出てくる端末でもあり、縦にも横にも端末が開く“モバイルシアタースタイル”の状態で、PCやキーボード付きPDAのような機能や使い勝手を求めたくなる。ここが基本的に閲覧だけで十分に満足する911SHとの違いだ。こうした飽くなき欲望や飢餓感を感じさせるというのも、ハイエンドモデルでは大切なことだ。

 今年はMNPの年ということもあり、多数の端末が発売された。今回ノミネートしたもの以外には、地道な性能向上を高く評価したいパナソニックモバイルの「P903i」など、僅差で上位3位に挙げられなかった端末がある。しかし、その一方で、いくつかのメーカーや特定のモデルで、多品種・短期間開発による息切れや、旧来のスタイルや成功体験から抜け出せずにいる行き詰まりも感じた。単なる焼き直し、勘違いしたデザイン性に逃げたモデルもあったと思う。それでは筆者以上に目利きになったユーザーに通用しないだろう。

 来年後半はMNPの買い換え特需も収まり、端末市場のサイクルは谷間に入る。今年以上にユーザーの心をつかむことが大切になるはずだ。すべてのメーカーが自らの個性とブランドを確立し、発展することに期待したい。



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