日本で勝たなければ世界で勝てない――ノキアシーメンスのLTE戦略(1/2 ページ)

» 2008年12月26日 22時08分 公開
[日高彰,ITmedia]
photo ノキアシーメンスネットワークス代表取締役社長 小津泰史氏

 2007年春、NokiaとSiemensの通信インフラ部門が合併して誕生したNokia Siemens Networks(ノキアシーメンスネットワークス)。携帯電話の世界では、Ericssonに次ぐ世界第2位の基地局メーカーとして知られている。日本でもソフトバンクモバイルの基地局を手がけているほか、パナソニック モバイルコミュニケーションズや富士通と提携し、共同でNTTドコモのLTE(Long Term Evolution)ネットワークを構築することを発表した。ベンダー再編などで激化する通信インフラ業界における同社の優位性や、世界の中での日本市場の位置づけなどについて、日本法人のノキアシーメンスネットワークスで代表取締役社長を務める小津泰史氏に聞いた。

――(聞き手:日高彰) 通信インフラベンダーとしてノキアシーメンスネットワークスが発足して1年9カ月になりますが、エンドユーザーにはあまりなじみのない分野でもあります。あらためて、どんな会社なのかご紹介いただけますか。

小津氏 弊社はNokiaとSiemensのネットワーク事業部門が合併してできた会社です。Nokiaというと、世界最大のシェアを持つ携帯電話メーカーという印象があるかと思いますが、携帯電話事業やマルチメディア関連事業に加え、企業向け通信システムを構築するエンタープライズ事業、そして、通信事業者に通信システムを供給するNokia Networks事業がありました。一方のSiemensはドイツの総合電機メーカーで、通信部門としてSiemens Communicationsを擁していました。このNokia NetworksとSiemens Communicationsが本体から独立して合併したのがノキアシーメンスネットワークスです。

 合併の目的はいくつか挙げられます。まず無線アクセスの事業においては、弊社は毎月15万台の携帯電話基地局を生産しています。15万という数は、日本の携帯主要3社の合計基地局数に近い数字だと思います。つまり、日本にあるのと同じ数の基地局を毎月作り、世界に設置しているというのが、我々の事業規模だと言えます。もともと2社は通信インフラの分野でそれなりの規模でしたが、1社になったことでより規模が大きくなりました。

 しかし、ほとんどの基地局はまだ第2世代のGSMで、世界的に見ればW-CDMAはまだまだこれから立ち上がるという段階です。一方で今後はLTEが控えていて、さらにモバイルWiMAXもある。つまり、グローバルで基地局のビジネスをしようと思うと、これら4つの技術を同時に開発しなければなりません。1社が抱える技術者だけでは開発を続けることが難しくなってきました。ですので、開発力を強化することが1つ目の目的です。

 2つ目には規模を稼ぐということが挙げられます。ご存じのように、通信機器の市場にも中国勢が台頭してきており、相当の勢いで価格が下落しています。コストの点でこれに対抗するには量産効果を上げるしかない。とても1社の開発・生産体制ではまかなえなくなってきました。

 また、最近の主要マーケットはインドや南米、アフリカなどの新興国に移りつつあります。現地の通信事業者は、電波のライセンスを持っているし、資金もある。ところが、ビジネスをする上でのノウハウが足りないという状況です。携帯電話の事業を円滑に行ってもらうには、ハードウェアを売っているだけではダメで、機材をどのように設営すれば良いのか、エリア展開をどう進めればよいのか、請求課金システムをどうすれば良いのか――といったサービス全体のオペレーションをサポートする力が、ベンダーには求められています。こうしたノウハウは半年や1年で蓄積できるものではありません。そこで、サービス部門の技術者の数を確保し、新興市場に集中させるためにも2社が1社になったという背景もあります。

―― 他社の通信システムに対する優位点は。

小津氏 最新の製品であるLTE基地局は、ソフトウェア無線の技術を使って通信方式を切り替えることができます。W-CDMAにも使えるし、GSMにも使える。GSM/W-CDMA/LTEという3世代の規格を1つのハードウェアでサポートしています。

 LTEの端末はまだ出ていませんが、各事業者はいずれLTEに移行せざるを得ない。携帯電話の基地局というものは、設置から6年くらい使い続けます。例えば、今日基地局を設置すれば、次に設備を更新するまでに必ずLTEの時代が来るわけです。

 LTEへの設備投資はまだ早いと考える事業者もあると思いますが、我々の基地局ならまずW-CDMAで運用していただいて、時期が来たらソフトウェアの更新でLTEに対応できる。決して、投資がムダにならないわけです。

 これは我々にとっても同じメリットをもたらします。現在月産15万台ぺースで量産している基地局が、出荷開始当日からまとめてLTEに対応できる。新サービスのスタート時点から、設備を量産価格で提供できるわけです。この2点が他社と一番違うところです。

―― 御社はLTEに加えWiMAXも手がけていますが、高速次世代通信の市場性についてはどのようにお考えでしょうか。

小津氏 モバイルWiMAXは非常に魅力的な技術だと思います。今後いろいろな国で導入が進むでしょう。最大の顧客は米Sprint NextelからWiMAX事業を引き継いだ米Clearwireですが、そのほかにもいろいろな納入先があり、DSLやFTTH以外の高速インターネットアクセスとして拡大すると考えています。

 ただ、我々がこれまで取り引きしてきたのは携帯電話事業を中核とする企業が主です。GSMからW-CDMAを経てLTE、あるいはCDMA2000からLTEへという流れですから、ほとんどがLTEに行かれます。そのため、ノキアシーメンスとしては、WiMAXよりもLTEのほうが圧倒的にボリュームが大きいビジネスとなります。また日本については、WiMAXとLTEの両方に対応するにはリソースが十分ではありませんので、LTEにフォーカスするということに決めております。

グローバル企業として日本市場にどうコミットするのか

―― 日本の携帯電話事業者向けにはいつごろからビジネスを行っているのでしょうか。

小津氏 ボーダフォンの日本法人(現ソフトバンクモバイル)がW-CDMAのネットワークを展開する際に、ベンダーの1社として当時のNokia Networksを選んだところから始まっています。NTTドコモ向けには、研究開発段階ではこれまでもご一緒させていただいたことがありましたが、事業展開を前提としたネットワーク構築は、今回のLTEが初めてになります。

―― ドコモのLTEネットワーク構築にあたっては、パナソニックモバイルコミュニケーションズや富士通と連携して事業を進めるということですが、それぞれ自社でも通信インフラ事業を手がけているベンダーです。どのように役割分担していくのでしょうか。

小津氏 日本における戦略は明確で、我々の強いところを紹介し、そのメリットを活用していただくという点に特化するつもりです。強いところというのは、ITU等で標準化された技術を元に製品を開発し、大量に生産することで安く設備を提供するということです。

 逆に、お客様(キャリア)と一緒に開発した技術を世界に向けて発信する役割も期待されるでしょう。例えば、国内ベンダーとの協業で得られた技術を、世界標準になるようグローバルに紹介するということも我々の使命だと考えています。

 携帯電話事業はグローバルなビジネスですが、各国で独自の事情というのが必ず発生します。例えば日本の新宿駅は、1日に400万人が携帯電話を持って通過する場所です。地上だけでなく地下鉄も本数が多く、大量の端末がエリアに入ったり出たりする。これほどのトラフィックが発生する場所は世界のどこを探してもありません。

 こういう場所でも高い品質のサービスを提供するノウハウは、日本の通信事業者やベンダーしか持っていないのではないでしょうか。こうした日本独自のところは日本のベンダーと組みたい。その相手が基地局については、パナソニック モバイルコミュニケーションズ、コアネットワークについては富士通だったということになります。

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