最近、「ケータイが高くなった」と言われる。
端末売り切り制度が導入された1994年以降、本来は高価な携帯電話端末を安価に販売するために根付いたインセンティブモデルという販売方法がある。通信キャリアが販売店に対し、新規契約数や端末販売台数などに応じて販売奨励金を出し、販売店はこの販売奨励金を値引きの原資とすることで端末を安価に販売できるものだ。
“0円ケータイ”全盛の頃の携帯3キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル)の販売奨励金総額は最低でも年間2兆円以上ともいわれ、端末1台あたり約4万円もの額となっていた。この販売奨励金は主に新契約時の端末価格の割り引きに多く使われていたので、契約済みの現ユーザーには恩恵がそれほどなく、基本料金や通話料金がなかなか下がらないばかりか、それが別の新規ユーザー獲得のための原資とされている点が問題だった。結果として、日本は新規契約なら端末を安く買えるが、基本料金や通話料金は高価なままという構造が生まれた。
この問題を解消すべく、総務省が開催する「モバイルビジネス研究会」で導入が検討・提案された1案が分離プランである。諸外国では“通信と端末の分離プラン”、いわゆる「完全な分離プラン」が主流。端末は端末製造メーカーが販売し、通信キャリアは通信インフラや通話サービスを提供することで、ユーザーは任意の端末を購入し、任意のキャリアと契約して利用できる。
しかし日本の場合は、通信キャリアが展開するさまざまな独自サービスと端末の機能が密接に結びついているため「完全な分離プラン」の導入は現実的でなく、ユーザーのデメリットが大きい。また、各キャリアで3Gサービスの通信方式が統一されていない(KDDIはCDMA2000、ドコモやソフトバンクモバイル、イー・モバイルはW-CDMA)ため、端末と通信の完全な分離は、KDDIのみ不利に働く可能性もあった。
そこで日本ではキャリアが端末販売を行う点はそのままに、“携帯電話の通信料金と端末価格を分離”する「日本版の分離プラン」(以下、分離プラン)が導入された。端末は原則として値引きなしで販売し、ユーザーはその代金を利用契約とは基本的に無関係に支払うスタイルである。ユーザーが端末代金を(いままで販売奨励金分として計上されていた)値引き額なしで支払うならば、通信キャリアはその分を月々の利用料金の値下げ分として反映できることになる。
これは2年ほどの利用範囲で比べると、結果として合計額は大きく変わらず、最初に引かれていた端末代金が月々少しずつ値引かれる方法に変わっただけと考えることもできる。ただ、この“月々の値引き”は端末購入時の利用契約が継続した場合にのみ有効になるので、新規契約で安価に端末を入手して、すぐ解約──結果として安価に端末だけを入手する、いわゆる「即解約」を防げる。この「即解約」問題は従来のインセンティブモデルをいびつなものにしていた項目の1つだったので、ここだけでも「分離プラン」導入の意味は大きいと考えられる。
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