モバイルビジネスの変革は“段階的に、確実に”──総務省の報告書案まとまる「モバイルビジネス研究会」第8回会合(1/2 ページ)

» 2007年06月27日 14時34分 公開
[石川温,ITmedia]
Photo 報告書案が発表されることもあり、会合には菅義偉総務大臣が訪れた

 総務省は6月27日、SIMロックや販売奨励金の是非、MVNOの展開など、今後のモバイルビジネスのあり方を議論する「モバイルビジネス研究会」を開催した。

 これまでの議論を総括する報告書が総務省から提出されたことを受け、今回の会合は研究会の構成員が総務省に質問や確認を行う形で議論が進められた。

 報告書は、モバイルビジネスの現状と今後の展開を整理し、今後の方針案を示したものとなっている。ただしその内容は、モバイルビジネス研究会開催当初の白熱した討議内容や、先週末に一部マスコミが報道した「販売奨励金の廃止」という過激な内容に比べると、ややトーンダウンした感もある。

モバイルビジネス市場の現状について

 日本における携帯電話/PHSの契約数は1億を突破し、うち87%がインターネット接続を利用している。契約者の72%が第3世代携帯電話を利用するなど、通信サービスの高速化が一般化しており、そのサービスについてもインターネット接続サービス、少額決済、音楽、アプリケーションのダウンロード、GPS、SNSなど多様化が進んでいる。

 現在の携帯業界のビジネスモデルは、各通信キャリアの垂直統合型モデル間での争いが主流となっており、モバイルビジネス研究会では、現行のビジネスモデル以外の多様な選択肢の登場を促すオープン型モバイルビジネス環境を実現することが競争を促進し、ひいては市場の発展につながるとしている。ただし、競争政策だけに主眼を置くと市場全体のバランスを乱すとし、環境整備のための整理にフォーカスするとした。

 総務省が考える「オープン型モバイルビジネス環境」の実現がユーザーにもたらすものは、以下の3つに整理される。

  1. ネットワークの別を問わず、自由に端末を接続して利用できる環境
  2. 端末に自由にアプリケーションなどを搭載して、利用者が希望するサービスを自由に選択できる環境
  3. 端末、通信サービス、コンテンツ等のそれぞれの価格や料金が利用者に分かりやすく提示されている環境

 このようなモバイル環境を実現するための具体的な施策検討について総務省は「直ちに取り組むべき措置(第1フェーズ)」と「2011年時点で実現すべき措置(第2フェーズ)」に分け、段階的に移行するアプローチをとるとした。

販売奨励金について

Photo モバイルビジネス研究会の構成員

 販売奨励金については、これまでの功績を評価する一方で、問題点も指摘している。

 功績は、新しいサービスに対応したハイエンド端末をユーザーに低価格で提示したことが、高機能端末の需要を広げて2年程度で端末の買い換え需要を創出した点。これが2Gから3Gへのスムーズな移行につながったと評価している。

 一方、問題点として挙がったのは以下の6点だ。

  1. 端末コストの一部が通信料金で回収されていることを、ユーザーが認知できていない状況にある
  2. 頻繁に端末を買い換えるユーザーと、そうでないユーザーとの間で、コスト負担の公正性が保たれていない
  3. 販売奨励金は端末1台あたり約4万円となっており、通信事業者の事業コストを押し上げる要因となっている
  4. ハイエンド端末が増え、ユーザーのレベルに応じた端末ラインアップになっていない。
  5. 販売奨励金は端末販売に係る附帯事業収支ではなく、電気通信事業収支の費用として一括計上されている。このため、大半の販売奨励金が接続料などに代表される「原価」として参入されている。結果として他の接続事業者等から徴収する仕組みとなっているのは検討の余地がある
  6. 端末の販売、開発の主導権を通信キャリアが握っている。そのため、ベンダーなどが主導して端末やサービスを開発する環境が制約されている

 総務省は販売奨励金の抜本的な見直しについて、急激な変更は端末の買い換えサイクルの長期化を招きかねず、それにより端末市場の規模が縮小してベンダーや販売代理店に与える影響が大きくなる可能性があると認識。販売奨励金の多寡は、通信事業者の経営判断として行うべきであるとして、法的措置で販売奨励金を廃止すべきではないという結論を導き出している。

 その一方で、影響を考慮しつつ、現状を改善る必要もあるとし、以下の3点をを中心に検討すべきとした。

  1. 端末価格と通信料金の区分の明確化
  2. 接続料原価等の適正性の確保
  3. 端末の多様化とSIMロックのあり方の見直し

「分離プラン」の導入を検討へ

 報告書では、“ユーザーが何に対していくら払っているか”を明確化すべきとして、通信料金と端末価格を分離して請求する「分離プラン」の導入を検討課題として挙げている。

 ユーザーの利便性を考慮して、端末価格と通信料金を一括して請求するが、明細にそれらを明確に分けて記載することで、ユーザーに料金の内訳を明示するべきとした。

 導入は「事業者の自主的な判断において行われるのが望ましい」としているが、利用者の混乱を招くことがないよう行政指導を行い、各事業者に一斉で導入することも視野に入れている。

利用期間付き契約の導入

 分離プランに加えて、利用期間を担保したうえで、端末価格や通信料金を設定する「利用期間付き契約」の導入を認めている。

 報告書案では、契約期間中に端末価格の回収が終わるような料金プランを設計することで、利用者間の不平等感を減らせるとしている。

 これにより、現行の端末の買い換えサイクルよりも短い期間で支払いを終えたり、逆に長期間での支払いも可能になるなど、ユーザーの多様なニーズに応えられるようになる。

 分離プランや利用期間付き契約は、原則として2008年を目標に段階的に試験を実施し、これらのプランが市場に与える影響を見極めつつ、適用範囲を拡大するといった措置を講じるのが望ましいとした。さらに遅くとも2010年を目処に、分離プランや利用期間付き契約の有効性などを検証し、総合的な評価をしたうえで本格導入に向けた結論を得るのが適当であるとした。

 なお導入に向けた留意点としては、長期間に及ぶ契約期間を設定することが、必要以上のユーザーの囲い込みにつながり、それが競争を阻害するおそれがあることを指摘している。

 報告書では、分離プランや利用期間付き契約は、端末価格と通信料金の透明性を明らかにするのが目的であり、販売奨励金の廃止を直接的に求めるものではないとしている。また、これが「高い端末価格」と「低廉な通信料金」を目指すものでもないと明記されている。

 さらに、現在、一部の事業者が提供している“端末価格の一部を補填するために端末機種に応じて通信料金を一部割り引く仕組み”についても、併せて見直しが必要になるとした(ソフトバンクの新スーパーボーナスのことを指していると思われる)。

 かつて、KDDIの小野寺正社長が「その昔、利用期間で拘束する料金プランは認められなかったはず」と指摘したが、今回の報告書案では「電気通信事業法に定める『不要な差別的取扱い』には該当しない」という解釈だ。

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