総務省が“災害対策に有効”と判断した「船上基地局」とはKDDIが音声試験を実施(1/2 ページ)

» 2013年03月27日 22時36分 公開
[平賀洋一,ITmedia]

 総務省中国総合通信局はこのほど、2012年秋に広島県呉市で行われた「携帯電話基地局の船上開設に向けた実地試験」の結果について、船上からの携帯電話サービス提供は“災害時に有効である”と報告した。

photophoto 実地試験の概要(写真=左)。試験のため、船首にKDDIの衛星通信アンテナを取り付けた巡視船「くろせ」(写真=右)

 東日本大震災では最大で2万9000局の基地局が被災により停波し、サービスエリアの全面復旧は4月末までかかった。この経験から総務省に設置された「大規模災害等緊急事態における通信確保の在り方に関する検討会」では、災害に備えて即時性・機動性に優れた移動基地局のさらなる配備が重要――と指摘。各キャリアは車載・可搬式基地局の設備を増やすなどの対策を急いでいる。船上基地局は災害時に使われる臨時設備の1つとして、沿岸部の通信インフラを迅速に復旧できると期待されているものだ。

 船上基地局は、東日本大震災の被災地、特に沿岸部で通信インフラの復旧が遅れている様を知った海上保安庁第六管区職員のアイデアがもとになっている。第六管区は広島県広島市に本部があり、瀬戸内海が管轄。山陽地方や四国地方には険しい山々に囲まれた沿岸地域が多いこともあり、被災時に海上から通信手段を提供できないか、と思い付いたという。

 このアイデアは同じ広島県にある総務省の中国総合通信局に提案され、有識者を交えた調査検討会の結果、第六管区、NTTドコモ、KDDIらが協力して実地試験を行うことになった。

photo NTTドコモが行ったエリア化試験の結果

 地形や建物の影響を受けやすい陸上と違い、悪天候でも無い限り海の上は見晴らしが良い。基地局を設置しても特に問題は起きないと思いがちだが、海面に反射した電波が思わぬ干渉を起こす可能性があるという。またあらかじめ想定した範囲だけを海上から確実に圏内にできるのか、10月末に行われたドコモの試験ではこの点が確認された。

photophoto KDDIが行った通話品質に関する試験の結果

 そして翌11月末にKDDIが担当したのが、実運用に近い環境で行われた通信・通話品質に関する試験。基地局が波で常に揺れている――という陸上ではあり得ない状態で、普段と同じ様な通信ができるのか、また基地局が対象地域に近づいた場合と離れた場合でどのような差が生まれるのか、などの調査が行われた。

 その結果、事前にシミュレーションしたエリアと実測エリアがほぼ重なり、災害時に必要な通信エリアを屋外であれば確保できること。また舶の揺れや潮位の変化による影響は受けず、固定電話並みの通話品質であることなどが確認された。ただし、船の向き(進路)が変わることで通信品質に影響がでるも分かり、潮流などで向きが変わっても対応できるアンテナが必要なことも分かった。

photophoto 試験の結果は良好だが、実用化に向けての課題も多い

 また今回の試験では、海上保安庁の船舶にキャリアが用意した可搬式基地局を搭載して行われたが、初めてということもありその準備(と撤収)には半日程度の時間がかけられた。今後実用化するには、設備のコンパクト化や運搬や設置に要する時間の短縮、また利用する船舶の基準なども課題になる。中国総合通信局では法制度や運用面の整備など、まだまだクリアすべき点が多いことも報告書で指摘した。

KDDIの船上基地局で通話品質をテスト

 呉市で行われた船上基地局の実地試験では、第六管区呉海上保安部に所属する巡視船「くろせ」(総トン数:335トン)が使われた。くろせは特殊海難救助に対応した救難強化巡視船で、乗務員のほか“海猿”こと潜水士が乗務し、救助用ボートとそれを上げ下げするクレーンなどを備えている。5000馬力のディーゼルエンジン3基(合計1万5000馬力)が生み出すウォータージェットで進み、最大速度は35ノット以上になるという。さらに取り締まりのための放水銃に加えて、不審船対策として遠隔操作型の20ミリ多砲身機関砲と精密射撃システムも搭載している。

photophoto 「くろせ」の機関は5000馬力のディーゼルエンジン3基。ウォータージェット推進で最大速度は35ノット以上
photophoto KDDIが担当した実証試験システムの概要(写真=左)。倉橋島大迫港の沖合1キロと3キロの2カ所で電波を発射した
photo 衛星通信用のアンテナ

 KDDIが協力した2回目の試験では、くろせの後部甲板に可搬式の基地局と電源盤(システム全体の電源はくろせから供給を受ける)、携帯電話用のアンテナを設置。船首部分にレドームに収められた衛星通信用のアンテナとコントロールユニット、衛星通信用のルーター、UPSが据え付けられた。陸上から衛星通信を行う場合はアンテナを固定できるが、船舶では揺れや移動が伴うため、“手ブレ補正”のような角度の微調整が自動で行われている。通信する衛星はIPSTARとGE-23の2つで、それぞれの地球局(衛星がリレーする相手先)はIPSTARが埼玉県小鹿野町にあるIPSTARの施設、GE-23を利用した場合は山口県にあるKDDI衛星通信センターが使われている。

photophoto レドームの内部。アンテナ(写真上の白い部分)基部が可動式になっており、船が揺れても衛星を捉え続けるよう、常に補正している(写真=左)。アンテナと機関砲(写真=右端)
photophoto ブリッジと救助用ゴムボートの間に設置された可搬式基地局(写真=左)と電源盤(写真=右)。もともと屋外用のためカバーなどは掛けられていないが、長期間運用するなら塩害対策が必要になるかもしれないという
photophoto ブリッジの屋上に備え付けられた携帯電話用のアンテナ。
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