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初音ミク誕生2周年――永遠の16歳が新たな声をゲットした

» 2009年08月31日 22時35分 公開
[松尾公也,ITmedia]
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 2年前の8月31日、歌声合成ソフト「初音ミク」は発売された。いや、誕生した。その誕生日を記念して、発売元のクリプトン・フューチャー・メディアでは、iTunes Storeで初音ミクのアルバム、シングルを合わせて14タイトル同時リリース。29曲がiTunes Storeのカタログに加わることになった

 これで、iTunes Stsore上の初音ミクが歌う楽曲の数は、合計289曲(編集部調べ)に。比較するのは変かもしれないが、iTunes Storeで販売されていた酒井法子の楽曲数は268曲。スキャンダルと無縁の永遠の16歳は今日、のりぴーを超えたことになる。

 CGMの「出口」でこれだけの成果を出しているVOCALOIDだが、クリプトンは、クリエイターにさらなる素材を与えようとしている。それが、「新しい声の表情」だ。

 鏡音リン・レン、巡音ルカという別キャラクターによる声がこの2年間のうちにリリースされ、初音ミクとうまく使い分けているクリエイターも多い。がくっぽいど、メグッポイドも他社から出てきた。

 しかしCGMの渦の中心にいるのはやはり初音ミクだ。彼女に歌をうまく歌わせようというクリエイターたちの欲求は非常に強い。ただ、初音ミクは万能タイプで歌わせやすいというメリットがある一方で、歌声が平坦で、ともすれば機械的になりがち。そこで楽曲の作者は自然な声に似せたり、人間では再現不可能なメロディーラインをわざと歌わせたりと、さまざまな工夫を凝らしている。

 産総研が研究しているぼかりす(VocaListener)と、それを一般向けに実装しているヤマハY2プロジェクトのNetぼかりすは表現の幅を広げる一助となるものだ。本物の人間が歌った歌声を初音ミクなどの VOCALOIDデータに置き換えるので、人間らしい表現が可能になる。

 だが、表情をつけるにも限界がある。もともとの歌声の表情が1種類しかないからだ。「シャウトした声がほしい」「リンのようにメリハリのあるミクの声があれば」といった要求はこれまでも多かったが、単一の声では到達できない表現も多い。

 そして24カ月を経て、ついにその要求に対する答えをクリプトンが提示した。それが、初音ミクの新しい歌声データベース、「CV01 Hatsune Miku Append(仮称)」だ。現在のところ5種類の「新しい声の表情」が用意されているようだ。現在ある初音ミクの歌声データベースに、複数の「音色」が加わり、使いわけることが可能になる。

 クリプトンによれば、

  • vivid-β
  • soft-β
  • very small-β

の3つの個性をもった歌声データベースが、初音ミクの「声の人」である藤田咲さんにより演じられている。

 vivid- βは、滑舌を明瞭化を目指し録音方法を変えて収録されたもの。発音のニュアンスが違う。発音のアタックを少し弱めてソフトにしたものがsoft-β。very small-βは、「極端な小声(ひそひそ声)に振り、可愛らしく、かつ歌として成立する発音」(クリプトン)で、「既存の初音ミクの歌唱に甘く優しげな吐息の成分のブレンド」させているという。そのデモソングは、クリプトンの公式ブログで聞くことができる。

 人間の歌手を考えると、プロの歌手であれば1つの曲の中でも数種類の歌い方を切り替えながら歌う。ささやくときと歌い上げるとき、ファルセットは明らかに異なる。初音ミクの新しいデータベースはこれに近いことを可能にするものだ。

 クリエイターは、これまでの単一の音声データベースだけでなく、数種類の声色を使い分けることが可能になる。表現の幅が著しく広がり、リアルなものにしようと思えば、際限なく作り込めるわけだ。

 なお、この新しい表情の1つである「very small-β」を使ったデモソングは、藤田咲さんのホームページ「藤田咲の電子庭園☆〜さっきぃのおはなばたけ〜」で先行公開された。藤田さんは「初音ミクとしてマイク前に立ち、新たなニュアンスで収録しているというかんじ、かな」と解説。さらに磨きをかける予定だとしている。

 また、ニコニコ動画にはDTMマガジン編集部による投稿として、別の歌声データベース「dark-β」を使用した、中島みゆき「時代」が投稿されている。こちらはしっとりと落ち着いた歌声で、息づかいを強調したいい雰囲気。さらに、「より強い発音の実験」として「solid-β」も実験中だという。これはシャウトもいけたりするのだろうか?

 クリプトンのブログによれば、「CV01 Hatsune Miku Append(仮称)」は年内リリースを目指して調整中。1パッケージに複数データベースがまとめて収録される予定だが、価格を含めた正式な製品仕様は未定という。

 ITmedia News編集部では、この新しい初音ミクの歌声データベースとNetぼかりすを組み合わせたβテストに参加することになっている。進展があり次第、記事としてリポートしていく予定なので、ご期待いただきたい。

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