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「許諾を得た出版社もある」 「コルシカ」運営会社に聞く

» 2009年10月14日 19時34分 公開
[岡田有花,ITmedia]

 雑誌をスキャンしてデータをネット販売するエニグモのサービス「コルシカ」が、出版社から「著作権を侵害している」と抗議を受けるなどし、開始から約1週間でサービスを中止した。

 同社は再開に向け、出版社との話し合いを進めている最中。「せっかく多くのみなさんに知っていただいたサービス。半年、1年というスパンではなくもっと早く再開したい」と同社広報担当の桐山雄一さんは話す。

「雑誌業界に貢献したかった」

画像 14日現在のコルシカトップページ。コルシカは、ナポレオンが生まれた土地の名。「ナポレオンのように世に名を残すサービスにしたい」と名付けたという

 コルシカは、同社がスキャンした雑誌データを、Webブラウザ上の専用ビューワ(DRM付き)で読める電子雑誌販売サイトだ。販売額は紙の雑誌と同額。同社は販売数と同数の雑誌を取り次ぎから購入しているといい、ユーザーは別途配送料を支払えば、雑誌を送ってもらうこともできる。

 「最近元気がない雑誌業界に、何か貢献できないか」――開発のきっかけは、同社の田中禎人 共同代表のこんな思いだったという。田中代表は雑誌が好き。雑誌をデジタル化し、ネット経由で世界のどこからでも閲覧できたり、お気に入りの記事をPC上でクリッピングできれば利便性が高まり、雑誌市場も活性化すると考えたという。

 ただ雑誌のデジタルデータ配信だけでは、紙の雑誌そのものの市場は回復しない。データは紙の雑誌とセットで販売し、紙の雑誌を購入した人への付加サービスと位置づけることで、雑誌の実売数も増やせる形態にしたという。

 雑誌は取り次ぎから買い切り購入して確保しており、社内には雑誌がうず高く積まれている。データの販売も、確保した雑誌の実数分だけに限定しているという。サービス開始当初は約100種類の雑誌を販売。開始後1カ月で250種類に増やす予定だった。

「書店にスキャナが置いてあるイメージ」

画像 ビューワ

 同社はコルシカを「ネット書店」と位置付けている。ほかのネット書店と同様、雑誌を取り次ぎから購入し、定価で販売。スキャンしてネット配信するのは、「書店にスキャナが置いてあり、ユーザーが購入した雑誌を自由にスキャンできるのと同じ」(桐山さん)というイメージだ。同社はユーザーのスキャンを代行しているという考えで、「購入者の私的利用の範囲」としている。

 サービス開始前に出版社の許諾は得ていなかったが、取り次ぎには説明していたという。「当社はあくまで書店。取り次ぎを飛ばして直接出版社と話し合うのは、業界慣習にも合っていない。サービスについては、取り次ぎが出版社に説明していたと聞いている」(桐山さん)

 だが出版社の動きは速かった。サービス開始の翌日・8日には日本雑誌協会が「出版社の許諾なしに紙面をスキャンして複製するのは著作権侵害行為で、私的利用として権利制限の対象になることはありえない」と抗議する文書を同社に送付。サービスの即日中止を求めた。

 これを受けて同社は9日、雑誌のデジタル化について話し合う同協会の会合に参加。集まった出版社にサービスを説明し、理解を求めるとともに、会員社の出版物の販売をいったん中止することや、同協会と共同で、デジタル分野の新しい雑誌の可能性を模索することで合意したという。

 「法的な解釈は食い違ったままだが、法廷の場に持ち込むことはお互い考えていなかった。同協会の出版社で、『面白い』とサービスを認めてくれているところもあった」と桐山さんはその時の様子を話す。

 協会に加盟していない出版社については、雑誌の販売を続けていたが、「『しばらく様子を見たいから、販売を続けてほしい』『利用数をリポートしてもらえるなら販売を続けてほしい』『販売を停止してほしい』などさまざまな要望が寄せられた」という。要望の個別に対応するため同社は、13日夕、全雑誌の販売を停止した。

近く再開へ 機能強化も

 現在は、各出版社を回って個別に話し合っており、すでに許諾をもらった出版社もあるという。幅広いジャンルの雑誌が集まった時点でサービスを再開したい考えだ。

 サービス再開後は、さまざまな機能を追加していく計画。各ユーザーの雑誌購入履歴が蓄積していけば、雑誌の“本棚”自体が面白いコンテンツになるとみているほか、ある程度の会員数が集まれば、広告を配信したり、有料の機能強化を行うなどしてビジネスチャンスを広げられると期待している。

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