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「今なら失敗許される」 どうなるデバイスの未来 古川享さんや林信行さん議論CEATEC JAPAN 2010

» 2010年10月06日 16時49分 公開
[宮本真希,ITmedia]
画像 セッションはAR.Droneを飛ばすところから

 ブーーーンっと音を立て、ラジコンヘリが飛んだ。iPhoneで操作する「AR.Drone」だ。「CEATEC 2010」で10月5日に行われたパネルディスカッション「進化するモバイルデバイスの現状と未来」の冒頭の一幕。「まずは“未来”を」と、AR.Droneが紹介された。

 セッションは、ITジャーナリスト林信行さん、元米Microsoft(MS)副社長の古川享 慶応義塾大学教授、ヤフーの村上臣EveryWhere開発部長と、ガジェット好きの面々が出席。iPhoneやAndroid端末から、ウォークマン、懐かしのデジタルカメラ「QV-10」まで、それぞれが歴代のお気に入りを振り返り、未来のデバイスについて展望を語った。モデレーターは、アイティメディアの松尾公也アグリゲーションメディア編集長が務めた。

ビル・ゲイツも絶賛した「QV-10」

画像 林信行さんはお気に入りのガジェットの写真をiPadで見せながらプレゼン

 われわれはどんなデバイスで育ったのか――林さんが「世の中の風景を変えてしまった日本メーカーの製品」として紹介したのが、ソニー「ウォークマン」と、95年に発売されたカシオ計算機のデジタルカメラ「QV-10」だ。

 QV-10は、撮影した画像をその場で確認できる背面の液晶パネルを世界で最初に採用した点が画期的で、林さんは「すごい興奮を覚えた」という。古川さんも発売当時に購入し、MSのビル・ゲイツ会長に1台プレゼントしたそうだ。

 ゲイツ会長は「革命だ!」と絶賛。「感動をシェアしたい」とQV-10を200個近く周囲の人に配ったという。「QV-10が起こす革命を体感して、こういう時代をお迎えしようという。MSやビル・ゲイツは、日本の技術を海外に紹介するのに一生懸命だった」(古川さん)

画像 古川さんは「CEREVO CAM live!」も持参していた

 ヨドバシカメラで100万円分のポイントを貯めたことがあるという古川さんもお気入りガジェットを紹介。歩行距離や消費カロリーを計算してくれる「Fitbit」、iPhoneやAndoroid端末を家電のリモコンとして使えるようにする「RedEye」など実物を持参し、次々と見せた。

 村上さんは“秘蔵の品”として小型PC「Palm Top PC 110」を披露。95年に発売され、「ウルトラマンPC」の愛称で親しまれた製品だ。「(デザインが)ほとんどThinkPadみたい。電話もでき、当時は画期的だった。非常に感動して、保存用に買っておいたのを持ってきた」と、愛を語り始めると止まらない様子だった。

国産ケータイ「ソフトウェアに注目を」

画像 村上さん

 話題を現代に戻そう。テーマは「iPhone」だ。この日会場にいた人の7割がiPhoneユーザーだった。MM総研によると、今年3月までのiPhoneの国内累計出荷台数は230万台。その後、iPhone 4が発売されたこともあり、現在は「400万台くらいに出てるのでは」と林さんはみる。

 iPhoneアプリもどんどん多様になっている。古川さんは、色覚障害者が色を見分けるのを助けるアプリ「色のめがね」を紹介。色覚障害のある古川さんの知り合いは、アプリを使い、わさびとしょうがの色が違うのを初めて知ったという。「いろんなアプリが広がり、可能性が広がる。予想を越えた新しい何かにわくわくする」(古川さん)

画像 色のめがね

 このような状況で、「ガラパゴスケータイ」とも揶揄(やゆ)される日本の携帯電話(フィーチャーフォン)はどう戦うべきか。林さんは「日本のメーカーは、ハードウェアを工夫しようとするが、ソフトウェアの重要さに気づくべき」と主張する。

 日本の携帯は、季節ごとに新モデルを出し、買い換えてもらう「自転車操業だった」が、AppleはiPhoneが売れた後も、アプリを通じてもうけるビジネスモデルを作った。日本メーカーも「そろそろソフトウェアに注目しないとまずい」(林さん)。でなければ「iPhoneに勝てるわけない」。

 auのIS03や、NTTドコモのGALAXYなど、国内でもAndroid端末が続々と登場している。村上さんは「iPhoneはそれなりにオープンだけど、アプリ審査など、コントロールが効かない部分が残る。Androidは自社の課金システムを使えるし、多様性が生まれる。多様化は進化の課程で必要」と評価。ヤフーでAndroid向けサービスを「頑張りたいと思う」とコメントした。

未来のデバイスはどうなる? 「コストをかけずに失敗を繰り返せ」

画像

 村上さんは今後について、Ustream配信できるデジカメ「CEREVO CAM live!」のように、特徴的な機能を持ったデバイスに期待を寄せる。

 「何でもできます、だと、『何していいんだっけ?』と使うときのイメージがしにくい。iPhoneはマニュアルがなく、子どもでも箱を開けてすぐになんとなく使えてしまう。『これしかできない』という単機能で安く作れるデバイスが出てきてもいい。一目で分かる、一言で説明できる何かを考えてほしい」(村上さん)

 林さんは「メディア、ラジオ、出版とありとあらゆるものが変わろうとしている今、日本のメーカーに多様な製品を出してもらいたい。今なら失敗が許される。製品を出すのはゴールではなく出発点で、(そこから)市場にどう受け入れたかを学べる」とコメント。「実験ができるのは今」と話し、「コストをかけずに失敗を繰り返す」ことをすすめた。

 古川さんは、どんどん新しくなるガジェットに対し、記録された写真や文書、それによって築かれた人間関係は「普遍的」と指摘。「昔撮ったフィルムは今も輝きがある」と話し、Evernoteを引き合いに出しながら「人間が生きた歴史や撮った写真は安心したところに預けたい。そいうサービスが広がってくれれば」と話した。

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