クリプトン・フューチャー・メディアは11月29日、VOCALOIDで楽曲制作するクリエイターに著作権使用料を分配するための音楽出版事業を開始すると発表した。VOCALOID曲がカラオケで利用されても、著作権使用料の支払いを受けられないケースが多発している。クリプトンが音楽出版事業を手がけることで、VOCALOID曲の著作権の柔軟さを生かしながら、クリエイターが正当な対価も受け取れる環境作りを目指す。
クリエイターはクリプトンと楽曲ごとに著作権契約を結び、クリプトンは、商用(カラオケ、放送、CDレンタル)で楽曲が利用された際に発生する著作権使用料を著作権管理事業者から受け取り、クリエイターに分配する。
特徴は、クリエイター自身が自作曲を利用できる幅が「極めて広いこと」。非商用の場合は手続きなしに自作曲を利用でき、またクリエイターが第三者に対して楽曲の利用を許諾することもできるようにした。
楽曲が商用利用された実績があるクリエイターを対象に、著作権管理を引き受ける。詳細の質問はメール(piapro@crypton.co.jp)などで受け付けている。
新事業は、VOCALOIDクリエイターによる「自由な楽曲利用・制作」と「正当な対価の受け取り」を両立させ、ネットで活躍するクリエイターが楽曲を柔軟に利用できる余地を残しながら、商用利用による著作権使用料収入を得られる道をひらくのが狙いだ。
カラオケボックスなどにカラオケ曲を配信している大手の業務用通信カラオケでは、同社の「初音ミク」などを利用した楽曲が人気になっており、トップ10の上位になることも珍しくない。だが、通信カラオケ会社が著作権使用料の支払いの条件として「著作権管理事業者による楽曲著作権の管理」を挙げるケースがある。
一般には、クリエイターは音楽出版社に楽曲の権利を譲渡し、音楽出版社は日本音楽著作権協会(JASRAC)などに権利を委託。JASRACなどがカラオケ会社などから徴収した使用料は、音楽出版社を通じてクリエイターに還元される仕組みになっている。クリエイターは著作権を管理する負担を軽減できる一方で、音楽出版社やJASRACなどに楽曲の権利を譲渡・委託すると、自分の作品であっても自由に利用することは難しくなる。
一方、VOCALOIDでは、「ある楽曲のリスナーが同時にその楽曲を用いたクリエイターとなることが一般的」であり、「リスナー兼クリエイター」が創作のサイクルを盛り上げてきた経緯がある。このためVOCALOIDクリエイターは、著作権管理事業者の利用を回避するケースが多い。
その結果、カラオケで人気のVOCALOID曲が、実は「みんなに歌ってほしい」というクリエイターの善意で配信されており、クリエイターにはその対価が全く支払われていない──というケースが多発。クリプトンはカラオケ会社に善処を求めてきたが、改善が進まなかったという経緯がある。
同社は今年7月、ボカロ楽曲が配信ストアで販売されたり、カラオケで配信されているクリエイターにアンケートを実施。回答を得た123人のうち54%は、「自らが自由に楽曲を利用できる形で、カラオケなどの楽曲の商用利用によって発生する著作権使用料を得られるようにしたい」と答えたという。
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