けんすう まとめると、Web2.0はユーザーの参加率の向上、そして情報を集める仕組みの向上によって、サービスのコアの部分が「ユーザーになった」というのが本質だと考えています。
その結果、出てきている問題としては、ネットワーク外部性が効きまくり、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)と呼ばれるような、グローバルプラットフォームが異常に強くなったこと。GAFAの4社で、東証全部足すより時価総額が高いという事態まで起きています(参考リンク)。
そういった時代への下剋上的な意味合いが、Web3ブームを牽引しているパワーの一つだと思います。「大手グローバル企業に、今の仕組みだともう勝てないじゃん! 勝てる仕組みを作ろう」的なモチベーション、そして「ユーザーが作っているのにユーザーにインセンティブを渡さなくて、大企業ばかり儲かるのずるいじゃん!」みたいな。
Web3は、ユーザーの貢献に対してインセンティブを支払おうみたいな設計に近いのかなと理解しています。Web3の考えの一つに「中央集権にしない」という前提があり、一カ所に富が集中しない仕組みが好まれている気がします。
例えば、暗号資産「Ethereum」を作った、Web3のトップ有名人のヴィタリック・ブテリンさんの資産は1000億円を突破したくらいなんですよね。富という面でも集中しすぎていない。
ゆかたん えっ? 1000億円? 富、めっちゃ集中してない?
けんすう いや、Amazon.com創業者のジェフ・ベゾスは資産20兆円もあります。Facebook(現在はMeta)のマーク・ザッカーバーグは10兆円ぐらい。ザッカーバーグは、上場時ですらFacebook株式の28.4%くらい持っていました。
極端にいうと、Facebook社の富の源泉はユーザーの投稿と行動データなのに、FacebookやInstagramに投稿しているユーザーに金銭的な還元はほとんどしていない一方で、創業者は10兆円も富を得ている、という見方もできます。
でも今のWeb3業界だと、チームで最初のプロダクトを作る人も15%くらいしかトークンを持てない。で、50%くらいをコミュニティ(ユーザー)が持つみたいになっているらしくて。その意味で、構造がちょっと違うのかなと思っています。
ゆかたん Web3は、貢献者全員への分配を前提にした構造になっているんですね。
けんすう そうです。Web3の思想をWeb2.0企業にたとえて言うと、「Googleの検索の質がいいのは、私達のデータを使っているからだ、だから検索を使っているユーザーの50%がGoogleの資産の権利を持つ」みたいな世界観ですね。
ゆかたん Web2.0のころのインターネットって、既存の大企業の固定化した世界を根元から揺るがして、より人々を平等にしていく、みたいな理想があったと思うんだけど、結局、Web2.0企業に富が集中したわけですよね。そこから脱するのがWeb3かもしれない? っていうことですね。
ゆかたん でも、Web2.0が「既存のもののまとめなおし」だったのに対して、Web3はわりと「今からつくるもの」「できたらいいもの」ばっかりな気がして、Web2.0ほど未来にあてはまるかどうかは分からない気がしますね。
けんすう それはその通りかも! Web2.0という概念が提唱されだしたのは、SNSとかWeb2.0型と呼ばれるサービスが出た後でしたからね。Web3はどちらかというと「技術的にこういうことできるよね」という話が先行している。実現が無理そうな話にすら多額のお金が集まったりしていますね。
ただ、De-Fi(分散型金融)とか、NFT(非代替性トークン)作品の「Nouns」とか、既に成功例がいくつもあり、ユーザー数の少なさに反して、ケタ外れの額が動いているんです。ユーザーがたくさん集まり、その後にお金が動く感じのWeb2.0とはまた全然違うのかなと思っています。
ゆかたん 確かに! Web2.0と3では、お金の順番が逆ですね。Web2.0は、基本無料のフリーミアムだったし、「儲からないのでは」ってずっと言われていましたよね。
けんすう まさにWeb2.0が提唱された直後の06年、Web2.0企業だったと言えるカカクコムやクックパッド、アットコスメの人たちが、「口コミメディアは儲からない」と話していたぐらいですからね。
ゆかたん Web3は、お金(暗号通貨)が引っ付いてくるのが大前提なんですよね。
で、お金がある(暗号通貨に投資できる)人のコミュニティで形成されているから、Web2.0フリーミアム民としては、ハードル高いというか、課金の壁を感じます。その暗号通貨は投機的側面が強すぎるのもあり、フリーミアムネイティブなわたしには、別世界に見えるわ……。
けんすう Bitcoinの初期から投資していた“クリプト原住民”は、仮想通貨バブルでめちゃくちゃ儲かった、というのは大きいかもですね。1ビットコイン1万円の時に100万円分買っていたら、今では5億円近くになっています。その原資があるからこそ、Web3では、最初からお金が潤沢に回るという面もあるのかな? と。
一方で、初期2ちゃんねらーのような“インターネット原住民”は、そうではないもうかってない。Web3の流れをあえてWeb2.0に当てはめると、「2ちゃんねらーをやってるだけで、5億円もうかった」というのに近いのかも(笑)。
ゆかたん そうですね……Web2.0民の1人としては、お金欲しかったわけじゃなく、みんながみんなの知識をシェアできる世界が理想だったし、それがかなり実現してきて、良かったと思ってます。『ウェブ進化論』(梅田望夫著、2006年)の中で、羽生善治棋士がインターネットを「学習の高速道路」にたとえていましたが、今のインターネットではまさに、あらゆる知が検索可能になっている。
ゆかたん Web2.0は、Webの景色をがらりと変えたと思います。ヤフーのディレクトリ検索からGoogleのキーワード検索に、ダウンロード型のメールソフトからWebのGmailに、静的WebからAjaxに、紙の辞書からWikipediaに……。
ただ、Web2.0企業であるGoogleやAmazonがネットを席巻して以降は、Webの景色、画面の中の風景はほとんど変わっていない気がするんですよね。みんなが使うサービスは固定化していて、富はGAFAを中心としたプラットフォーム企業に集中している。
Web3は“その次”というイメージなんだと思うけれども、まだまだサービスも参加者も少なくて、Webの景色の変化が見えないんだよなあ。Webの景色の変化のなさと、Web3関連で動いているお金の額が連動していないから、なかなかとらえきれないです、Web3。
けんすう Web3はそれこそ、働き方とか、プロジェクトの管理の方法とかからガラリと変えてしまうし、下手したら国とは何か、お金とは何か? というところの観点すら変えてしまうパワーがあると思っています。
一方で、可能性が無限大すぎて、議論のおもしろさが盛り上がるけど、手元にあるサービスはまだまだ地道な前進が必要という状態なのかなと。毎日、見ているだけでものすごいスピード感で動いている世界だから、そのうち、多くの人が実感できる変化がすぐ来るんじゃないかなあ、という予感はしています。
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