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常態化する“オンプレ回帰” 2023年の最新動向を追う(1/2 ページ)

» 2023年06月19日 09時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 パブリッククラウドを利用して構築していたシステムを、オンプレ環境へと戻す「オンプレ回帰」。3年前にも、オンプレ回帰という選択肢を選ぶ企業が現れていることを解説した。しかし、3年間でウクライナ情勢や為替レートの変動によってITインフラに関するコストが変動するなど、クラウド・オンプレを巡る状況も変わりつつある。2023年となったいま、このトレンドはどうなっているのだろうか。最新の動向を追ってみよう。

photo サーバルームのイメージ(画像はフリー素材)

特集:脱・思考停止のITインフラ選定 「クラウドかオンプレか」の一歩先へ

パブリッククラウドの活用が広まる一方、大手企業ではプライベートクラウドの推進や、オンプレミス回帰の流れも見られる。ハイブリッドクラウド含め選択肢が多様化・複雑化する中で、ITインフラの正しい選び方を探る。

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増えてる? 減ってる? 海外のオンプレ回帰動向

 まず、オンプレ回帰を巡るトレンドが現状、どんな状態にあるのか、調査会社や海外メディアの反応を確認する。米調査会社IDCの傘下にあるIT系ニュースサイトInfoWorldは1月3日、「2023 could be the year of public cloud repatriation」(2023年は脱クラウドの年になるかもしれない)と題した記事を掲載している。

 著者はIT関連の著書を多数執筆しているベテラン記者、David Linthicum氏だ。同氏は「クラウドのコストと複雑さが予想以上のため、多くの企業がUターンし、アプリケーションやデータを従来型のシステムに戻しつつある」と主張している。

 ただ残念ながら、この記事では具体的な数字は示されておらず、“多くの企業”が実際にどれほどの規模に達しているのかは分からない。他にも著名な海外ニュースサイトで、「脱クラウド」(オンプレ回帰)のトレンドがあると解説する記事をいくつか確認できるが、残念ながらここ1〜2年の調査では、その主張を裏付ける決定打となる数字はあまり見られない。

 オンプレ回帰の傾向がもっともよく見られたのが、ITインフラのパフォーマンス監視ソフトウェアを提供する米Virtanaが2020年11月に実施した、米国および英国の企業350社を対象としたアンケート調査結果だ。「アプリケーションをパブリッククラウドに移行した後で、それを再びオンプレミスに戻した経験があるか」という質問に対し、72%がYESと答えたという。

 ここまで圧倒的ではないが、もう一つオンプレ回帰を裏付けるものとして言及されることの多いのが、米調査会社451 Researchが2021年6月から7月にかけて行ったアンケート調査だ。

 対象となったのはデータセンター利用企業のIT責任者約600人で、うち約48%が「過去12カ月間にワークロードやアプリケーションを大規模パブリッククラウドプロバイダー(AWSやMicrosoft Azureなど)から他の場所に移行した」と回答している。また移行したと答えた企業のうち、自社で運用するインフラに移したと回答した割合は約87%だった。

 2022年9月に公開された米Forbes誌の記事も、この451 Researchの調査結果を引用した上で、オンプレ回帰が「CIOが活用できるツールとしてますます価値が高まっている」と主張している

 一方で、こうしたアンケートには母集団に偏りがあるのではないかとして、別の数字から異なるストーリーを描く主張も見られる。

 現在米Accentureでマネジャーを務めるErfan Dana氏は、2021年9月の記事において、451 Researchが行った別の調査も紹介している。その結果によると、IaaS・PaaSのパブリッククラウドサービスを利用中の組織を対象にアンケートを実施した場合、2020年にパブリッククラウドからオンプレ環境もしくはデータセンター環境にアプリケーションやデータを移行したのはわずか6%で、2021年にそれを計画している企業も14%にとどまる結果だったという。

 一方で、過去に行われた同様のアンケート調査では、2016年から2017年にかけてパブリッククラウドからオンプレ・プライベート環境への移行を行ったのは、回答企業のうち34%だった。ここからは、オンプレ回帰を選択する企業は依然として存在するものの、2010年代後半に注目されていた時期からはむしろ減少しているという傾向が確認できる。

 オンプレへの回帰は進んでいるのか、いないのか。少なくとも事実として確認できるのは、クラウド市場の順調な伸びだ。米Gartnerが2022年10月に発表した予測によれば、世界全体でのパブリッククラウドに対するエンドユーザーの支出額は、2022年の4903億ドルから2023年には5918億ドルへと、20.7%増加すると見込まれている。ちなみに2021年から2022年にかけての成長率は18.8%となっており、急速な成長が続いていることが確認できる。

 オンプレ「回帰」も、英語の「脱」クラウド(Cloud Repatriation)も、いったんは「クラウドを利用する」という状態を経てオンプレに戻ったことを意味している。言葉遊びのようだが、この前提は重要だ。

 クラウドを一切試すことなくオンプレを維持するのが「オンプレ回帰」ではない。クラウドを試してみて、やはりオンプレに戻そうと判断したということであり、クラウド利用が増えればそう判断する企業も出てくるのもある意味当然だろう。

 ITインフラという大きな固定資産を、「もうここに構築してしまったから」でクラウドを使い続けるのではなく、その最適な在り方を模索して離脱を決定するというのは、むしろ健全といえるかもしれない。

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