本稿の最後に、一般的なハイレゾ音源について筆者の見解を付記しておきます。
前述の分析グラフをご覧になった方の中には、「仕事場のシステムでも、せいぜい25KHz程度までしか出ていないのではないか。WAVファイルのサンプリング周波数が192KHzであれば、ナイキスト周波数である96KHz付近まで音楽の信号が記録されなければならないのでは?」というご意見があろうかと思います。
1つ誤解して欲しくないのは、ハイレゾ音源だからといって、必ずしも人間の可聴上限を超える周波数が、ふんだんに収録されていなければならない、というわけではありません。
そもそも、演奏収録に使用したNeumannやAKGのマイクのキャプチャー可能な周波数上限は20KHzです。理屈の上ではそれ以上の高帯域信号は含まれていないはずです。
ただ、ハイレゾ音源というは不思議なもので、高い周波数と高いビットレートでデジタル録音したものは、マイクのスペックや可聴範囲といった理屈には関係なく「良い音」で鳴ってくれるものなのです。
特に、筆者のように木製ホールのアコースティックな環境で録音した音源には、木の壁に反射する高次倍音が付加され、可聴域のあらゆる周波数に「うねり」のような現象をもたらします。24ビットの多大な情報量がこの「うねり」を再現し、良い音の要因になっているらしいのです。
「らしい」としたのは、人はハイレゾ音源をなぜ「良い音」として知覚できるのかが、学術的に解明されていないからです。ハイレゾを聴くと「脳の血流が良くなる」といった生理現象を探求したハイパーソニック分野の研究は盛んに行われています。ただ、それはあくまでも「現象」であって、なぜ「良い音」として知覚するのかという脳のメカニズムについては解明されていないはずです。
今回、Model 3のシステムでは、聴取上、ロッシー音源とハイレゾの差異が感じられませんでした。もしかしたら、あまたある他のハイレゾ音源ではその違いが明瞭にわかるのかもしれませんし、筆者のModel 3だけの個体差によるものかもしれません。ただ、現状の筆者の認識としては、ハイレゾ音源のポテンシャルを引き出すだけの能力は持っていないという結論です。
著者プロフィール
音楽制作業の傍らライターとしても活動。クラシックジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレコード主宰。ライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Alina String Ensemble」などの開発者。音楽趣味はプログレ。Twitter ID: @yamasakiTesla
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