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地方放送局でも進むIP化 「九州放送機器展」で見たIP・クラウド化の最新動向小寺信良の「プロフェッショナル×DX」(2/2 ページ)

» 2025年08月08日 18時00分 公開
[小寺信良ITmedia]
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Ikegamiのシステム管理ソリューション「ignis」の今

 放送システムのIP化を前提として、多くのシステムソリューションが登場しているところだが、Ikegamiでは同社開発のシステム管理ソフトウェア「ignis」シリーズを展示していた。

IKEGAMIでは「ignis」をシリーズとして展示

 「ignis mc」はリソースマネージメントとコントロールを担当するソリューション。マルチモニタリングやタリー、送出などを一元的に管理・制御できる。IP機器だけでなく、ベースバンドのスイッチャーなどもコントロールできる。以前からネットワーク越しに設定を行なうツールはあったが、ignis mcでは操作もできるようになった。ただしユーザーニーズとしては、やはりフィジカルなコントロールパネルを操作する事が好まれるという。

「ignis mc」のUI

 とはいえ、ユーザーがベースバンド機器なのかIP機器なのかを意識することなく運用できるのは大きい。来年5月には鹿児島の南日本放送に導入される予定で、同局では現在IP化への転換を進めているという。

 一方今回参考出展された「ignis mp」は、サーバ内でプロセスを動かし、スイッチャーやマルチビューワー、フレームメモリーといった機能を提供する。つまりコントローラとしての「ignis mc」と、実際に信号のプロセッシングをサーバで行なう機能を分けた、ということである。

 複数の機能を1台のサーバで動かせるため、1つのシステムで2つのサブを運用したり、1つのサブを冗長化して2系統同時に動かすといった運用を想定している。今回はパネル展示のみだが、11月のInterBEEでは実働機を展示するという。

 先に「ignis mc」を導入したところは、ベースバンド機器を徐々に「ignis mp」に置き換えていく、というシナリオになるだろう。

ケーブルテレビ以外にも使われ始めたミハル通信「ELL Lite」

 ミハル通信は元々ケーブルテレビ向けエンコーダ製品を作ってきた老舗メーカーだ。が、2022年のInterBEEでは、8Kを低遅延で伝送する「ELL8K」が業界で話題になった。

 ただ8K伝送は、実質NHKにしかニーズがない。むしろHDや4Kを同じ技術を使って低遅延伝送できないかということで、「ELL Lite」というシリーズの開発に着手していた。これまでもたびたび展示会などで「ELL Lite」のプロトタイプは拝見していたが、今年4月よりついに正式に製品としてリリースされた。

今年4月より正式にリリースされた「ELL Lite」

 初期バージョンでは、映像は3G-SDI、12G-SDI、HDMI2.0をそれぞれ1系統伝送できる。一方オーディオは独立して(エンベデッドではない)非圧縮で最大64chまで伝送できる。フレッツ等の公衆回線を使って伝送できるため、低コストな運用が可能ということで注目が集まっている。

 その一方で予想外のニーズが、1.5G-SDI、つまりインターレースに対応してくれという要望だった。地上波放送で使いたいという事だろう。

 そこで8月に予定されている次期アップデートでは、インターレース対応を行う。また3G-SDIは原理的には4ch伝送できるわけだが、こちらは年内のアップデートで4ch伝送に対応する予定となっている。

 そのほかELL Liteは、1台で送信と受信の両方が同時に行なえる。ネットワークの両側に同じ機器を1台ずつ用意すれば、この1セットで送り出しとリターンの両方が得られることになる。

1ペアで双方向送受信が可能

 音声入出力としては、映像のエンベデッド以外にもMADIとDanteを送受信できることから、Danteで構成されたインカムシステム同士を遠隔で繋ぐといった使い方もできる。

AV over IPの世界を広げる「Studio Technologies」の製品群

 米Studio Technologiesは、1978年創業と割と古いオーディオ関連機器メーカーだ。正規代理店であるエレクトリのブースでは、Danteネットワーク内にGPIOを伝送するインターフェース、Model 394/395を展示していた。

Danteネットワーク内にGPIOを流す「Model 394/395」

 GPIOはチャンネルごとにパルスを伝送して、そのタイミングで機器を動作させるトリガーとして使われる。仕組みが簡単なので対応機器も多いが、実際にはそれだけのためにケーブルを繋ぐのも面倒だ。

 そこですでにDanteのネットワークがある場所では、その中にGPIOを流してしまおうというわけである。Model 394が出し側、395が受け側だ。2chしか伝送できないが、ほとんどはタリー運用だと思うので、十分使えるだろう。

 Model 5682シリーズは、ST2110とDanteのネットワークをブリッジする機器だ。5682-01が32ch、5682-02が64ch対応。例えばすでにオーディオはDanteでIPネットワークが完了しており、後からST2110のAVネットワークと接続したい場合には、既存のDanteネットワークを活かしたままで運用転換できる。

DanteとIP2110をブリッジする「Model 5682-02」

 双方のクロックも同期させる必要はなく、Model 5682内で自動引き込みする。

 Danteはマルチチャンネルオーディオの伝送や分配が必要なPAやスタジオで先行して普及したが、放送系ではST2110でのIP伝送が主流になってきている。よってDanteとST2110のブリッジや、同じ機器のDanteバージョンとST2110バージョンがあるといった状況になってきている。

 九州放送機器展は九州地方の放送局や制作会社、ポストプロダクションを対象にしているイベントなので、基本的には地方局まわりの機材設備という事になる。大幅なIP化に関しては、やれるところ・やれないところの差は大きい。それはやはり、地方局の経営状態に左右されるところもあるが、「現状困ってない」というところも大きいのかなという気がする。

 その一方で、ロケや中継、外部スタジオなど局の外側では、コストダウンや省人化の目的でIP化が進んでいくという構図になっているようだ。

 地方の場合は、まず外堀から埋まっていって、そのうち内堀も埋まるという流れなのだろう。

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