GeForce6800 シリーズに秘められたNVIDIA の戦略とは?(中編)(2/2 ページ)

» 2004年06月09日 14時20分 公開
[トライゼット西川善司,ITmedia]
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 さて、無根拠かつ短絡的な推察をあえてしてみる。AGP版とPCI-Express版をそれぞれ両ネイティヴに設計しなければならなかったATIは、GPUコアそのものの設計にアグレッシブになれなかったのではないだろうか。だからこそ、RADEON X800シリーズは、RADEON 9800系を拡張した仕様にとどまったのではないか。AGP 8X版とPCI-Express版とでGPUコアそのものはほぼ同じとはいえ、開発リソースは分断されるのは明らかだ。

 一方、NVIDIAはAGP 8X(16X)版の開発に注力できたために、GeForce 6800シリーズは基本アーキテクチャの一新と新シェーダ仕様の導入も大胆に行えたのではないか。あえて、こうした仮定を組み立て、この辺りについて聞いてみた。

タマシ氏 ATIについてはデーブ・オートン(オートン氏はATI TechnologiesのCEO)にでも聞いてみてください(笑)。

 AGPとPCI-ExpressのブリッジチップはHSI(High-Speed Interconnect)と呼ばれていますが、これには多大な開発リソースが割かれて開発されました。PCI-Expressは非常に高クロックなうえにまったく新しいバス仕様であるために、試行錯誤の連続であったことは確かです。HSIベースの対応だからGeForce 6800シリーズの開発が簡単だったと言うことはありませんよ(笑)。

──分かりました(笑)。それはさておき、NVIDIAがPCI-Expressネイティヴへの対応を見送ったのはなぜでしょうか。

タマシ氏 まず、業界の「PCI-Expressへの移行」がどのような形でどのくらいの期間で行われるかがまったく見えなかったために、ネイティヴ対応は状況を見てからにすることになったのです。

 しかし、業界動向は予測不能だとしても、突如として急激な進捗を見せる場合があります。そこで、我々は、AGPとPCI-Express双方向のバス変換チップとしてHSIを開発したのです。GeForce 6800系のようなAGPネイティヴのGPUならばHSIと組み合わせてPCI-Express仕様で出すことができ、逆に2004年中にPCI-EXPRESSがあっという間に浸透してしまうようであれば次世代GPUをPCI-Expressネイティヴとして開発し、これとHSIと組み合わせてAGP版を提供します。この臨機応変な機構こそがHSIの強みなのです。

──ATIのように、両ネイティヴに対応するということは、2種類のGPUを業界動向を見極めて製造しなければならないわけですね。

タマシ氏 そうなりますね。二つのチップのテープアウトが必要になりますし、それのためにはさまざまなエンジニアリングが必要になることは想像に難くないですよね。

 一方、我々はHSIとGPUを業界の動向を見ながら製造していけばよいので、予測を見誤ったときのリスク回避が容易なのです。その意味では、チップ全体の製造コストを考えた場合、我々のほうが有利なのです。我々のGPU製造を依頼しているIBMやTSMCのような半導体工場は、発注してから製品が出てくるまでに4カ月、あるいはそれ以上かかります。このタイムラグを踏まえつつ、未来を予測するのは非常に難しいですからね。

──ATIとインテルは今年初頭からPCI-Expressネイティヴソリューションの優位性をアピールしています。

タマシ氏 ATIのいう"ネイティヴ"がどれほどの優位性を発揮できるかに少々疑問を持っています。彼らが作ったネイティヴチップの最初のダイ写真を見た感じではAGPバスにPCI-Expressをはめ込んだような、まさに苦肉の策といった感じの印象を受けました。本当に速いか遅いかは調べてみないと分からないですね。

 HSIはPCI-Expressアーキテクチャを透過的に活用できるように設計されていますし、GeForce 6800シリーズはHSIとの連携を初めから想定して設計されました。PCI-EXPRESSという新バス規格への対応は、正しい設計の下に行っていればネイティヴ対応だろうが、そうでなかろうが大した問題にはならないと私は思っていますね。

 PCI-Expressでは、理論上チップセットとGPU間で上り下りがそれぞれ4.0Gバイト/秒の転送帯域を提供する。一方で、NVIDIAのHSIソリューションではGPUとHSI間が双方向4.2Gバイト/秒(AGP 16Xの帯域)しか提供されない。

 PCI-Expressはシリアルインタフェースであり、その実効帯域はパケット・オーバーヘッドを配慮すると実質上り下り片道3.0Gバイト/秒となる。GPUと双方向4.2Gバイト/秒で結ばれるHSIならば、チップセットからHSI方向で3.0Gバイト/秒を消費しても、HSIからチップセット方向では1.0Gバイト/秒以上の帯域が使えることになる。NVIDIAは3Dグラフィックスにおけるデータの流れはCPU→チップセット→GPUが主たるものであり、逆方向は1.0Gバイト/秒以上もあれば十分である、というスタンスを取っている。

実際にはパケットのオーバーヘッドがあるので実効帯域は3Gバイト/秒とされている
NVIDIAは下り3Gバイト/秒消費しても、上り1Gバイト/秒以上あれば現在なら必要十分と考えている

──ATIはハイビジョン(HD:High Definition)映像の編集にはCPU─GPU間の双方で広帯域を必要とするということをたびたび主張しています。

タマシ氏 1080pのHD映像を考えてみましょう。これは1920×1080ドットですから約200万画素ですね。1画素あたり16ビット/2バイトだとすれば1フレームあたり4MBのデータ量です。これが60fpsで伝送される動画だとしても秒間240Mバイト。すなわち、これは上り240Mバイト/秒の帯域で十分ということになります。下り3Gバイト/秒、上り1Gバイト/秒の例がHSIの実効パフォーマンスの説明でよく用いられますが、これで十分なわけです。

──ATIは複数のHD映像をデスクトップ上でいじくるデモをやって、上り下りそれぞれ4Gバイト/秒の優位性を示していましたが(笑)。

WinHEC04では、ATIがハイビジョン映像の編集デモをAGP 8XソリューションとPCI-Expressソリューションで行い、そのパフォーマンスの格差を示した

タマシ氏 上り下り双方が同時に3Gバイト/秒を超えるPCI-Expressチップセットは、現在、私が調査した限りでは少なくとも現在では存在しません。HSIは確かに双方トータルで4.2Gバイト/秒の実効帯域ですが、上り下りの転送を最大4.2Gバイト/秒の範囲内で臨機応変に割り振ります。HSIは、現在存在するPCI-Express対応チップセットと組み合わせた場合、その処理能力を飽和させるほどのパフォーマンスを持っているので、インテルやATIが主張するような問題が我々のソリューションで起こりうるとは思っていません。

 NVIDIAはHSIに絶対的な自身を持っており、少なくとも近々正式にスタートする第一世代PCI-Express対応チップセットと組み合わせるケースにおいては、HSIがパフォーマンスインパクトに結びつくことはないと自負しているようだ。

 とはいえ、GPUとHSIの2チップが基板上に載るということは、製造コストや消費電力面において、ネイティヴ対応を推進するATIよりは不利なのは明らかだ。モバイル版PCI-Expressへの対応においてこのHSIの製造コストと消費電力面の足かせが大きく響いてくる可能性もある。

 もっともNVIDIAが想定するノートPCというのは、そうした要素がクリティカルでない大型高性能のデスクトップ代替ノートPCを指しているという話もあるが。

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