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» 2004年06月30日 00時54分 公開

「標準規格」の現実わかりたい人のための動画エンコード講座

先日、ホロンから何とも変わったソフトウェア「Hyper DVD Author」が登場した。内容については、レビュー記事を書いたのでそちらを見てほしいが、スペックとは何か、標準とは何かというのをなかなか考えさせられた。前々回の「MPEG-2至上主義の間違い」の続きとしてお読みいただきたい。

[姉歯康,ITmedia]

規格外でも再生できるって?

 Hyper DVD Authorの詳細についてはレビュー記事を参考にしていただきたい。簡単にいうと、「動画を450Kbpsという低ビットレートのMPEG-2にエンコードし、DVD(に近いもの)を作成する」というものである。今回は技術的なことには触れない。私が指摘したいポイントは、

  • 1.このソフトで作成したMPEG-2はISOが定めたMPEG-2の規格を満たしている
  • 2.このソフトで作成したMPEG-2はDVDの規格を満たしていない(
  • 3.だけど多くのDVDプレーヤーで再生できる
  • 4.再生できないDVDプレーヤーもある

という点である。例えば、この3点のうち「2」について、販売元が隠していたりすれば大問題だが、そのようなことはない。それよりも、世の中にはDVDの規格からズレているのにDVDとして販売されているものがあり、そちらのほうが問題である。そこで、「規格とは何ぞや?」ということを考えさせられた次第である。

DVDの互換性は完璧か?

 DVDといえば、もう「熟成されたメディア」といってもいいだろう。いい加減、プレイヤーも普及しており、互換性の面の問題の話はそれほど多くは聞かない。だが、「このタイトルはこのプレイヤーでは再生できない」という話は存在するのだ。何故か?

 いろいろなところで話を聞いて総合すると、「仕様書を勘違いしている人達がいる」「いい加減なオーサリングをしている業者がいる」という2点に集約されるようだ。DVDをリリースしている側は、自分達がまさかスペック違反のソフトを販売しているとは思っていない。一部のプレイヤーでも再生を確認している。が、厳密にいえば違反であり、一部の「規格に正直なプレイヤー」で引っかかってしまう、というが多いということなのである。

 DVDというメディアが登場した頃、この問題はもっとヒドかったのだが、今ではソフト制作側、プレイヤー制作側の双方に「こうしておけば大丈夫」というノウハウが蓄積されている。DVDの標準仕様の中に、さらに「一般的な作法」ができ、「ワカってる人達」は、みんなそれに則ってオーサリングしているということである。

 これは別に珍しいことではなく、規格というものには、常にこういう問題がつきまとう。さらに、「標準規格」の中の「一般的な作法」が事実上の標準となってしまうと、今度は、「一般的な作法」だけしかサポートしていないプレイヤーが登場し、今度は「標準規格に則っているのに再生できない」といったことも出てくる。スペック通りに作っているのに「異端」となってしまうのだ。

 このあたりが、書類を元にした「標準規格」の難しいところでもある。「このAPIを使えば互換性OK」という世界ではないのである。この難しさは、MPEG-4に至ってはさらに複雑になる。

「MPEG-4」という言葉が示す範囲

 「MPEG-4」の指す範囲は、あまりにも広い。「低ビットレートでの動画のやりとりを目的としたコーデック方式」というのが一般的な認識のようだが、それはあくまでも一部。

  • MPEG-4 Systemでは、ビデオ、音声といった要素は全て「オブジェクト」であり、インタラクティブ性まで含めたオブジェクト操作が可能
  • MPEG-4 Visualには、ビデオの圧縮を定めた複数のプロファイルがたくさん存在し、低ビットレートだけでなく、ギガbpsというスタジオ用のプロファイルまで定義されたものも存在する
  • MPEG-4 Visualでは、一般的なビデオ圧縮だけでなく、「顔アニメーション」など、CGなどを元にしたグラフィックについても定められている
  • MPEG-4 Audioでは一般的な音声圧縮だけでなく、テキスト・トゥ・スピーチ、MIDIのようなシンセサイザーのコントロールといったことまで定義されている

というように、マジメにMPEG-4のことを考えると、「そんなの全部できるソフト、どこにもねーよ!」という話になる。私が知っている限り、いちばんフルに近い機能が扱えるソリューションを持っている会社は、DG2LとEnvivioで、それでもすべてが実装されているわけではない。

 ということで、「MPEG-4対応」という表現は、非常にあいまいで、あまりよろしくない。今、一般的にMPEG-4対応と言われているものは、「MPEG-4 Visual Simple Profile」もしくは「MPEG-4 Visual Advanced Simple Profile」という、コーデックの部分のみを意味しているものが多い。細かく言えば、

  • QuickTimeはMPEG-4のファイルフォーマットをサポートしているが、だからといってすべてを網羅しているわけではない。
  • Windows Media TechnologyはMPEG-4 Visualのビデオコーデックの一部をサポートしているが、独自のフォーマットの中で扱っているため、ファイルフォーマットとしてはMPEG-4と互換性がない。
  • DivXはMPEG-4 VisualのうちAdvanced Simple Profileをサポートしているが、AVIというフォーマットの中で実現している。ファイルフォーマットとしてはMPEG-4と互換性がない。

ということになる。

 だが、こんなことを、いちいち考えるのは面倒だし、そんな細かなことが書かれているスペックシートというのも、ウンザリである。

 さて、困った。私自身、以前からMPEG-4という規格の可能性には期待しており、常に「MPEG-4は誤解されている」と言い続けてきた。が、規格自体が膨大で、あまりにも多くの可能性を持っているため、「誤解を与え易いもの」となってしまっているのだ。互換性について心配する人達がなかなか踏み込めないというのも無理はない。

 そんな中、ISMAや3GPなど、他の機関が「MPEG-4 Visualから必要なスペックを抽出した規格」を策定しているのは明るい材料である。が、それらはあくまでもMPEG-4の一部。例えば「3GP=MPEG-4」と考えられてしまうと、「MPEG-4は低ビットレート用のコーデックである」という解釈が広まってしまうことになる。

民生用のDVD録再機

 ……と考えると、MPEG-4の中に潜む様々な互換性の問題は、「せっかく優れた技術がテンコ盛りなのに、テンコ盛り過ぎて混乱の元になっている」ということであり、Hyper DVD Authorによって提示された「標準との微妙な違い」の話より、遥かに手前の段階にあるといえる。この先、たとえば「HD DVD」が普及して、その中でMPEG-4が普通に扱われるようになってくると、その中でも、また細かな違いなどの話が浮き彫りになってくる可能性がある。

 Hyper DVD Authorについていえば、もちろん「450KbpsのMPEG-2コンテンツを制作する」というのは、画質を考えれば最良のソリューションとはいえない。もともと、MPEG-2は、低ビットレートで扱うために作られた規格ではないからだ。だが、「なるべく多くの環境で再生できるものを、なるべく多く詰め込む」という発想からいえば、アプローチとしては「アリ」なのである。そして、こういう考え方のソフトが登場するということが、MPEG-2、DVDという規格の強さ(互換性、汎用性といってもいい)を示しているのである。

 もちろん、パソコンの世界では、このような進化と互換性の関係の話は当たり前である。だが、民生用のDVD録再機が普及してパソコンとの連携も謳われるようになった今、デジタル映像をパソコンの世界だけでは考えられなくなってしまってきている。だからこそ、以前にも増してMPEG-2のような「最大公約数」が注目されるようになったということなのだ。

 果たして今後、他のあらゆる技術に、最大公約数を突破するだけの魅力があるのか? ということを、ついつい考えてしまう。そうなると、MPEG-4をはじめとする新しい圧縮技術は、やはり通信系でしか使われない技術となるのだろうか? 実は、「MPEG-4ガンバレ!」と思う頻度が、日に日に少なくなってきている今日この頃なのである……。

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