PCモニター以上か、液晶テレビに迫るか? EIZOが世に問う動画品質・音質を開発者に聞くインタビュー

» 2004年11月02日 00時00分 公開
[リアクション,ITmedia]

 ナナオから意欲的な液晶モニターの新作が登場する。動画の表示品質と音質を重視した、MultiEdgeシリーズの19インチSXGA「FlexScan M190」と、17インチSXGA「FlexScan M170」(以下、それぞれM190、M170)だ。

 液晶モニターの弱点だった階調中間階調の応答速度を、液晶テレビでは一般的となった「オーバードライブ回路」で高速化したのが大きな特徴。液晶パネルには、コントラスト比が1000:1の「FlexScan S170」と同じPVAパネルを採用しているので、画質の高さも折り紙付きだ。音質面では、スピーカー出力のアップやサラウンド技術「SRS WOW」の採用で、クオリティアップを図っている。

 そこで、液晶モニターの新機軸を生み出した開発者たちに、画質面と音質面を重点的に話を聞いた。映像商品開発部・商品開発2課・グループリーダーの村田敬氏、映像商品開発部・商品開発課・第1グループ・主任エンジニアの佐伯浩行氏、機能ユニット開発部・造形設計課・グループリーダーの久保田勝氏の3人だ。

PCで動画を見る機会の増加が開発の背景

 ――開発に至った経緯、製品の特徴を聞かせてください。

村田 現在のPC環境は、DVDドライブやTVチューナーが普及したり、インターネット上の映像コンテンツが増えたりして、動画を見る機会が非常に多くなりました。画質と音質を高めてほしいという要望もどんどん強くなってきたので、それに応えるために動画重視のモデル(M190/M170)を企画しました。

 M190/M170はあくまでPC用のモニターですので、例えば子供部屋や書斎でテレビもPCも欲しいといった場合に、この1台でマルチに使いこなせるところを目指して製品化しています。

 そこで動画再生能力を高めるために、応答速度を向上させるオーバードライブ回路を搭載しました。液晶テレビでは一般的に採用されている技術ですが、今回はPC用モニターである本製品においても搭載しています。

 もう1つ、C-Boosterという新しい機能を採用しました。これはソースの信号に応じてメリハリの効いた映像を提供します。例えば暗い画面が中心の映像ですと、暗い部分をより分かりやすくするために、階調(編注:ガンマ特性)をアクティブに変えながら表示します。

 高コントラストを実現するために、夏に発売しましたFlexScan S170と同じ1000:1のパネルを採用しました。このパネルの採用で、より黒が引き締まった感じで表示できます。それと輝度の自動調整も取り入れました。上部のセンサーで環境照度を感知して、自動的に最適な輝度で表示するようにしています。また、FlexScan S170で好評だったArcSwing 2も継承しました(編注:昇降とチルト/スイーベルを持ったスタンド機能で、円弧を描くように画面の角度を調整できる)

 音質面の改善については、まずスピーカー出力を2W+2Wにアップしました(編注:従来は1W+1W)。PC用モニターでは画面の下にスピーカーを配置することが多いですが、これだとステレオの機能を十分に果たせません。左右のスピーカーを離したほうが効果的なので、画面のサイドに配置しました。

 加えて、サラウンド機能としてSRS WOWという技術を採用しています。小さいスピーカーでも擬似的に低い周波数(編注:低音)を出力できて、サラウンド効果、立体感も得られますので、迫力ある音質と臨場感を味わうことができます。

PC用の液晶パネルにオーバードライブを要求するベンダーは少ない

 ――では、画質面から詳しくお伺いしていきます。御社には「FORIS.TV」というまったく別の製品があって、ソースに忠実で自然な映像を再現するという方向性でした。M190/M170の画質設計もFORIS.TVと同様と考えてよろしいのでしょうか。

村田 基本的には変わらないのですが、やはりテレビとは違います。M190/M170はPC用のモニターということで、PCに向いた画質を優先しています。十分な解像度や、静止画でもきれいといった点を重視しています。それにプラスして、動画再生能力を追加したということです。

映像商品開発部・商品開発2課・グループリーダーの村田敬氏

 ――オーバードライブの搭載は以前から検討されていたのでしょうか

村田 今年の初め頃からです。M190/M170の企画当初ですね。PC用モニターの液晶パネルでは十分な応答速度ではないと判断しまして、やはりオーバードライブが必要だろうと。

 PCモニター、テレビと、どの分野を狙うかにもよるかと思いますが、今回のM190/M170ではどちらも狙いました。

 ――オーバードライブの機構は、液晶パネルのメーカーと共同して開発されたのですか?

村田 そうなります。PC用の液晶パネルにオーバードライブのような特殊な機能を要求するベンダーは少ないので、当初はなかなか引き受けてもらえなくて(笑)。最後まで「どうしても」と無理にお願いして、何とか付けて頂きました。

 ――応答速度が高いパネルを採用するという手段もあったと思いますが?

村田 基本的にPC用モニターの液晶パネルは、中間階調の応答速度が低い。白から黒、黒から白の変化では、TNパネルなどは速いのですが、実際には多くの場面が中間階調で表示されています。中間階調では満足できる応答速度ではありませんので、そこを速くするオーバードライブを採用しました。

 ――液晶テレビでは、映像をシャープに表示する技術としてオーバードライブのほかにも「黒画面挿入」がありますが、こちらの採用は検討されましたか?

村田 今回はオーバードライブだけで考えました。というのも、黒画面挿入は、液晶テレビのような高い輝度(編注:400〜500カンデラ/平方メートル)の場合、効果的なのです。本来ならオーバードライブと黒画面挿入を併用すれば効果も大きいのですが、M190/M170の最大輝度(編注:250カンデラ/平方メートル)が液晶テレビと比べて低いこともあり、黒画面挿入は見送りました。

 ――PCモニターとテレビの両方を狙ったとのことですが、ビデオ入力がなかったのは非常に残念に思われます。

村田 そうですね(笑)。ただ、そこまでやるとビデオデコーダーなども必要になるので、回路も機能も複雑になってしまいます。本体サイズの問題もあり、まずはPCモニターとして始めました。ビデオ入力の要望が多いようなら、将来的な製品で実現することも考えています。

 ――ワイドモニターは検討されなかったのでしょうか。

村田 今後のテーマとして考えているところです。PC用モニターのワイド液晶パネルはまだ数が少なく、さらに性能まで考えると、今回M190/M170で採用した液晶パネルしか見あたりませんでした。

 ――C-Boosterについて詳しく教えてください。

村田 入力信号のヒストグラムを解析して、リアルタイムでガンマカーブを補正する機能です。ピクセル頻度の高い部分を伸張して、階調がはっきり表示されるようにします。ダイナミックレンジ自体は変わらないので、ピクセル頻度が低いところは縮まります(編注:階調が圧縮される)。暗い部分や明るい部分だけを補正しているのではなく、画面全体に対して効果をかけています。リアルタイムのヒストグラム解析とガンマ補正ができるようにしており、動きの速い映像でも処理が遅れることはありません。

 ――C-Boosterの「C」とは何ですか?

村田 「Contrast」(コントラスト)です。

 ――少し話がズレますが、一般的なビデオ信号(コンポジットやS映像)を、市販のアップスキャンコンバータ経由でM190/M170に入力した場合、性能は発揮できるのでしょうか。

村田 簡単にはテストしましたが、市販で割と安めのアップスキャンコンバータは性能が十分とは言えません。M190/M170の性能を生かすには、少々厳しいと思います。あらゆるモニターに対応できるよう、TVチューナー付きのスキャンコンバータを弊社で作るという意見もあるのですが(笑)。

こだわりの音質、「SRS WOW」採用とデザイン

 ――続いて音質面についてお伺いします。どれくらいの製品レベルを目指して開発を進められたのでしょうか。

佐伯 従来モデルのスピーカーは、映画や音楽ではなく、ニュースなどの人の声を主体に視聴することを主眼に置いていました。当初からもっと高音質なスペースを考えていたのですが、スペース的、コスト的な問題でどうしても無理がありました。

佐伯 今回のM190/M170では、最低でも従来モデルより高音質にするところからスタートしています。PC用モニターに付いているスピーカーの中で、上位クラスになるところを目標としました。

映像商品開発部・商品開発2課・第1グループ・主任エンジニアの佐伯浩行氏

 ――M190/M170くらいの本体サイズでは、2W+2Wが限界ですか。

佐伯 限界というわけではありませんが、2W+2Wあれば十分だろうと判断しました。

 ――「SRS WOW」を採用されていますが、スピーカーの出力数とは関係ない技術なのでしょうか。

村田 スピーカー出力の大小は特に関係ありません。スピーカーの大きさに合わせてチューニングできます。SRS WOWには、小型のスピーカーでも低音が出せるという特徴があります。擬似的な信号にはなりますが、効果としては大きいです。

 ――画面からどれくらいの距離で聞くのが効果的なんでしょう。

佐伯 50〜60センチですね。部屋の中でBGMを流すような、それ以上に離れた場合も、十分に「聞ける」音質です。

 ――スピーカーネットにパンチングメタルを採用していますが、従来モデルのようなプラスチックネットとの違いは?

佐伯 一番には開口率ですね。従来のようなプラスチック成形と比べて、パンチングメタルは音がダイレクトに伝わります(編注:音のヌケがよくなる)。コストは高くなりますが、ちょっと無理を言ってパンチングメタルにさせてもらいました(笑)。

久保田 開発の立場からすると、常にもっといいものを作りたい。これまで開発してきたのはオフィス用途が主体でしたから、あまり立派なパーツを組み込んでも無駄に高くなってしまうだけで、ユーザーのニーズに合いません。

 今回のM190/M170に関しては、動画対応で音質向上といった、コンテンツに合わせた製品作りのコンセプトがありました。ただし汎用のPC用モニターの域を出てはいませんので、コストを考えて従来通りのプラスチック成形も検討はしましたが、納得できませんでした。

機能ユニット開発部・造形設計課・グループリーダーの久保田勝氏

 ――それは音質面で?

久保田 音質もそうですし、製品自体のクオリティといいますか、どうしても気持ちがノってこなかったのです(笑)。デザイン的なところも加味して、パンチングメタルを採用しました。

 ――M190/M170では音質の調整もできるようになっています。

佐伯 これまでの製品が、項目がなさ過ぎました(笑)。高音質であれば、トーンコントロールなどの幅も広がります。今回はSRS WOWを採用するということで、SRS WOWの3つのパラメータ(編注:SRS、FOCUS、TruBass)をアプリケーションから自由に設定できるようにしました。

 本体のOSDに2通りの設定も用意していますが、ユーザーの自由度、拡張性を広げる方向を考えました。もっと低音を大きくしたいとか、サラウンドを強くしたいとか、やっぱり前面から聞こえてくるほうが好きだとか、いろいろ好みがありますよね。

 ――最後に、ユーザーへのメッセージと今後の展望などを聞かせてください。

村田 動画に適した画質と音質では、どこにも負けない製品に仕上がっています。PCで動画を見る人、ゲームをする人に、ぜひ使って欲しいと思います。

 今後は、先ほども話題になったように、D端子やS端子といったビデオ入力の搭載、ワイド液晶の採用などをテーマに取り組んでいきます。

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