「2000年のCOMDEX/Fallでマイクロソフト、コンパック(当時)、エイサー、それに我々が話し合って、ペンコンピュータの可能性を大きく広げることはできないか?と新型PCのコンセプトについて話し合ったのがタブレットPCの始まりです。フル機能のWindowsが動くペンコンピュータならば、市場を大きく広げられると考えたのです」
「もっとも、新市場を拓く潜在能力はあるとはいえ、短時間で急激に広がるわけではありません。前述したようにペンコンピューティングの事例に広がりは出てきていますが、まだまだこれからの製品で、ビジネス的なフォーカスは以前のペン市場へと戻っています。しかし、その一方で地道に少しずつ市場拡大が行われている点も見逃せません。特に米国と欧州では、年に50%の割合でタブレットPC市場が伸びています」
従来のペンコンピュータ市場から抜け出すには、ピュアタブレットとしてコンピュータを使う際の使い勝手が今以上に向上すること。特に日本語環境では、自然言語処理技術の発展が必要だろう。またハードウェアの面では小型、軽量、長時間バッテリ駆動といった要素を突き詰める必要がある。
たとえばノートPCとしても使えるコンバーチブル型タブレットPCは、どうしても通常のノートPCよりも重く、分厚くなる。
「我々、富士通のモバイルPC事業部は、“妥協しない、あきらめない”をポリシーにしています。普段、自宅やオフィスで使っているコンピュータの機能をモバイル環境でもそのまま使いたい。軽くて丈夫で電池が長持ちするというのは、モバイルPCに求められる要素ですが、軽くなるからといって“何かを取り除く”ことはやりたくない」
「たとえばピュアタブレット型のTBシリーズは、これまですべての機種にサブバッテリを内蔵させてきました。電源がない場所で使われる頻度が高いため、出先でバッテリ交換を行うことも多いからです。サブバッテリがあることでユーザーはPCのサスペンド中に、メインバッテリを入れ替えることができる。実際に利用される現場で求められている要素を、カタログスペックのために削ることはしません」
機能をあきらめないという観点からすると、従来のコンバーチブル型タブレットPCは光ドライブの内蔵をあきらめなければならなかった。2スピンドルモデルが存在しなかったからだ。
「実は日本では発表していませんが、海外向けには2スピンドル機のコンバーチブル型タブレットPCも展開しています。ピュアタブレット型はバーティカル市場中心ですが、コンバーチブル型はノートPCの使い方を拡張する製品です。ノートPCの主流はモバイル機も2スピンドルになってきていますから、コンバーチブル型タブレットPCも2スピンドルになっていくでしょう。2スピンドルのタブレットPCは我々の製品が初めてだと思います」
日本未発表というLifebook T4000は1.8〜1.6GHzのPentium Mを搭載。タブレット内蔵ながら液晶部も薄く仕上がっており、ペン利用時の視差も少ない。12.1インチの液晶パネルはTB11シリーズと同じ広視野角タイプ。ドライブ搭載時で2.1キロ、取り外せば約1.9キロとなる。日本での発売予定は「今のところ予定はないが、今後の市場を見て検討してゆきたい」との話だった。
ハードウェア面での進化はタブレットPCを語る上で重要なポイントだ。バッテリ持続時間もあるが、2スピンドル化や軽量化などにより、通常のノートPCに匹敵するスペックになることでタブレットPCを“避けたくなる”要素を取り除かなかければ、ペンが必須のバーティカル用途以外での使い方も広がらない。
富士通としては、タブレットPCの将来に対して、どのような展望を持っているのだろうか?
「ビジョンを語る場合、ひとつは願望、もうひとつはビジネスとしてのロードマップのふたつがある。願望としては、タブレットPCで新しい使い方を創造し、新市場を作っていきたいと考えている。しかし一方、ビジネス的には、タブレットPCの特徴を活かすために、顧客ごとのアプリケーションの提案をやっていく必要があります。単に安いだけの製品ならば、台湾や中国のベンダーにはかないません」
「クオリティやソリューションを加えて評価したときにアドバンテージがあるか? 我々は日本でも欧州でも北米でもアジアでもコンピュータビジネスを展開しています。各地域ごとのビジネス環境にマッチした提案を行うことで、少しずつ足場を固めていきます」
導入現場ごとの細かな提案という意味では、新機種の採用した反射型液晶パネルが興味深い。どのような使われ方を想定しているのか?
「電気、ガスなどの公共事業の現場からの要求が大きかった。しかし、今後さらに適用分野ごとのアプリケーション、ソリューションが確立されてくれば、より多くの分野で利用できると思います。たとえば測量機と接続するコンピュータといった場合、屋外の炎天下でも使えなければなりません。そのような事例をひとつひとつ増やしていくことになります」
ユーザーごとに適した提案を行うことで顧客満足を高めるということだろうか。富士通のPCは近年、品質の高さでも評価されている。北米での修理率の低さは業界内での話題にもなった。富士通製PCの米国における修理率は僅か13%。業界平均は20%台で、故障率はそれぞれ、その半分ぐらいの数字だ。
「客観的に見ても、品質レベルは高いと思います。修理率だけでなく、着荷不良はほとんど皆無ですし、返品率も非常に低いのです。また、導入現場の事情に即した豊富なオプションを揃えている点も好評です。防塵、防水といった要素は、導入現場ごとに必要とされるレベルが異なります。防塵は必要ないが防水は必要、あるいは耐衝撃性の強化だけでいい、といった事例ごとの要求に応えるオプションを用意しています」
「様々な使い方を提案しながら、日本だけ、北米だけといったローカルにとどまらず、ワールドワイドから集まる事例を収れんさせ、使い方の提案や製品への反映を行い、市場の拡大を図っていきます」
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