AppleとIntel、30年にわたる数奇な関係(後編)(2/3 ページ)

» 2005年06月22日 07時55分 公開
[林信行ITmedia]

オブジェクト指向カンパニー、NeXT

 スティーブ・ジョブズは1985年、自ら招き入れたCEO、ジョン・スカリーによってAppleを追放される。この時ジョブズはショックを受け、自分の失敗をIntelのボブ・ノイスに謝りにいったという(最近ジョブズがStanford大学で行ったスピーチで明かされた)。

 そのジョブズが、新しく作ったのがNeXTだ。設立時はNeXT、その後NeXT Computerと社名変更して、Macと同じMotorola製「68030」を搭載したワークステーションをつくっていたが、後にハードウェア事業から撤退しNeXT SoftwareとなってOSとWebサーバー用ソフトの開発に専念する。

 AppleがMotorola製「68040」から、PowerPCへの移行を果たしたとき、NeXTは、ハードウェアメーカーからOSメーカーへと移行、その時、選んだのはCPU非依存の道だった。

 NeXTのOSの特徴は、プログラムの抽象化が進んだオブジェクト指向技術を全面的に取り入れていること。例えばビデオである番組の録画予約方法を人に教える際、「まずはリモコンの一番左上のボタンを押して」、「じゃあ、次はその下のボタンを3回」、「そしたら次は隣のボタンを10回」……と指示を出したのでは、ある特定の番組の録画にしか対応できず、しかも、リモコンのチャンネルや時刻が特定の状態になっている時にしか対応できない。

 これがそれまでの古いプログラミングだ。

 これに対して、プログラムを抽象化すると以下のようになる。まずは「録画したい番組のチャンネルを選び、続いて開始時刻、終了時刻をボタンで指定する。最後に『転送』ボタンを押せば、予約が完了する」と説明した上で、「今日、録画したい番組は◯チャンネルで、放送時間は△時から□時まで」と説明するのがオブジェクト指向プログラミングだ。

 先に教えておいた録画予約の基本を、流用して、別の番組の予約方法も簡単に指示が出せる。また、具体的なチャンネルや開始時間の設定方法を別途、指示することで、どんなリモコンにも対応できる。

 NeXTのOS「OPENSTEP」は、こうしたOSそのものの抽象化を進めることで、特定のCPUに依存しない環境をつくりあげていた。その後のNeXTのOSは、従来のMotrola製CPUに加え、Sun Microsystemsの「SPARC」、Hewlett-Packardの「PA-RISC」などのサーバ/ワークステーション用CPUでも動き、そしてIntel製のCPUでも動作した。

OPENSTEP開発環境のデモ画面 OPENSTEP開発環境の画面(1997年、日本で開発者向けに行なわれたデモより)

 実際、NeXTのOSを一番広めたのはIntel製CPUのプラットフォームだった。

噂の再燃

 現在のMac OS Xは、NeXTのOPENSTEPの子孫にあたる。

 1996年末にNeXTを買収したAppleは、1997年、新OS「Rhapsody」の計画を発表した。さらにその年のWorldwide Developers Conferenceで、「Prelude to Rhapsody」という名前で、Intel製CPU用の「OPENSTEP 4.4」というOSを配布し、ネクスト流オブジェクト指向プログラミングへの心の準備を促した。

 その後、AppleはこのOPENSTEPを、PowerPCに移植し、Rhapsodyという開発者向けOSとして配布する。面白いのは、このときAppleがRhapsody for Intelも一時期配布したという事実だ。これでAppleがIntel版のOSもつくるのではないか、という噂が再燃した。

Appleが開発者向けに配布したRhapsodyのCD-ROM Appleが開発者向けに配布したRhapsodyのCD-ROM。右がRhapsody for PC Compatibles(1997年10月版)、左がRhapsody for Power Mac(1998年5月版)

 実際、ジョブズの復活後、Appleは辛辣にIntel製CPUの性能を批判することもあったが、その一方で、AppleとIntelの関係が改善しているように見える節もあった。

 Intelが積極的に必要性を説いていたレガシーフリーPCを真っ先に実現したのはAppleの「iMac」だったし、そのことはグローブも評価していた。また、このiMacが、IntelがWindows PCを使って広めようとして、なかなか広まらなかったUSB規格を、一気に押し広げた。

 IntelはIDFで、再三、iMacやMac miniに似たコンセプトモデルを披露し話題になっている。そんなIntelの株主総会に、スティーブ・ジョブズが出席していた、という噂もある。

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