現在のPCゲームにおけるカテゴリーの定義でいけば、「戦略級」(=ストラテジー)は「外交」「経済」「生産」という概念が必須である。採取した原材料を加工してさまざまな物資や兵力に変換して戦争をいかに有利に展開していくかが重要な要素となる。ボードウォーゲームのデザインを色濃く引き継いでいるPacific Warは「戦略級」とされているが、それは「太平洋戦争全般を扱っている」という現在のPCストラテジーゲームからみればかなり限定された定義にすぎない。日本軍担当者の権限は「参謀本部総長」「軍令部総長」といった「軍令」系統に限られているため、例えば「第3次補充計画では大和級の建造を取りやめて翔鶴級を6隻にしよう」「国家主導の技術開発はレーダーを優先しよう」「烈風の開発を打ち切って震電を資源を投入しよう」「荒れ地を開墾して芋を増産しよう」ということはできない。
このような「国家運営」的な要素はないものの、太平洋戦争の戦略級ゲームで欠かせない「輸送」「補給」という概念は取り入れられている。「太平洋戦争で日本が負けたのは輸送を軽視してシーレーン防衛を怠ったためだ」とはよく聞かれる意見だし、「燃料不足で動きが取れない日本軍」というイメージはこの手のゲームに興味を持つ多くのゲーマーが持っている。太平洋戦争の戦略ゲームで日本軍担当は、「シーレーン防衛を成功させて各部隊に十分な燃料と物資を補給し日本軍を縦横無尽に暴れさせる」ことを目論む。
細かいデータ管理が得意なPCゲームではあるが、Pacific Warのロジスティックルールはいくぶん抽象的にデザインされている。原材料は「Oil」「Resurece」だけ、補給物資も「Fuel」「Supply」のみと、燃料系(OilとFurl)が物資系(ResouceとSupply)がそれぞれ1種類とシンプルな構成だ。原材料をそれぞれの産出拠点から「Heavy Industry」「Artillery」「Shipyard」「航空機生産工場」といった生産拠点を持つ重要都市に輸送し、そこでFuelとSupplyに変換して部隊が展開している基地に輸送する。占領している産出拠点から重要都市への「搬入航路」と重要都市から制空権圏内にある各基地への「搬出航路」といった「定期航路」はPCが船団を自動で割り当てて勝手に運行してくれる。なお、OilとResureceは生産活動でも消費される。
石炭だろうが石油だろうが、ポーキサイトだろうが鉄鉱石だろうが、一度本土に持ち込んで加工したあと前線に送らなければならないことに変わりない。前線では「糧食だけ」「弾薬だけ」では作戦行動は起こせないのだからまとめて「Supply」という扱いでも困らない。用途の異なる「燃料」と「補給品」にさえ分類しておけば、この規模のシミュレーションモデルとしては十分であってモノの流れは現実に則している。そのモデルで再現される事象に不自然なところはない。このあたりにPacific Warにおけるゲームデザインの「詳細と省略」がよく表れている。
部隊が展開する基地では重要都市で生産されたFuelとSupplyを消費して作戦行動を起こす。艦船と飛行機はFuelを消費し陸軍部隊はSupplyを消費する。作戦部隊の運用にはこれら補給物資のほかに「Preparation Point」も必要になる。陸海空のすべての作戦部隊は「南方軍」「連合艦隊」「第14軍」「南遣艦隊」といった方面軍や軍団レベルの司令部に所属しており、これら司令部が隷下の部隊を行動させるためには、その部隊の規模に合わせたPreparation Pointを消費しなければならない。Preparation Pointは司令部が部隊を動かすために必要な「書類」を作り出す官僚的な手間を数値化したものといえる。
このように、陸海空に展開する作戦部隊はPreparation PointとFuel、Supplyを消費して行動する。海上作戦は艦隊単位で、航空作戦は航空隊が展開する基地単位で、陸上作戦は同じ基地に駐屯する部隊単位でそれぞれ扱われるが、Pacific Warのルールブックには行動に必要な燃料や物資の値、戦闘処理の計算式が細かく掲載されていて、このゲームのルールにどのような要素が影響しているのかが把握できるようになっている。
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