検索サイト「百度」がえらいことになっている山谷剛史の「アジアン・アイティー」

» 2006年09月25日 09時00分 公開
[山谷剛史,ITmedia]

不満高まる百度の広告システム

 中国でGoogle中国と双璧をなす検索サイト「百度」(Baidu)の周辺がなにやら騒がしい。しかもいくつものゴタゴタが立て続けに起こっているのでなおさら目に付いてしまう。この一連のトラブルのインパクトは、広告収入を主とする百度のビジネススタイルを変化させるほど大きいようだ。

 事件の内容を説明する前に、百度の主な収入源である「推広」(文字通り推し広めるという意味)と呼ばれる広告について紹介しよう。百度では、広告主があるキーワードに対して1クリックあたりの広告費を支払うと、その広告費の順位が百度でWEB検索を行ったときの検索結果順位となる。百度のWEB検索結果は、まず広告費を多く支払った企業サイトのリンクが表示され、その続きに本来の意味の検索結果が表示される。

 この仕組みを利用して、広告を出した企業のライバル会社やその企業を攻撃したいネチズンが、企業名やその企業が関わりやすいキーワードで百度から検索を行い、検索結果で出てきた広告リンクに対し、クリックを多数行う事態が発生している。インターネット利用者が年間1000万人以上ものペースで増えている中国において、百度に支払う広告費は日を追うごとに急上昇している。中国のネチズンたちの間では、先に述べたようなWebサイトリンクへの悪質なクリックで得をするのは百度だけともいわれている。事実、百度の広告収入は1日に300万円以上にのぼると中国メディアは分析する。

 こういう広告費急騰の状況にあって、先に述べた大規模な「悪質なクリック」が行われると、広告効果が上がらないのにクリック数に応じた広告費を支払わなければならないので、広告を出した企業としては由々しき問題となるわけだ。過去にも、支払った広告代の全額返金を百度に求める訴訟がたびたびニュースで報じられてきたが、ここ最近訴訟件数は急増している。

 また、純粋に利用者の立場になって考えても「推広」の評判はよろしくない。そもそも、検索サイトのサービスで最も重要なのは「検索結果が公正なこと」なのに、広告企業がその金額に応じて優先される検索結果を表示する百度に対して不満を漏らすネチズンは多い。

 9月上旬に中国メディアが報じたところによると、百度はこの広告システムを見直すそうだ。はたして、利用者も広告を出す企業も納得させる「ビジネスモデル」を打ち出すことができるのだろうか。

推広登録ミスで百度と著名IT系サイトが大喧嘩

天極網が設けた「百度抗議特設Webページ」

 百度の推広について広告主から不満の声が増えつつあるなか、9月初旬に百度はさらなるトラブルを引き起こす。著名な中国IT系ポータルサイトの天極網(ChinaByte)が百度に推広の登録を依頼したのだが、推広で表示された天極網のダウンロードサイト「天極網下載」のリンク先が、まったく関係のない別のサイト「天空軟件」になってしまったのだ。天極網は「百度は検索結果について悪意のあるコントロールを行っている」と怒りのコメントとともに百度に謝罪を求めた。

 百度が「天極網から提出された推広の登録情報が誤っていた。我々はそれを処理しただけ」と謝罪しなかったことから、天極網は自社サイト内に特設ページを立ち上げて抗議をヒートアップさせてしまった。この「抗議専用特設ページ」によってほかの中国メディアは一気にこのトラブルを注目するようになった。以前から百度だけが儲かり公正な検索結果を表示しない推広システムに不満を持っていた中国のネチズンは、天極網とのトラブルを見てさらに不信感を募らせたのである。

反百度同盟のWebページ。百度が攻撃を受けた2日後にこのサイトも攻撃を受けた

 9月12日、百度のサイトは、ついにDoS攻撃の一種であるSYNフラッド攻撃を受けた。攻撃開始から30分間にわたり百度では検索結果の表示が極めて遅くなるという状況に陥った。さらに、この攻撃の2日後には「百度はすべてのWEBサイトに公正を」のスローガンを掲げた反百度サイト「反百度同盟」が攻撃によって一時的に落ちるという事件が起きている。(25日午後から反百度同盟のWebサイトにアクセスするとウイルス検索ソフトが反応する現象が発生しています。念のため現在はサイトへのリンクを外しています)

 天極網は謝罪を行わない百度に対し、9月19日に百度と天空軟件を相手取り、謝罪と損害賠償を求める訴訟を起こした。天極網が「裁判の判決がすべて」とコメントする一方で、百度CEOの李彦宏氏は「外部(天極網)が百度に泥を塗る行為は甚だ迷惑。百度が正しいかどうかはネチズンが決めること。PVが増えれば百度が正しく、逆にPVが減ればこの事件で百度離れが起きるということだ」と強気のコメントをしている。このように百度は天極網に対して対決の姿勢を強めている。

天極網が電脳報に掲載した1ページの意見広告

 天極網は自社サイトの“特設ページ”だけでなく、第三者的なメディアでも抗議行動を起こした。天極網は中国で最も有名な紙媒体のIT雑誌「電脳報」の広告枠で百度の謝罪要求を訴える意見広告を出した。しかも電脳報の広告枠としては最大の1P枠を使っている。

 一連のゴタゴタに終わりはまだ見えない。どちらが折れるにしても、またこの事件が日本人(とくに中国に進出している日本企業)に与える教訓というのは、中国のIT企業同士でゴタゴタが起きると、「まあまあ、ここはひとつ、おだやかに」とはならず、ヒートアップしてこのような攻撃的な手段にうってでてくるという一例を示しているところにある。

中国のネチズンが語った意外な本音

 中国では今年からブロガーが急増し、「2006年はブログ元年」の様相を呈している。中国のブロガーたちはトラブルで揺らぐ百度をどのように見ているのだろうか。中国のブログではニュースに対する感想がエントリーされることがほとんどない。中国のブログは「WEBサイトのニュース全文をコピーするだけして感想なし」のスタイルが一般的で、今回の百度に関するニュースも単なる紹介で留めているブログがほとんどだった。そのため、ブログでのこの事件に対する中国ネチズンの意見を窺い知ることは難しい。

 中国ネチズンが報道されたニュースに意見するのは「ニュースサイトの感想BBS」である。中国のWEBサイトでニュースを掲載するページには、必ずといっていいほど「記事本文」と「その記事に対する感動や意見を書き込むBBS」という構成になっている。これは日本のSNSのニュース掲載ページに近い。

 中国ではブログがブームになる前からこの体裁が定着していた。多くの著名ポータルサイトでは同じようなニュース専用のBBSが設けられている。中国3大ポータルサイトである「新浪網」(SINA)、「網易」(NetEase)、「捜狐」(SOHU)でも、百度は起こした一連のトラブル、とくに「百度と天極網の戦い」について大きく報じている。これら3サイトは百度とも天極網ともとくに関係はなく、この問題においては第3者的立場のサイトなので、掲載されている書き込みにバイアスがかかっているとは思えない。そこで、これらサイトのニュースの感想欄の書き込みから、この事件に対する中国ネチズンの考えを見てみよう。

 ほとんどの書き込みが、「百度を支持する」「百度を支持しない」というはっきりとした意見になってる。比較的に多かった百度不支持の書き込みでは「検索結果でキャッシュ機能を使いたいときにしか百度は利用していない」(中国Googleのキャッシュ機能はクリックするとNotFoundとなる)や「mp3検索をするときにしか百度を使わない」など、純粋なWeb検索としては「百度は投稿者にとっては使えないサイト」と評価している書き込みが多い。

 少ない百度を支持する人々の言い分は「事件はどうであれ自国のブランドなんだから中国人として支持するのは当然」という意見が大勢を占める。百度不支持の人々のいう「百度は使えない」という意見の反論や「百度は使えるから支持する」という書き込みはなかった(百度のトラブルに対する中国ネチズンの感想とは関係ないが、支持するにしても支持しないにしても中国のネチズンにとって百度は、機能制限のあるGoogleよりも使えないサイトであると評価しているのは意外である)。

 ちなみに中国3大ポータルサイトのひとつ、網易での「この事件、どう思う?」という3択のアンケートにおいて、回答の6割近くが「天極網のいうとおり、百度がやらかした事件」を選び、続いて「またくだらない争いが始まった」がおよそ3割、「天極網の思い込みにより、百度につっかかった」が1割強となった。この統計だけで推測するならば、この事件の感想を書きこんだ3割のネチズンがこういったドタバタ劇に「どうでもいいよ、そんなこと」と辟易しているようだ。

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