この小見出しは過去のことだが事実であった。Windows 95以降にPCを始めたユーザーには耳を疑うような数字だろう。ここに掲載した表で分かるとおり、日本の違法コピー率は1992年で92%、1993年で85%という状況であった。中国におけるそれは、2004年で92%、2005年で86%というデータがでている。1992年から1993年における日本はいまの中国と同じ状況にあったといえる。ならば、中国も日本のように違法コピー率を年々下げていき、ゆくゆくはいまの日本と同程度(2005年のデータで日本は28%)にすることが可能なのだろうか? 海賊版が日本で蔓延していたWindows 95以前の、PCのOSがまだWindows 3.1やDOSが多かった日本を振り返り、中国でいまおきている現状と比較して、中国における海賊版問題の未来を予想しよう。
この記事で「海賊版がどれだけ蔓延しているか」を判断する指標として使っている毎年の「違法コピー率」はBSA(Business Software Alliance)が調査しているデータだ。その算出方法は、まず「その年度のソフトウェア違法コピー数」を「その年度にインストールされたソフトウェア総数」で割った百分率として算出している。ここでいう「違法コピー数」は、「その年度に稼動しているPCにインストールされたソフトウェア総数」から「その年度に正規出荷されたソフトウェアの本数」を引いた差によって求められる。ある国において、「A」というソフトの正規品が発売されていないのにそのソフトの英語版が出回ると違法コピー率は100%になる。「分かりやすい極端な例」と思うかもしれないが、中国ではこういうことが「よくある」のだ。
BSAによる日本の違法コピー率の変化 | |
1992年 | 92% |
1993年 | 85% |
1994年 | 79% |
1995年 | 55% |
1996年 | 41% |
1997年 | 32% |
1998年 | 31% |
1999年 | 31% |
2000年 | 37% |
2001年 | 37% |
2002年 | 35% |
2003年 | 29% |
2004年 | 28% |
2005年 | 28% |
Windows 95が登場する以前にPCで導入されていたOSはWindows 3.1で、パワーユーザーの中にはDOS/Vに注目しているグループがいたが、世間一般的には「NECのPC-9821シリーズを買うか富士通のFMV-DESKPOWERシリーズを買うか」というのが普通であった。このとき、NECユーザーにしろ富士通ユーザーにしろ、過去のソフトウェアの資産、つまりDOS/Vを導入したAT互換PCでは動かない、NECユーザーであればPC-9800対応ソフトウェアを使いつづけるのかそれとも切り捨てるか、というのもPC選びの重要な要素であった。当時、PC-9800のソフトウェアの資産には、まだまだWindowsに移植されていない豊富なDOSゲームや、一太郎やLotus 1-2-3などのビジネスソフトがあった。
さらに遡ると圧倒的シェアを誇っていたPCはNECのPC-9800シリーズだった。このころは、Windows 3.1やその前のバージョンのWindowsがプリインストールされていないPCが普通に販売されていた。もっと昔に遡るとDOSすらプリインストールしていないPCが当たり前だった。つまりWindowsはおろかDOSすらも別売だったのだ。しかし、DOS時代に多くのPCユーザーに支持されたワープロソフトの一太郎や、表計算のLotus 1-2-3、会計ソフト、CADソフト、プログラミングソフトなどビジネスソフトや、ゲームソフトはDOSで動いているので、それを動かすためにDOSを別途購入しなければならなかった。
配布メディアはゲームソフトもビジネスソフトもフロッピーディスク数枚(高価なビジネスソフトでは十数枚というものもあったが)というものであった。Windows 95ですらFDを延々挿し替えてインストールしていたのだ。FDのバックアップは難しい話ではなく、バックアップ元のFDを挿入し、DOS上から「DISKCOPY」と入力し、バックアップしたい空のFDを挿入すれば行えた。
当然ソフトウェアメーカーは違法コピー対策として別のFDにコピーされないようにコピープロテクトを施すが、「コピープロテクトが施されたFDをコピーするためのソフトウェア」というのも販売された。それではとソフトウェアメーカーが別のコピープロテクトをかけると、今度はそれに対応したコピーソフトというのが登場するなど、不正コピーを巡る攻防はまさにいたちごっこの状態だった。中には一太郎のようにユーザーの良心を信じて、コピープロテクトをかけないソフトもあった。
そんな環境下で1992年の「違法コピー率が92%」というデータが報告される。1993年10月7日付けの産経新聞に掲載された“問われる「日本式」”という記事では「違法コピー天国」「罪の意識なし」「群を抜く知的所有権侵害」というタイトルが大きく登場する。「日本では企業や学校内で複数の人間が使うためにコピーするケースが多いのが特徴だ。経費削減で高価なソフトを何枚も買えない、会社のソフトを自宅でも使いたい……といった理由である」と書かれている。
現在、日本人の著作権に対する考え方は変わったのだろうか。直接それを表す統計はないがヒントはある。BSAのリポートには日本を含めた世界の国々の違法コピー率の変化のその原因について毎年考察しているが、日本で改善された理由には「教育と啓蒙活動」と述べられている。ACCSが今年7月に発表したファイル交換ソフトについて利用調査報告で、ユーザーがファイル交換ソフトを利用しなくなった理由に「著作権侵害などの問題がある」(26.4%)、「利用者が摘発されたという報道があった」(8.6%)など、著作権に関わる問題を理由に挙げる回答者が全体の3分の1以上に上がった。1990年代前半の違法コピー天国と言われたころに比べれば、著作権を意識する日本人は増えてきたといえる。
社会的な背景についてACCSの坂田氏は語る。「一般論的に言えば、ゲーム産業が日本で興ったことが大きいと思います。つまり、産業を守るため、必然的に権利(知的財産権)を主張するようになった、ということです。これは、現在の中国、韓国を見ても理解いただけるところで、中国では自国産業としてのコンテンツ・ソフトウェア産業などが弱いため、国内には真の意味での利害関係者が少ない状況であり、権利主張や遵守の意識はまだまだだと思います。一方で、韓国はオンラインゲームや韓流ドラマ、映画を基軸として、ビジネス展開、そしてそれに付随する権利主張が活発になってきていますよね。結局は、その国で著作権ビジネスがどのような状況なのか、に尽きると思います」
ならば浙江省で盛んに行われているアニメ産業や、中国の映画がコンテンツ産業として中国内外で有名にならない限りは産業を守るための知的財産権の主張は自主的にはおきないということだろうか。
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